JR東日本「トランスイート四季島」の上野駅発着が確定し、鉄道各社局で新型車両導入が発表されるなど、明るい話題で始まった6月だけど、後半は和歌山電鐵「たま」駅長の死という悲しいニュースがあり、さらに東海道新幹線での腹立たしいニュースで塗り替えられてしまった。梅雨がないはずの北海道も、鉄道に対する見通しは霧の中……。7月は楽しいニュースだけになりますように。

和歌山電鐵貴志川線を走る「たま電車」

貴志駅は「たま」駅長がモチーフの駅舎に建て替えられた

動物駅長の元祖「たま」駅長、ローカル線のネット情報発信の先駆者だった

6月22日、和歌山電鐵貴志駅で勤務した猫駅長「たま」が死んだ。16歳だった。急性心不全だという。猫の16歳は人間の年齢に換算すると80歳に相当するとのことで、4月に傘寿のお祝いをしたばかりだった。和歌山電鐵は6月28日に社葬を行い、今後は2代目「たま」こと「ニタマ」が引き継ぐという。

「たま」駅長が就任した2006年は、日本のインターネット世帯普及率が50%を超えた年でもあった。この頃から日本のローカル鉄道会社も公式サイトを開設し、沿線のアピールを始めている。「たま」駅長にあやかり、全国のローカル鉄道で動物駅長が誕生し、公式サイトで沿線のアイドルとして活躍している。

ローカル線沿線は毎日のように話題があるわけではない。そこで動物駅長に沿線の紹介などを語らせるという手法が定着したわけだ。ちなみにTwitterのサービス開始も2006年。日本展開の本格化は2008年だ。

世界中のインターネット利用者にとって、猫は大人気である。「たま」駅長や他の動物駅長の活躍は、インターネットがメディアとして急成長した時代の象徴ともいえる。

「トランスイート四季島」は「上野発の夜行列車」に

JR東日本は6月6日、クルーズトレイン「トランスイート四季島」の準備状況を発表した。おもな内容は、「上野駅に専用ラウンジを開設」「料理監修者と総料理長の決定」「トレインクルーの募集開始」の3つ。2017年の運行開始に向けて、着々と準備が進んでいるようだ。

上野駅に「トランスイート四季島」専用ラウンジが設置される

これら3つの中でも「上野駅に専用ラウンジを開設」に注目したい。具体的な設置場所は「上野駅構内」との情報だけだけど、これで「トランスイート四季島」の出発駅が上野駅であると確定した。この決定には納得できる理由と、意外に思う理由がある。

納得できる理由は、上野駅が長い間、東北方面などへ向かう長距離列車の始発駅・終着駅として機能していたからだ。とくに上野駅中央改札口から続く地平ホームは、ヨーロッパのターミナル駅を連想するような行き止まり式のホームになっていて、「頭端式ホーム」「櫛形ホーム」とも呼ばれている。いかにも「ここから始まり」「ここで終わり」という構造で、鉄道の旅の情景としてふさわしい。

中央改札口から段差なしにホームに行けるというバリアフリー構造も見逃せない。「トランスイート四季島」は料金単価も高く、余生をぜいたくに過ごしたい高齢者も多く利用するだろう。車いす利用者や杖を携える利用者もいるはず。もちろん高齢者だけではなく、バリアフリー構造は大きな荷物を抱える人、ベビーカーを押す人にもありがたい。

高架ホームからはエスカレーターやエレベーター、階段を使っての移動となり、むしろ地平ホームは遠いともいえる。ただし、同日に発表されたサービス内容として、「上野駅に自家用車で到着した場合に駐車場へ回送」「自宅やホテルから上野駅までのハイヤー」などが挙げられていた。通勤電車には旅情がないから、「『トランスイート四季島』に乗るなら上野駅から旅を初めたい・終わりたい」と考えるだろう。

上野駅発着が意外に思えた理由は、東京駅や品川駅など、他にも魅力的な候補があるからだ。東京駅は日本の中心。赤レンガ駅舎の荘厳な雰囲気は、日本を代表する旅の玄関口である。東京ステーションホテルとの連携も考えられる。前日から最高級のホテルでゆっくり過ごし、隣接する駅から旅立つという物語性は良い。上野東京ラインがあるから東北方面へも発着できる。高架区間に制限があるとしても、東海道線・湘南新宿ラインを経由するルートも使えるだろう。

