関東鉄道の常総線は全国でも珍しい「非電化複線」区間を持つ路線だ。上野からJR常磐線快速で約40分の取手駅が起点で、終点はJR水戸線と接続する下館駅。全線非電化で、取手駅から水海道駅までの17.5kmが複線となっている。この区間内にある守谷駅では、つくばエクスプレスとも交差する。沿線の宅地開発も進んでおり、ラッシュ時は6分間隔で列車が走る。とっくに電化されてもおかしくない規模だけど、列車はすべてディーゼルカーだ。
鉄道路線は、「単線 / 複線」「電化 / 非電化」で分類できる。複線化も電化も初期投資額が大きい。しかし複線化したほうが列車の運行回数を増やせるし、運行回数が多いほど電化したほうがコストを節約できる。だから都会では複線・電化が圧倒的に多く、運行回数の少ないローカル線は単線・非電化が多い。単線・電化は地方の幹線やローカル私鉄に見られる。
関東鉄道常総線の電化できない事情
ところが複線・非電化になると珍しい。その中の1つ、関東鉄道常総線の場合は列車の運行本数が多く、電化したほうが良さそうに見える。それなのに電化されない理由は、同路線から近い茨城県石岡市に気象庁の地磁気観測所があり、「直流方式で電化すると地磁気の観測に影響をあたえるため」だ。
日本の鉄道の電化区間は、直流電化と交流電化の2種類ある。直流電化は低コストで導入できる利点があるが、地磁気の観測データにノイズが混ざってしまうという。この観測データの影響はかなり広範囲で、常磐線の取手以北、つくばエクスプレスの守谷以北が交流電化されたのもこれに起因している。
だったら関東鉄道も交流電化すればいいのに……、と思われるかもしれないが、交流は直流よりも車両製造費が高くつく。直流電化方式は、交流の電源を変換する変電所の設置費用が高いものの、車両製造にかかるコストは低い。交流電化方式は、地上設備は安く作れるけれど、車両製造コストは高くなる。そのバランスで考えると、運行本数が多い路線では直流電化が適し、少ない路線では交流電化が適している。常総線は運行本数が多いので、交流電化ではコストが割高になってしまうという。
非電化複線は"ワケあり路線"が多い!?
その他の「非電化複線」の路線も、電化されなかった理由を追っていくと興味深い。室蘭本線や筑豊本線、平成筑豊鉄道伊田線の場合、炭鉱からの輸送が目的で、貨物列車のために複線化された。しかし石炭輸送の終息と共にローカル線となり、一部の区間以外は電化に至らなかった。
東海交通事業城北線は貨物列車専用のバイパス路線として作られたものの、鉄道貨物が衰退してしまい、旅客用に転用された。
伊勢鉄道は名古屋方面と紀州方面を結ぶ路線で、V字型に迂回していた関西本線と紀勢本線を短絡する目的で作られた。JRの特急や快速が頻繁に走るため一部が複線化されているけれど、これらの列車がディーゼルカーのままだから、いまのところ電化する必要がない。
札沼線はもともと非電化のローカル線だった。しかし札幌への通勤圏や大学への通学路線として輸送量が増えて、一部区間が複線化された。ただし、2012年春までに複線区間を含む一部区間が電化される予定となっている。
日本全国のおもな「非電化複線」区間(2011年9月現在)
路線名 | 区間 | 備考 |
札沼線(JR北海道) | 八軒~あいの里教育大 | 2012年春に電化予定 |
函館本線(JR北海道) | 五稜郭~七飯 森~鷲ノ巣 山崎~黒岩 北豊津~長万部 |
非電化時代に複線化し電化されず |
室蘭本線(JR北海道) | 長万部~洞爺 有珠~長和 稀府~東室蘭 沼ノ端~三川 由仁~栗山 |
炭鉱輸送時代に複線化された区間も |
常総線(関東鉄道) | 取手~水海道 | 地磁気観測所の影響で電化されず |
城北線(東海交通事業) | 勝川~枇杷島 | 非電化貨物線を転用 |
伊勢線(伊勢鉄道) | 河原田~中瀬古 | 通過する列車がディーゼルカーのみ |
筑豊本線(JR九州) | 折尾~若松 | 炭鉱輸送時代に複線化 |
伊田線(平成筑豊鉄道) | 田川伊田~直方 | 炭鉱輸送時代に複線化 |