元国税職員さんきゅう倉田です。好きな行動経済学の言葉は「人は将来価値を割り引く」です。

行動経済学に「サンクコスト」という概念があります。ダン・アリエリー&ジェフ・クライスラー『無料より安いものもある』(早川書房)によると、「いったん何かに投資すると、その投資を簡単に諦められなくなる心理」を指します。

それまでに投資したお金を失いたくないという考えは、人の合理的な選択を妨げます。

ダンと100ドルのゲーム

ダンは「100ドルのゲーム」を学生相手によく行うそうです。

これはふたりのプレイヤーに100ドルを入札してもらうゲームです。5ドルからスタートして、互いに5ドルずつ入札金額を上げることができます。

より高い金額を提示したプレイヤーは100ドルをもらえます。しかし、ふたりのプレイヤーはゲーム後に、提示した金額を支払います。

あなたなら、いくらまで提示しますか?

ダンは、各地でこのゲームを行い、スペインでは100ユーロを590ユーロで売りました。 多くのプレイヤーは、ゲームの途中で損失を回避できないことを悟ります。

しかし、それまでに投資した金額を諦めたくない心理が働き、ゲームを降りることができません。サンクコストですね。

例えば、あなたが95ドルを提示すると、相手は100ドルを提示しました。あなたはどうしますか?

次に提示する金額は105ドルなので、ここで勝って100ドルをもらっても5ドル損します。そこからさらにゲームが続くと、損失はどんどん膨らんでいきます。しかし、95ドルで降りると、95ドル損します。

ゲームの構造上、賭け金を上げていくと必ず損をするゲームとなっています。そのことに初手で気付かなければいけません。

最も良い方法は、ゲームの親になることですが、子の場合は、もう一人のプレイヤーと談合する選択がベストとなります。

つまり、事前に100ドルを分けることを約束してから、5ドルを払ってゲームに参加して、もう一人は0ドルのままゲームを降りるという選択です。利益の95ドルを二人で分けることができます。

親が談合を阻止するために、利益の譲渡を禁止するか、あるいは、分けることのできない物品を賞品にした場合はどうでしょう。

例えば、賞品が499ドルのiPadだったら、手に入れるためにいくらまで提示するでしょうか。

プレイヤーふたりの提示額の合計が499ドル以下ならば、プレイヤー側が勝利すると考えるかもしれません。

iPadを手に入れられなくとも、プレイヤーの支払う金額を最低にすれば勝利と考え、5ドルでドロップするかもしれません。

一方で、目の前の他人が得をすることを、自身の損失と考える人もいます。iPadは欲しくないけれど、相手に得をさせないために、提示金額を釣り上げるプレイヤーがいてもおかしくありません。

賞金が賞品に変わると、ゲームに勝つのは途端に難しくなります。どのような場合においても大切なのは、あなたのライバルがもう一人のプレイヤーと親であることを忘れないことです。

初代iPadの適正な価格をアンカリングしたスティーブ・ジョブズ

スティーブ・ジョブズが初代iPadを発表したとき、iPadの市場価格はまだ存在しませんでした。

ジョブズは商品発表会で「どんな専門家に聞いても、このiPadの価値は999ドルだと言われた」と言いました。スクリーンにも「999ドル」とずっと表示されています。

しかし、販売価格は「499ドル」。プレゼンを見ていた人たちは、その"お得感"に狂喜乱舞したとか。

市場価格がない場合、人はその商品の適正な価格を評価できません。だから、499ドルで行える他の体験と比較します。まったく新しい体験や価値を提供する場合、他の499ドルのものと比較されると不合理な結果を招きます。

ジョブズは、999ドルというアンカーを打つことによって、499ドルで初代iPadを提供することが、いかに素晴らしいことなのかを伝えようとしたのかもしれません。

参照 : 『無料より安いものもある』(早川書房)

新刊『お金持ち 貧困芸人 両方見たから正解がわかる! 元国税職員のお笑い芸人がこっそり教える 世界一やさしいお金の貯め方 増やし方 たった22の黄金ルール』

東洋経済新報社/1,320円
【6000人の吉本芸人の中で「一番お金に詳しい芸人」が3年かけて書いた! 】【芸人になる前は、なんと元国家公務員の東京国税局職員! 】【たった1冊で、大人なら絶対知っておきたい「お金の黄金ルール」が全部わかる! 】【読みやすさ、わかりやすさNo1!こんなに平易な「お金の入門書」は他にありません! 】購入は コチラ