新幹線「はやぶさ」「こまち」は盛岡駅で分割・併結する。寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」は岡山駅で分割・併結する。これは2系統で単純だけど、1968年頃の東北地方では、10系統以上の列車が分割・併結する運用があった。まるで大河ドラマやミステリー小説の人物相関図のようだった。

いや、人物相関図以上のややこしさだ。列車相関図を作ってみたけれど、1枚では説明しにくい。大きく分けて3グループになった。すべてのグループに関わる列車は仙台発秋田行の急行「陸中」だ。この列車をドラマの主人公に見立てて説明しよう。

急行「陸中」は1961(昭和36)年に上野～宮古間を結ぶ列車として誕生した。経由路線は常磐線・東北本線・釜石線・山田線だった。なんとなく遠回りなルートだけど、後に本格的な遠回り列車として東北地域に君臨する。1966年10月改正で上野駅発着を終了して仙台駅発着となる。1968年10月改正で宮古駅から延長され、山田線・花輪線・奥羽本線を経由し、仙台～秋田間の列車になった。略図でも遠回り具合はわかるけれど、地図を辿ってみると、本当にこんな列車があったのかと感嘆する。

水色の矢印が1968年頃の急行「陸中」。仙台駅を発車した時点では「くりこまグループ」の一員だった

下り「陸中」は仙台駅を7時40分に発車する。単独の列車ではなく、青森行の急行「くりこま1号」と盛行の急行「むろね1号」も連結されていた。「くりこま1号」は青森駅まで東北本線を直行する。ここから始まる列車をまとめて「くりこまグループ」と呼ぼう。

「くりこま1号」「陸中」「むろね1号」のトリオは一ノ関駅でケンカする。仲間外れの「むろね1号」は大船渡線へ行ってしまう。代わって盛駅から到着した普通列車が「くりこま1号」「陸中」に連結され、急行「さかり」となった。急行トリオは維持。ところが、このトリオも花巻駅まで。主人公の「陸中」は1人で生きる決心をして釜石駅へ向かう。

「くりこま1号」「さかり」は急行「はやちね1号」を迎え入れ、トリオ体制を維持した。しかし、初期メンバーと新参の溝は埋まらず、盛岡駅で「さかり」「はやちね1号」が結託し、立ち止まってしまう。「くりこま1号」はひとり寂しく青森駅へ向かった。

海岸線を旅する「陸中」もむなしさを感じ、仲間を求めて盛岡駅に戻る。しかし寄り道している間に、かつての相棒「くりこま1号」は先へ行ってしまった。そこに急行「みちのく」姉妹がやって来た。この姉妹も、盛岡駅から別々の道を歩むという。「陸中」は弘前行の長女と行動を共にする。「くりこまグループ」から「みちのくグループ」への転属だ。

ここで重要人物(列車)として登場した「みちのく」は、じつは3姉妹だった。上野駅を7時45分に出発したものの、末っ子は鳴子方面へ嫁いでしまった。次女は宮古駅に恋人がいるという。寂しそうな長女の弘前行に「陸中」が寄り添った。ところが、熱愛はすぐに冷める。大館駅で「みちのく」は北へ、「陸中」は南へ。2人に何があったのか。おそらく「陸中」の浮気だろう。相手は青森出身の急行「むつ」。「陸中」と「むつ」は運命を感じ、秋田駅でゴールインする。

出会いと別れを繰り返した「陸中」だけど、妻となった「むつ」にも過去があった。青森駅を発車したとき、急行「深浦」という前夫がいた。しかし「深浦」「むつ」の結婚は長続きしなかった。川部駅で離婚し、「深浦」は五能線へ旅立つ。さらに「むつ」の過去をほじくり返せば、1968年10月まで仙台～秋田間の急行列車だった。1968年10月に青森駅で系統が分断され、仙台～青森間は「くりこま2号」となった。

ただし『時刻表復刻版 1968年10月号』を見ると、「むつ」は仙台発「くりこま2号」を継続し、列車番号と列車名だけ変更しているように見える。「くりこま2号」も「むつ」も1等車を連結しているけれど、「むつ」の青森～秋田間だけで1等車は不自然といえそうだ。

急行「むつ」を中心とする「むつグループ」の列車たち。「むつ」については過去の経歴や不自然な1等車の存在から、「くりこま2号」と同一人物(車両)ではないかとの疑惑も

「くりこま2号」は尻内駅(現・八戸駅)で、鮫駅から来た急行「なつどまり2号」を連結している。「なつどまり2号」は青森駅まで。しかし「くりこま2号」と「むつ」が直通していたとすれば、「なつどまり2号」と「深浦」も直通していたかもしれない。その前身は急行「岩木」だ。八戸線鮫駅と五能線鰺ヶ沢駅を結んでいた。

1968年10月頃の東北地方では、このように急行列車の複雑な相関図が作られていた。どれかひとつの列車が遅れると、この関係は破綻する。ダイヤに正確な日本の国鉄(当時)ならではの運行といえそうだ。列車の運行本数が限られる中で、なるべく乗換えなしで乗客を運ぼうという、涙ぐましい努力の結果かもしれない。

今回登場した列車たち

列車名 運行区間
みちのく 上野～鳴子間
上野～宮古間
上野～弘前間
くりこま1号 仙台～青森間
陸中 仙台～秋田間
むろね1号 仙台～盛間
さかり 盛～盛岡間
はやちね1号 釜石～盛岡間
むつ 青森～秋田間
深浦 青森～深浦間
くりこま2号 仙台～青森間
なつどまり2号 鮫～青森間