北陸新幹線開業・上野東京ライン開業などで盛り上がった2015年3月。しかし予定されたことが予定通り起きただけで、新鮮なネタは少なかった。そこで今回は、ダイヤ改正で目立たなかったけど興味深いニュースをあらためて紹介したい。新年度に向けた新型車両や観光列車の話題も多かったけれど、月末に飛び込んできた山手線の新型車両登場、「SLやまぐち号」客車復刻新製の衝撃は大きかった。
山手線の新型車両E235系が到着、試運転開始
3月26日、山手線に投入予定の新型車両E235系が初めて都内にやって来た。総合車両製作所新津事業所で製造され、信越本線・上越線・高崎線経由で上京した。山手線の車両基地があるJR東日本東京総合車両センターに向かったようだ。翌々日の28日、同センターにて報道公開された。編成番号01の量産先行車で、今年秋からの営業運転に向けて試運転を続けるという。通勤通学時間帯は無理だろうけれど、日中や夜間に目撃する機会は多そうだ。
設備や性能、デザインなどは既報の通り。中吊り広告スペースは消え、その場所には吊り手を下げるバーが取り付けられた。吊り手はラインカラーのウグイス色、シートの背もたれも同色で、乗った瞬間に山手線とわかる色使いだ。フリースペース床面はピンク色で、車いすマークの他にベビーカーのサインがある。ここは大型スーツケースを持った乗客にも助かる場所になるだろう。
中吊り広告が撤去された代わりに、従来はドア上のみだった液晶画面が窓上や貫通扉の上部にも設置されている。このうちロングシート上部の3画面は連動し、広く見せられるという。新たな広告表現が可能になり、クリエイターの腕の見せ所となりそうだ。この液晶画面への広告配信方式も最新式となっていて、E231系は拠点駅停車中にミリ波通信で更新していたけれど、E235系ではWiMAX回線を使って走行中に随時更新できるという。
車体外観はホーム柵を意識したデザインとなった。LEDヘッドライトは運転席上部に移動してホームから視認しやすくなり、従来はヨコ方向に巻いていたラインカラーは乗降扉部のタテ配置として見やすくなっている。
技術的には屋根上と床下にも注目したい。屋根上のパンタグラフ付近は架線の監視装置が設置され、サハ(モーターなし車両)の床下には線路の監視装置やレールの計測システムが搭載されている。在来車のサハの床下はスカスカだったけど、だんだん機器が増えてきた。これらの機器は列車の運行をスムーズにする装置だ。東京の大動脈を守るという、JR東日本の責任が現れている。
電車の「顔」ともいえる運転台回りは面全体がブラック。ラインカラーで輪郭をはっきりさせ、下部から上部へ気泡のようなグラデーションが施された。このデザインは昨年7月の発表時から、「スマホみたい」とネットで話題になっており、実車の写真をもとにスマホや腕時計に加工したコラージュが多数登場している。車内のデジタルサイネージはプロのクリエイターを刺激し、車体外観はアマチュアクリエイターを興奮させているようだ。かっこいいか悪いかは個人的主観だけど、いずれにしても鉄道ファン以外にも話題になっており、JR東日本としては大成功といえそうだ。
今後、E235系の導入が進むことになれば、山手線の既存車両E231系500番台が余剰となる。早くも11両編成から1両外した10両編成が中央・総武緩行線に転属されている。E235系は11両中1両がE231系サハの改造だ。山手線E231系500番台はこの流れでサハ1両を抜き、中央・総武緩行線などへ随時転属していくと思われる。
JRグループダイヤ改正、その影で引退する列車・車両
3月14日、JRグループのダイヤ改正が実施された。毎年春に行われる大きなダイヤ改正で、今年は北陸新幹線長野~金沢間開業、上野東京ライン開業、寝台特急「トワイライトエクスプレス」の運行終了、寝台特急「北斗星」の定期運行終了がお茶の間でも話題になった。次いで東海道新幹線の最高速度引上げも報じられている。これらのニュースは昨年から告知されており、おおむね予定通り実行されたといえる。当連載では、あまり大きく取り上げられなかったけれど、鉄道ファンとしては注目したいニュースを2つ挙げたい。