品川駅は羽田空港とリニア中央新幹線との接続、駅構内の広さなどが魅力的だ。ただし、羽田空港アクセスは京急電鉄との接続になってしまい、JR東日本にはメリットがない。リニア中央新幹線から東北方面への旅の接続点として、品川駅をもっと演出しても良さそうだけど、リニア中央新幹線はJR東海だから、こちらもJR東日本のメリットにはなりにくい。しかし、利用者のメリットを考えると品川駅の空港アクセスは使える。特急「成田エクスプレス」も停まる。上野駅だと、成田空港からは京成電鉄「スカイライナー」の接続になってしまう。

ともあれ、寝台特急「北斗星」が8月で運行を終え、「カシオペア」の存続も難しそうな状況で、「上野発の夜行列車」が新たに誕生するとは感慨深い。石川さゆりの歌のごとく、津軽海峡も見せてほしい気がする。JR東日本は「トランスイート四季島」について、北海道上陸や北陸方面への乗入れも検討していると報じられている。

地下鉄日比谷線直通の新型車両は20m車両、現行の18m車両はどうなる?

東京メトロ・東武鉄道は6月17日、東京メトロ日比谷線・東武スカイツリーラインで相互直通運転を行う新型車両の仕様をそれぞれ発表した。形式名は東京メトロが13000系、東武鉄道が70000系となる。どちらも基本仕様は共通で、デザインで独自性をアピールしている。先立って告知された通り、従来の18m車8両編成ではなく、大型20m車7両編成となり、列車の長さは144mから140mへと若干短くなる。しかし、連結通路の数が1つ減るため、混雑時の輸送力はほぼ同じと思われる。

同日、近畿車輛が東武鉄道70000系の製作者に決定したことも発表された。近畿車輛では初の東武鉄道向け受注となるようだ。同社は近畿日本鉄道のグループ会社で、製造する車両も関西大手私鉄向けが多い。ただし旧国鉄・JR東日本向けなどもあり、全国展開している。東京メトロの実績も多く、現在の日比谷線03系の後期生産車両は近畿車輛と東急車輌が製造している。

近畿車輛は2014年11月の時点で、東京メトロ日比谷線の次期新型車両の受注も発表している。同じ仕様なら同じ会社で……という形で、東武鉄道70000系も受注したようだ。

東京メトロ03系(写真左)と東武鉄道20070型(同右)

新型車両の誕生は楽しみだ。その一方で、現行車両の東京メトロ03系、東武鉄道の日比谷線直通車両20000型・20050型・20070型の動向が気になる。車体長18m以下の中古電車は、地方私鉄の古い車両を置き変えるために人気となっているからだ。熊本電気鉄道に譲渡された東京メトロ銀座線01系(車体長16m)は、台車を新型に交換し、新たにパンタグラフを設置するなどの大改造を受けている。

03系や20000型であれば、ほぼ無改造で4両編成が組成できそうだ。でも2両編成となると、運転台付き車両にモーターがないため、動力車の中間車に運転台を移設するなどの大改造が必要になるだろう。どちらも1988年からの導入で、初期車両の車齢は27年になるけれど、地方都市ならまだ活躍できそう。今後の動向に注目したい。

東海道新幹線の車内で焼身自殺 - 「悪意対策」は必要か?

6月30日、東海道新幹線の東京発新大阪行「のぞみ225号」で男が焼身自殺した。非常ボタンが押され、列車は神奈川県小田原市内で停止。1号車の最前部で火災が起きたため、乗客は後部車両に避難した。残念なことに、男とは無関係の女性が1人、煙を吸って亡くなった。その後の報道で、男は10リットル入りのポリタンクにガソリンを入れて持ち込み、それを浴びて自ら火をつけたとされている。男は年金額に不満があったなど、犯行に至る動機を探る報道が続いている。

東海道新幹線N700系

このニュースが報じられた当日から翌日にかけて、まず東海道新幹線ならびに鉄道そのものに対する安全対策の議論が全国紙を中心に起きた。「オリンピックが行われる国で、高速鉄道にテロ対策はないのか、乗車前に身体検査をすべきではないか」などだ。しかし、テロの対象は新幹線とは限らない。1995年、オウム真理教が地下鉄サリン事件を起こした。韓国では自殺志願者が地下鉄車両に放火した後、怖くなって逃げた(その後逮捕)。この火災で死者192名、重軽傷者148名という被害を出し、地下鉄電車2編成が廃車となった。

東海道新幹線の該当車両はN700系で、デッキに監視カメラがあり、各車両とも2カ所に消火器が配置されているという。非常ボタンもあるけれど、「火災の時は使わないでください、乗務員に連絡してください」と書かれていた。これは、火災発生時にトンネル内で停車すると、むしろ乗客と煙の逃げ場がなくなり危険なためだ。延焼しつつも脱出したほうが安全、という考えがある。

