最近は首都圏を中心にICカード乗車券が普及しつつあり、きっぷを買う機会が減ってきた。しかし、新幹線や在来線の特急列車に乗るときは長距離きっぷを購入する。JRの駅で買うなら「みどりの窓口」だ。大きな駅なら緑色の看板があるし、小さな駅なら緑地に座席のマークの発券窓口が目印になる。
ところで、どうして「みどり」と名付けられたのだろう。赤や黄色のほうが目立つと思うのだが……。JR東日本のマークは緑色、JR北海道は黄緑色だから「みどりの窓口」でいいにしても、JR西日本は青、JR東海はオレンジ、JR四国は水色、JR九州は赤だ。たとえばJR九州なら、「あかの窓口」にしてもいいのではないか。だが、みどりの窓口が緑色なのは全国共通である。
「みどりの窓口」由来はきっぷの色
「みどり」といえば、新幹線や特急列車の多くにグリーン車がある。ゆったりした座席で快適、ただし乗車時はグリーン料金券が必要だ。
なるほど、グリーン券を売っているから、「みどりの窓口」というわけか。
……惜しい! きっぷに関係あるところまでは合っている。みどりの窓口の「みどり」とは、じつはグリーン車も含めた指定席券の色から付けられたものなのだ。現在、みどりの窓口で販売されるきっぷは、そのほとんどが水色に近い色をしている。しかしみどりの窓口が誕生した頃は、もっと黄緑色に近い色だった。
みどりの窓口の誕生は1965年。この時期、指定席の発売に関して革命的な出来事が起きた。台帳管理方式からオンライン発券方式に転換されたのだ。
それまで、指定席に関しては、列車を担当する管理センターに台帳を置いていた。乗客が座席指定券を買うために、駅や旅行会社の窓口で申し込むと、窓口の係員は台帳を持つ管理センターに電話で問い合わせる。空席がある場合は座席番号を聞き、あらかじめ印刷されたきっぷにボールペンで書き込んで発売した。台帳には発売済みの印が残された。
この方法だと、まず台帳を探す時間がかかる。しかも電話の聞き間違いや取り消しの連絡ミスなどによる重複発券をはじめ、トラブルもたびたび発生した。
1964年に東海道新幹線が開通するとたちまち大人気となり、増発は必至となった。新幹線に接続する特急・急行も増え、新幹線が走らない地域も特急が増加。こうなると従来の台帳管理方式ではパンク寸前だ。
そこで、国鉄と日立製作所の共同でコンピューターによる管理システムが開発された。これを「マルスシステム」という。
みどりの窓口はJR以外でも設置できる
マルスシステムは指定券を一括管理するデータベースと、窓口に置かれた端末機で構成され、両者をオンライン回線で結んでいる。
指定券データは座席ごとに「予約あり / なし」で1ビット、「発券済み / 未発券」で1ビットと、わずか2ビットのステータスで管理され、「予約なし未発売」「予約済み未発売」「予約済み発売済み」が瞬時に検索できる。
これらは航空会社の手順を参考にしたという。また、「予約」の1ビットが設置されたことで、プッシュホンによる予約サービスも始まった。
きっぷはあらかじめ印刷されておらず、端末機にミシン目つきロール紙の形で取り付けられており、指定席を確保するたびにプリンタで印刷した。
このきっぷ用紙の地紋が黄緑色だった。印刷済みの従来のきっぷの地色が「赤」や「青」だったため、それらと区別するために、新たに「緑」が選ばれたといわれている。
つまり、みどりの窓口とは、「マルス端末による指定券発売システムを備えた窓口」という意味になる。マルス端末は改良され続けて現在も使われている。JRだけではなく、旅行会社でもマルス端末を備えていれば、「みどりの窓口」と表示できる。また、元は国鉄の路線で、現在は第3セクターに転換された駅でも、そのままマルス端末を持っていればみどりの窓口がある。
ちなみに、かつて「指定席は始発駅で買ったほうが早くて確実」と信じられていた時期もあったが、これは台帳管理方式の時代の話。電話の手間がないだけ発券が早かったから、これは事実だったかもしれない。現在はオンライン方式のため、全国どこでも窓口の場所による差異はないと思われる。