1つ目は「日本最長普通列車」の距離短縮の話題。これまで日本最長「距離」の普通列車はJR西日本の山陽本線371Mで、運行営業キロは岡山~新山口間の約315kmだった。この記録が3月のダイヤ改正で崩れた。運行区間が岡山~徳山間に短縮され、運行営業キロは246.6kmとなった。
「日本最長普通列車」といえば、JR北海道の根室本線2429Dも代表的な列車だ。この列車の「最長」は8時間27分という運行時間を指す。運行距離だと山陽本線371Mのほうが約7km長かったが、371Mは電車なのでスピードが速く、所要時間は5時間45分だった。371Mの距離短縮で、根室本線2429Dは運行距離も所要時間も日本一の座を獲得した。
2つ目は東海道線E217系電車の運行終了だ。もともと横須賀線・総武線快速として導入された電車だけど、湘南新宿ラインの増便・横須賀線の減便によって余剰となったE217系が東海道線に転用された。横須賀線時代の青白帯が湘南色の緑・橙となり、E231系・E233系とともに東海道線を走行しつつ異彩を放っていた。しかし上野東京ライン開業による運行車両見直しの結果、東海道線から撤退したようだ。
E217系の登場は1994年。古い車両は製造から20年以上が経過している。山手線のE231系500番台より古い車両で、横須賀線・総武線快速からも引退の潮時かもしれない。そうなると後継車両は何か? 筆者は山手線に導入されたE235系、あるいはE235系の派生車種ではないかと予想する。その理由は、E235系で採用された車内デジタルサイネージと中吊り広告の廃止だ。
じつは、中吊り広告は路線単位の販売だけでなく、いくつかの路線を組み合わせたセット料金が設定されている。このうち「3線群中吊り」の山手線群セットには、山手線の他に総武快速線、常磐線、つくばエクスプレスが組み合わされている。
この枠組みが存続するなら、E235系を総武快速線に導入すると車内広告をセットで売りやすい。常磐線快速のE231系、常磐線中距離電車のE531系、つくばエクスプレスの車両も、あと5年程度で製造から15~20年となる。車内広告革命に着目するなら、E217系とE235系などの動きも追いたい。
「SLやまぐち号」に新型客車、異例の「復刻」
3月30日、JR西日本は山口線の「SLやまぐち号」に使用する列車の新造を発表した。なんとSL全盛期の客車「マイテ49」「オハ35」「オハ31」を復刻したデザインになるという。従来のSL列車向けの客車は、大井川鐵道やJR東日本のように旧型客車をそのまま使うか、余剰客車の改造が主だった。新造は異例で、なおかつ新造車両として旧型車を復刻させるという事例も珍しい。JR西日本のSL運行に対する本気を感じさせるニュースだ。
復刻される車両は、「マイテ49」が1両、「オハ35」が3両、「オハ31」が1両。「マイテ49」は戦前に製造され、東海道本線の特急列車に使われた展望車。実車はJR西日本が保有しており、2006年公開の映画『旅の贈りもの 0:00発』にも"出演"している。「オハ35」も戦前生まれ。改良を重ねて戦後も製造された。昭和50年代まで常磐線の普通列車など首都圏でも使用されていた。現在は大井川鐵道でSL列車に使われていて、いわゆる「旧型客車」の代表格でもある。「オハ31」はもっと古く、国鉄の前身である鉄道省時代から製造された客車だ。
これらの旧型客車は、車体は鋼鉄、客室は木造となっている。大井川鐵道の列車に乗ってみると、ゴトゴトという音や低速時の揺れの少なさなど、旧型客車ならではの重厚感がある。座席や壁の木材は温もりを感じさせ、座席の布やクッションもやわらかい。こうしたレトロな雰囲気に加え、染みついたタバコやニスの香りなども混じる。さすがににおいは新製車両で再現できないから、新たな香りで歴史を刻むことになるだろう。
もっとも、プレスリリースのパース図や発表されている設備などによると、完全な復刻ではなさそうだ。外観や内装に旧型車のデザイン要素を取り入れつつ、要所に最新の快適な設備を採用している。「SLの音や煙を体感できるよう開放型展望デッキや開閉窓を設置」とわざわざ書くからには、空調設備が完備される前提だろう。プレスリリースのシルエットを見ると、屋根上のデザインが異なり、空調機器が搭載されそう。トイレは洗浄機付きとなる。「オハ31」にも展望室がついているようだ。そもそも「オハ」ばかりで「オハフ」がない。車掌室はないのか? いやそんなことはないと思うけれど。
