元国税局職員さんきゅう倉田です。嫌いな詐欺は「持続化給付金詐欺」です。 「持続化給付金」制度が創設されました。コロナの影響で上が半分以上下がった個人事業者が、最大100万円を国からもらえる制度です(法人は200万円)。

ただ、個人事業者なら誰でももらえるわけではありません。

今年の月別の売上が、去年の月別の売上と比べて半分以下になっていることや、確定申告をしていること、事業所得でないとならないければ、去年から事業を行っていなければならないなど、さまざまな条件が設定されています(詳しくは、ぼくのTwitternoteで条件を見てください)。

また、売上が半分以下に下がっていても、そもそもの売上が低ければ、満額の100万円はもらえません。ぼくの知り合いの芸人さんで、給付金の計算結果が5万円だったため、「10万円未満の給付金は切り捨て」のルールにひっかかってもらえない人がいました(その後、ルールが変わってもらえるように)。

さらに、個人事業者やフリーランスのような働き方でも、事業所得ではなく、雑所得や給与所得で確定申告をしている人はもらえませんでした(これもルールが変わって、業務委託契約で国民健康保険に加入しているような場合は、給付金がもらえるように)。

全く新しい制度なので、条件や運用方法に瑕疵(かし)が散見されます。そのため、不正受給を斡旋する人たちが大量に現れました。

蔓延る給付金詐欺

詐欺師は本来、給付金をもらえない人や、給付金はもらえるけれど満額の100万に達しない人に対し、LINEやInstagram、TwitterなどのSNSで下記のような勧誘をしているようです。

「個人事業者じゃなくてももらえるようにできます。税務署や労基署で、"家で服を売っています""アパレルをしています""服を売ってメルカリに出してます"などと伝えてください。報酬は給付金の20%をいただきます」

「みんな! 持続化給付金が誰でも絶対100万円もらえる方法があるんやけど、手数料30%で、代理でやってくれる人紹介できるで! 」

ぼくのところにも、不審に思った人たちから情報提供がありました。一瞥して不正受給を促しているとわかりますが、行政や司法が介入したという話は聞きません。給付金の源泉は、みんなの税金です。不正受給の防止と詐欺師の刑事責任追及に全力を注いでほしいと思います。

自分にできることは、このような不正受給を周知することだと思い、直接、不正受給の案内を受けた女性に話を聞きました。

有名なマルチ商法をやっている知人に給付金詐欺を勧められたAさん

Aさんに、化粧品などを販売するマルチ商法の知人から、こんなLINEが届きました。

「私の友達で給付金とかに詳しい人がいるよ! 私もお金のプロだし、その人は元々金融関係? で働いていたけどめっちゃ信用してる人で! その人がちゃちゃっと細工してくれるから、それで持続化給付金ほぼ100%で100万円もらえるよ、まあでも手数料で30%はその人に入るけどね! 」

「細工する」などと言っているところを見ると、罪の意識がないように思えます。不審に思ったAさんも、困窮した状況だったため、直接話を聞くことにしたそうです。

「いままでの半分しかお給料もなくほぼ無職で、私からすれば嬉しい話で。つい舞い上がってしまい、源泉徴収票のスクショをラインで送ってしまいました。細工をすれば100万は確実だからね! などたくさん言われて……。」とAさんは語りました。

しかし、信頼できる友人から止められて、我に返ったそうです。

  • 元国税芸人さんきゅう倉田の「役に立ちそうで立たない少し役に立つ金知識」 - 第162回「ゆめゆめ信じることなかれ 持続化給付金詐欺」

「優しいフリをしてカモにされているだけだよ。そんなの勧めてくる人とは付き合ったらだめ。申請時にバレずに後からなにかあっても、そいつらは何もしてくれないよ。万が一罰金を払うことになっても、きっとお金を返してくれないし、結局、Aが負担することになるから。」

Aさんが、給付金の申請をやめる旨を伝えると、詐欺師を紹介してきたマルチ商法の知人は烈火のごとく怒ったそうです。

「せっかく、紹介してやったのに。オレの顔に泥を塗ったな」

Aさんは、20代前半です。怪しいと思いつつも、友人がとめてくれなければ、申請をしていたかもしれません。そして他にも、ぼくの親しい芸人には元芸人の同期から同様の誘いがありました。Aさんのように、詐欺師にそそのかされて、不正受給をする人たちはたくさんいると思います。

これだけ詐欺が広がっているのに、報道や行政からの公示はありません。詐欺が横行していることを、行政がもっと周知するべきだと感じました。

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