本連載の第90回では「適切な問題を見つけるための4つの問いとは」と題し、問題そのものについて考えるための問いの使い方をお伝えしました。今回は本当に解くべき問題が見つかったと仮定し、再び問いの力を使って問題の原因を分析する方法をお話します。

「皆さんもよく知っているとおり、うちの支店では今年に入ってから販売ペースが急激に落ちてきており、このままでは今期の売上目標達成が危ぶまれる。今一度、支店の全員が気を引き締め直して販売ペースを上げていってほしい」

会社の営業会議などでトップからこれと似たような発言を聞いたことがあるという人は少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。この発言は問題の原因を分析した形跡がなく、「もっと頑張れ」という根性論に過ぎないので論外かもしれませんが、効果的な問題解決には原因分析をしっかり行うことが欠かせません。

そこで、以下では問題の原因分析において陥りがちな失敗と、それを回避するために使える問いの使い方を紹介します。

陥りがちな失敗その1. 分析が浅く、具体的な打ち手を出せない

これは先ほど挙げた例のように、問題の原因分析を完全に怠っていたり、原因分析が浅かったりして打ち手の抽象度が高すぎて具体的なアクションに落とし込めないというケースです。それを回避するには、「それはなぜか?」という問いを何度も投げかけて深堀りするのが効果的です。

先ほどの例で言えば、次のように問いを繰り返しながら問題の原因を深堀りしていきます。
「うちの支店では今年に入ってから販売ペースが急激に落ちている」
「販売ペースが急激に落ちているのはなぜですか?」
「売上の7割を占める主力商品で欠品が相次いで起こっており機会損失が生まれているからです」
「その商品で欠品が起きているのはなぜですか?」
「部品の仕入先でストライキが起きているからです」
「その仕入先でストライキが起きているのはなぜですか?」
「慢性的な人員不足のところに、うちから一度に大量発注したのがきっかけになったようです。さらに従業員の間では、商品の納品期日と検収基準が厳し過ぎるという不満もあるようです」

ここまでくれば発注方法や納品期日、検収基準を見直すことで仕入先のストライキを解消させて仕入を再開したり、他の仕入先を探したりするなどの具体的な打ち手の検討に入ることができるでしょう。そのような具体策を導けるところまで粘り強く「それはなぜか?」という問いを繰り返すことが重要です。

陥りがちな失敗その2. 分析に漏れがあり、本来打つべき手を認識できない

問題の原因を考える際に重要な観点や範囲が漏れてしまい、有力な打ち手の策定に繋げられないというケースです。これには「他にはどんな観点があるか?」「考慮する対象に漏れはないか?」といった問いで視野を広げることが効果的です。

例えば商品が思ったほど売れないという場合に、すぐにその原因を「競合する商品に比べて値段が高いからだ」と決めつけて値下げしてしまっては、販売数量は増えないのに単価だけが下がってしまったり、商品や会社のブランドを棄損させてしまったりすることもありえます。

そのため、売れない場合には「価格(Price)に原因はないか?」という問いに加えて「製品(Product)」や「流通(Place)」、「販促(Promotion)」といった要素についても「売れない理由の原因がないか?」と探ってみるとよいでしょう。なお、ここで挙げた4つの要素は頭文字のPを取って「マーケティングの4P」というフレームワークとして有名なものです。

このようなフレームワークは世の中の全ての問題に適用できるわけではありませんが、ビジネスの問題を精査する際に使えるものも数多くあるので調べておくとよいでしょう。

陥りがちな失敗その3. 分析に重複があり、打ち手の対象が重なって効果が弱まる

こちらは先ほどの分析の漏れとは逆に、分析の観点や範囲に重複があって無駄が生じてしまうケースです。この場合には原因分析の際に「その観点や範囲には重複はないか?」と改めて問うことが効果的です。

例えば「自社の新卒採用において、現時点で目標人数を50人下回っている」という問題に対して「理系学生と女子学生へのアプローチが響いていないのではないか。各々の層へのアプローチの早急な見直しが必要だ。」などと原因分析していたとすると、「理系の女子学生の扱いはどうするのか」という疑問が生まれてしまいます。

さすがにこの例のような簡単なものであれば気が付くでしょうが、もっと込み入った問題であれば重複に気が付かずにスルーしてしまうケースは意外と発生するものです。

そうならないように、「その観点や範囲には重複はないか?」と意識的に問うことを忘れないようにしましょう。なお、先ほど挙げたようなフレームワークを使うことでも重複を防げるので活用してもよいでしょう。

陥りがちな失敗その4. 些末な原因に捉われて効果的な打ち手に力を注げない

これは原因としては確かに存在してはいるものの、さほど重要でないところに捉われてしまっているためにもっと重要な原因を見落としてしまうケースです。これを防ぐには「それは本当に重要な原因なのか?」と問い続けることが重要です。

例えば入社から半年の若手社員3名が立て続けに同じ仕事で同じミスを犯してしまった時に、「3人とも新人で経験が少ないからミスが起きたのだろう」と原因分析したとします。その場合には今後、同じミスが発生しないように注意するだけで片付けたり、新入社員研修のケーススタディーに内容を組み込んだりといった対応をすることになるかもしれません。

しかし、「なぜミスが起きたのか」というのを経験やスキルのせいにするのは簡単ですが、その背後の業務プロセスや社内規則、或いは資料のフォーマットなどを見直すことで根本的に同様のミスが発生し得ないようにすることができるかもしれません。

そうした根本的な対応を考察するためにも、原因分析する際には「それは本当に重要な原因なのか?」とか「もっと他に根本的な原因はないだろうか?」と問うことが求められます。

本稿では問題の原因分析において陥りがちな失敗と、それを回避するための問いの活用方法をお伝えしました。ご自身の職場での問題を分析する際の参考になれば幸いです。