車体は「復刻」の名の通り鋼鉄製だろうか? 最新のアルミ製やステンレス製になってしまうだろうか? 「復刻」というからには鋼鉄製とし、あの重厚感を再現してくれると期待したい。中途半端に最新技術を注入するくらいなら、本気で古いまま作ってほしいとも思うけれど、ユニバーサルデザインやサービス上の問題で難しいかもしれない。
運行開始は2017年の予定。完全復刻か復刻調かはともかく、SL列車の継続運行に力を入れるという姿勢がうれしい。新生「SLやまぐち号」を楽しみに待とう。
日本の車両と車両メーカーが海外進出を強化
新型車両、引退車両、観光列車など国内のニュースが多い一方で、海外に向けた日本の鉄道関連企業の動きが活発だ。三菱重工・日立製作所ら5社連合が、カタールで初となる地下鉄システムを受注。その5社連合のうちの1社、日立製作所はイタリアで鉄道車両や信号システムを製造する「アンサルドブレダ社」「アンサルドSTS社」を買収する。日本車輌と住友商事はインドネシアのジャカルタ都市高速鉄道向け電車96両を受注している。
これらのニュースは、日本企業の活発な海外展開を印象づけた。さらに、月末にはJR東海がミャンマーへ気動車を譲渡することも発表している。キーワードは「日本とヨーロッパの協業」「日本の鉄道技術のアジア進出」といえそうだ。
カタールはペルシャ湾のほぼ中央、アラビア半島から湾内に突出したカタール半島の国だ。首都はドーハ。サッカーファンならずとも「ドーハの悲劇」で知られる都市だ。人口は約130万人。ドーハメトロを受注した5社連合は三菱重工、三菱商事、日立製作所、近畿車輛、そしてフランスのタレスだ。内訳は三菱商事と近畿車輛が車両を製作、三菱重工が軌道や駅設備、日立製作所は総合検測車やメンテナンス設備、タレスは信号設備や運行管理センター、自動料金収受システムなど。いわば日仏連合という形態である。また、日立はイタリアの鉄道関連メーカーを買収し、欧州との連携を深めつつある。
ジャカルタ都市高速鉄道南北線の車両を受注した日本車輌と住友商事のタッグチームは、米国や台湾、フィリピンでも実績がある。インドネシアでは同国内の企業と合弁企業を設立し、インドネシアの鉄道発展に協力している。ジャカルタでは約20年ぶりに日本製新造車両を輸入する。今後は南北線や新たに計画中の東西線、インドネシアの他の都市にも日本製車両をはたらきかけていくという。
JR東海の気動車のミャンマー譲渡は、ミャンマー鉄道省の要請で実施される。武豊線の電化開業で気動車が高山本線と太多線に移籍し、押し出される形で廃車となる車両が対象とされた。今後もJR東海は廃車車両をミャンマーなどへ譲渡する意向のようだ。日本の中古鉄道車両は東南アジアで人気が高く、日本の車両を訪ねるツアーも開催されている。
新幹線の輸出に関しては事業規模の大きさや外交的要素が大きく影響し、動きが遅いけれど、民間企業主導の都市鉄道進出や中古車両のビジネスが盛んになっているようだ。日本の鉄道技術や車両が諸外国の役に立っている。そんなニュースを日本の鉄道ファンとして誇らしく思う。こうした事例が日本の鉄道技術の信頼につながり、新幹線輸出につながることを期待したい。
未来へ向けた動きにも注目!
3月は他にも、新型車両として大山ケーブルカー、南海電気鉄道8300系、筑豊電気鉄道5000形などが報じられた。観光列車関連ではJR九州の「或る列車」運行開始日決定、上越新幹線「GENBI SHINKANSEN / 現美新幹線」、「トワイライトエクスプレス」車両を再利用した団体臨時列車、「カシオペア」車両を使った岩手の旅なども紹介された。
鉄道会社の経営関連では、北陸新幹線開業にともなう第3セクター鉄道の開業や伊賀鉄道の公設民営化問題も注目を集めた。嵯峨野線新駅に関連した東海道本線支線廃止、北海道新幹線に向けて渡島大野駅(新函館北斗駅)の在来線ホーム供用開始、道南いさりび鉄道の許可申請、常磐線被災区間の復旧見通しなど、未来への準備も進んでいる。
今後はJRグループダイヤ改正の評価が行われ、1年後のダイヤ改正に向けた準備が始まる。2016年3月のダイヤ改正がいまから楽しみだ。