「のぞみ225号」については非常ボタンが押され、異変を察知した運転士が列車を停止させて客室を確認。火災を発見して消火器で消し止めている。この冷静な判断は賞賛された。その後の報道では、新幹線の輸送量やダイヤから考えて、事前の荷物検査は不可能という論調が増えている。新幹線車両や座席の難燃素材の使用、運転士の善処も含めて、JR東海側の落ち度は少ない。そのJR東海は今後、客室内にも監視カメラを設置すると発表している。そのくらいしか思いつかない、というところだろう。客室素材を座面も含めて絶対に燃えない金属にするなんて、さすがに無理だ。

日本の鉄道は、過去の事故を徹底的に分析し、対策を講じてきた。ここでいう「事故」とは、操作ミスや施設の不備、構造上の欠陥であり、いわば過失による事故だ。今回も国土交通省は「事故」と認定しているけれど、これは輸送障害が火災の場合は事故として扱うという省令にもとづく。輸送障害はまず事故であり、原因が事件か、そうではないか、という切り分けになっている。

事故が悪意によって引き起こされた場合、犯罪者は強い意志を持ち、どんな安全策もすり抜けてしまう。起きるかどうかわからない悪意について、予測も対策も難しい。悪意ある者の異常行動に注目して逃げるとか、消火器の使い方を練習しておくなど、私たちひとりひとりの危機管理が重要になる。結局のところ、究極の安全対策は悪意を察知する能力に尽きる。その場合、監視カメラは適当だろうか? オリンピックを見据えるなら、乗務員を増やし、防犯と接客サービスの向上を兼ねる方法も検討すべきだろう。

赤字路線廃止の槌音か - 「JR北海道への提言」まとまる

度重なる事故・不祥事が問題視されているJR北海道について、2014年6月26日に「JR北海道再生推進会議」が設置された。日本郵船会長を議長とし、北海道知事、弁護士、大学教授、商工会議所連合会会頭などが列席。1年間の議論を終え、2015年6月26日にJR北海道へ「JR北海道への提言」が提出された。

その内容は膨大で多岐にわたるため、大まかにまとめると、真の問題点は「安全について本社と現場の問題点や意識が共有されていない」「経営幹部に長期的な視点がなく、スピードアップなどの利益を優先して地道な安全対策が後回し」「安全規則が乗客の安全を守るという意識に欠け」「設備の老朽化、劣化の放置」「構造的な問題により安全確保の資金が足りない」こととされた。

このうち、最後の「構造的な問題」として、持続的に経営するために事業分野の選択と集中を求めている。簡単にいうと、「利用客数の少ない路線は切り捨て、利用客数の多い路線に安全のための投資をせよ」となる。

「JR北海道への提言」には本文と別紙資料があり、どちらもJR北海道のサイトから閲覧できる。鉄道ファンにとって気になるのは、「選択と集中」がどこで行われるか、つまり「廃止される赤字路線はどこか?」という点だろう。北海道新聞によると、JR北海道は留萌本線の沿線自治体に廃止を打診したという。

留萌本線の終点、増毛駅

別紙の44ページ(PDFの10ページ)に、2014(平成26)年度の区間別輸送密度の表がある。その表によると、輸送密度500人以下の路線は留萌本線・日高本線・釧網本線のそれぞれ全区間、札沼線の北海道医療大学~新十津川間、根室本線の滝川~新得間・釧路~根室間、石勝線新夕張支線だ。留萌本線で廃止交渉が始まったとすると、今後は輸送密度500人以下の路線になんらかの動きがあるだろう。

ちなみに、1980年に成立した国鉄再建法では、「輸送密度が4,000人/日未満の地方交通線はバス転換が適当」として廃止対象となった。この数字をJR北海道の路線網に当てはめると、生き残れる区間は函館本線小樽~旭川間、千歳線白石~沼ノ端間・南千歳~新千歳空港間、石勝線南千歳~新得間、根室本線新得~帯広間、室蘭本線沼ノ端~長万部間、札沼線桑園~北海道医療大学間、江差線五稜郭~木古内間となる。ほとんど札幌圏しか残らない。

救いがあるとすれば、「JR北海道への提言」に「安易な路線の休廃止は進めるべきではない」という文言があることだ。さらに、乗継ぎに考慮した可能な限りのサービスの確保、代替輸送の確保、交通網維持の使命を考慮すべきと続く。たとえば札幌から道東へのルートのうち、南千歳~帯広間は輸送密度4,000~8,000人で、帯広~釧路間は2,000~4,000人。だからといって、帯広~釧路間を廃止すれば、南千歳~帯広間の輸送人員まで減るかもしれない。

そう考えると、輸送密度2,000人が運命の分かれ道になりそうだ。500人以下は絶望的。今後のJR北海道の動向が気になる。