元国税局職員 さんきゅう倉田です。
好きな小説の書き出しは「親譲りの繰越欠損金で、子会社の時から損ばかりしている」です。
この記事を書いている頃は、誰が給付金をもらえるのか、いくらもらえるのかが世間で話題になっていました。売上が減少した法人には200万円、個人事業者・フリーランスには100万円が給付されることが決まり、さらに住民税非課税世帯や非課税の水準が2倍以下に落ち込んだ人は30万円がもらえることになり、官公庁からポスターも公表されていました。
しかし、30万円がもらえることに関しては、インターネット上ですこぶる評判が悪かった。
「誰がもらえるのかわからない」「一部の人だけがもらえるのは不公平だ」「もらえる人が少なすぎる」といった意見も多く、結果的には改正されることに。4月27日時点で、住民基本台帳に名前のある人全員に、10万円が給付されることになりました。
発信力がある人の言葉
ぼくは、誰にどんなふうに給付や補助があるかについて、個人的に意見を発信することはありません。
そんななか、30万円の給付が決まったときに「一律に配るべきだ。そのあと、お金持ちからは確定申告で回収するべきだ」という、自称経済アナリストや著名人の意見を目にしました。積極的に調べたわけではなく、Twitter上でぼくのところに届いたので、ある程度拡散されていると思います。
ぼくは政府が決めたことに対して批判的な意見を述べることありません(好きでも嫌いでもなく、興味がないから)。ただ、税理士やその他の税金関係者以外から、お金持ちからは確定申告で給付金を回収すればいい、といった的はずれな意見が流布しているは看過できません。確定申告にはそのような機能はないのです。
それを肩書のある人が投稿することによって、一般の方が確定申告に対して誤った認識を持つと、せっかく確定申告や税金のことをわかりやすく伝えている人間の努力が水泡になってしまいます。これは悲しい。
まずは、しっかりと理解してから
さらに、たとえ確定申告にそのような機能が備わっていたとしても、給付金の過程を考えると、意味がありません。
給付金を一律に配る場合、預金口座を把握するために、お金をもらう人は申請をしなければなりません(行政は頑張れば預金口座を把握することができるが、コストがかかる。また、マイナンバーで預金口座がわかるという意見があるが、国民全員が紐付けを完了しているわけではない)。つまり、お金持ちはのちに確定申告で返せばいいというのなら、給付の申請をしなければいいわけです。
わざわざ申請して頂戴した10万円を、お金持ちが確定申告で自主的に返すでしょうか。余暇が膨大でも、返すことが決まっているのなら、最初からもらわない選択をするはずです。つまり、10万円を受け取ったお金持ちは、返すつもりはないはずです。
そこで、お金持ちなのに10万円を受け取った人は、確定申告で返さなければいけない、というルールを作ったとします。
読者のみなさんは認識があると思いますが、会社員やパート・アルバイトでも、確定申告を要さない場合があります。それはお金持ちであっても同じです。年収が2,000万円を超えていない限り、確定申告をしないで良い人もいます。そうすると、本来確定申告が不要なのに確定申告をし、10万円を回収されるという人が現れることになります。
このように勝手にお金をあげて、でもやらん、返せ、という乱暴な措置を行政が取ることは、考えられません。確定申告の機能としても手続きとしても、無理がある主張です。
よく考えてから言わないと
結局、収入に関係なく一律10万円が給付されることになりました。
その金額やバランスに関して思うところはありますが、どんな制度も良いところと悪いところがあるので、ぼくは言及しません。ただ、多くの人が反対したことで、政府の決定が覆り、法改正などを行う行政の人達が翻弄されていることは認識しておいてほしいです。翻弄された分だけ、コストがかかり、それはやはり、我々の納めた税金から支払われているからです。
よく考えてから意見を言わないと、自分自身が損をするかもしれません。
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