映画『旅の贈りもの 明日へ』が27日に全国公開される。ロケ地となった福井県では、本日より先行上映が始まった。同作品で登場する489系特急形電車の先頭車両は、ボンネットスタイルの懐かしい姿。ところで、あのボンネットの中身は何だろうか? 重要な機械が入っていたというけれど、現在は485系・489系に見られたボンネット型の特急形電車は少ない。その重要な機械は不要になってしまったのだろうか?

489系特急形電車

新幹線の車両は鼻の長い流線型だ。あれはスピードを出すために空力抵抗を考慮しての形状で、鼻の中には連結器が入っている。東北新幹線と山形新幹線・秋田新幹線の車両を連結するときに使っているし、通常は連結走行しない東海道・山陽・九州新幹線などの車両にも連結器が入っている。万が一立ち往生したとき、救援車両と連結するためだ。

ボンネットの中身は"うるさい機械"だった

ならば485系・489系のボンネットの中に入っていたのも連結器か……と思ったが、実際にはボンネットの下にカバーがあり、その中に連結器が収まっている。では、ボンネットの中身は何かというと、コンプレッサー(空気圧縮機)や発電機などだったという。

架線から電気を取り込む電車になぜ発電機が必要か、不思議に思うかもしれない。ボンネットに搭載されたのは「電動発電機」といって、電気で発電する機械である。「なぜ電気で電気を作るのか?」とややこしくなりそうだけど、「直流モーターを回して交流を発生させる機械」なので、「電力変換器」ともいえる。直流電化区間を走る電車であっても、車内の電灯や空調設備に交流電源が要る。そこで電動発電機が必要になるわけだ。

コンプレッサーは圧縮空気を作るための装置だ。電車はブレーキ装置やドアの開閉に圧縮空気の圧力を使う。また、編成全体に圧縮空気のパイプを通し、パイプが切れたときに自動的にブレーキをかけるしくみに。コンプレッサーは重要な安全装置ともいえるだろう。

ただし、電動発電機もコンプレッサーも騒音が難点。電動発電機はモーターそのものだから、「ウィーン」と大きな音を立てる。コンプレッサーも、「ポンポンポン……」と断続的な音を出す。自転車の自動空気ポンプを大きくしたような音で、古い通勤形電車も駅に停車中、「ポンポンポン……」と音を出していた。

特急列車は客室の静音性にこだわった。だから初期の特急形電車では、うるさい機械は客室と分離し、運転台の前に置いた。これがボンネットスタイルの理由である。ボンネット型バスや、自動車の高級セダンと同じ考え方だった。日本初の電車特急「こだま」に使われた151系もボンネット型。それが485系・489系にも継承されたわけだ。

では、なぜ最近の特急形電車にボンネット型がないのかというと、コンプレッサーも電動発電機も技術の進歩によって小型化・静音化され、車両の床下に格納できるようになったから。ボンネット型車両でも後期に製造されたものは、電動発電機が床下に設置されている。コンプレッサーの場合はドア開閉の電動化などにより、圧縮空気を使う機器そのものが減っていて、これも小型化の要因となっている。

ボンネットが不要になったおかげで、特急形電車のデザインが自由になっただけでなく、先頭車に貫通扉を付け、連結時に通路としても利用できるようになった。

『旅の贈りもの』トリビア : 映画のために489系の引退を延ばした

映画『旅の贈りもの 明日へ』では、主人公が少年時代に乗った列車として489系が登場する。当時、特急列車で旅行することは、少年にとってぜいたくだったはずだけど、文通相手の少女に会うために急ぐという心情に合った演出といえる。

『旅の贈りもの ~明日へ~』
離婚から25年、会社を定年退職した主人公・仁科孝佑は、独りで第2の人生を始めた。身辺を整理していると、少年時代に福井県の少女・美月と交わした絵手紙を見つける。当時、進路で父親と対立した孝佑は、家出して美月に会いに行った。その記憶を元に、孝佑は福井へ向かった。42年前に文通が途切れた理由を知るために……。出演は前川清、山田優、酒井和歌子ほか

しかし映画を撮影する際、すでに特急「雷鳥」は引退し、489系も定期運用を離れていた。映画制作会社が撮影を希望したときには廃車寸前だったという。しかし6年前に公開された前作『旅の贈りもの 0:00発』と同様、JR西日本は映画撮影を快諾。なんと映画のために、運用を離脱した489系の定期検査を実施し、車籍(車両の戸籍)を維持したという。