ヤマト運輸といえば宅配便の最大手。最近は通信販売の発達で取扱い量が増大している。うれしい悲鳴、と言いたいところだけど、現場では本物の悲鳴が上がりそうだという。労働組合が会社に対し、来年度の取扱い荷物量を今年度より超えないように要求したことがニュースとなった。

そのヤマト運輸は2011年から、京都で貸切路面電車を使った荷物輸送を実施している。そこには環境への配慮とサービスアップの工夫があった。筆者がサービス開始日前日の報道公開を取材した様子を見てみよう。

おなじみのクロネコトラックがやってきた

電車にカートごと荷物を移動

宅急便の輸送に使われている路面電車は、「嵐電」の愛称で親しまれている京福電気鉄道嵐山本線。ヤマト運輸の荷物電車が走る区間は西院車庫~嵐山間だ。ヤマト運輸の集約拠点から嵐山方面向けの荷物を積んだトラックが西院車庫に到着する。トラック内には区域別に荷物を搭載したカートが搭載されている。トラックのリフトが電車の乗降口と同じ高さになって、即席の荷物プラットホームになり、カートごと電車に乗り込む。

電車の中にカートが並ぶ

2両編成の1両が荷物用、後ろはお客さんが乗る

電車は嵐山駅へ走っていく。現在は複数の便が設定されているようで。日中は1台の専用電車を仕立て、通勤時間帯は旅客用電車と荷物用電車の2両連結で走る。西院~嵐山間は京都府道112号線で直行できるけれども、車道のほとんどは片側1車線で、朝夕や観光シーズンは渋滞しがち。迂回路としては北側の御池通、南側の四条通があり、片側2車線だ。しかし御池通は短く、四条通は南へ遠回りになってしまう。その点、嵐電は路面電車といってもほとんどが専用軌道だから、渋滞の心配は少ない。

嵐山駅でホームに降りて……

そのまま配達に向かう

荷物電車が嵐山駅に到着すると、カートはそのままプラットホームに降りる。嵐山駅はホームから道路まで段差がないから、そのまま配達地域に向かう。歩いて行くには遠い場所については、リヤカー付き自転車にカートごと載せる。この地域では小型の電気自動車も使われているという。逆方向の便も設定されており、嵐山地域で集荷された荷物は嵐山駅から荷物電車で西院車庫へ向かい、集約拠点行きのトラックに載せられる。

ヤマト運輸と京福電気鉄道の取組みのきっかけは、1997年に発効された「京都議定書」だった。地球温暖化を防ぐために、世界規模で温室効果ガスの排出を削減しようと決まった。ヤマト運輸は自動車の排気ガスを抑制したい。京福電気鉄道はエコな電車を活用してほしい。そこで、トラックを使う区間の一部を路面電車に置き換えた。

現地で観察してみると、この取組みは単なる排気ガス抑制以外にも利点があるように思った。ひとつは前述の通り、専用軌道の多い路面電車で直行する「定時性の維持」。もうひとつは観光地・嵐山の「景観への配慮」だ。ハイルーフの2トントラックが観光地に駐車していると、美しい街並みが損われてしまう。もちろん現地の渋滞の原因にもなる。

電車を使った荷物輸送は、2016年に北越急行と佐川急便が拠点間輸送で提携した。同年に東京メトロ・東武鉄道と宅配便大手3社で輸送実験が行われている。もっと広まってほしいと思うけれども、速達効果や路線のルート、駅の設備などの条件がそろわないと難しい。取材した当時は実験的なサービスかと思ったら、5年以上も続いている。いまや京都名物のひとつかもしれない。また、3月2日には札幌市電でも実証実験が始まった。

なお、嵐山駅にはヤマト運輸の営業所もあって、お土産を買ったらすぐに送れる。「嵐電で運んだよ」というスタンプでも押してくれたら、鉄道ファンは喜んで使うと思う。ぜひ検討してほしい。あ、荷物を増やしたくないんだっけ……。