本連載の第84回では「リモートワークをベースにした働き方への転換で緊急事態宣言を乗り切ろう」と題し、リモートワークをベースとした働き方がどのようなものか、そしてそのメリットには何があるのかということをお伝えしました。今回はリモートワークを導入する際、予め考えておくべき「問い」についてお話します。
一部地域で緊急事態宣言が発出されてから二週間が経ちましたが、依然として新型コロナウイルスは全国で猛威を振るっています。感染力が従来のものより高いとされている変異種の市中感染も気になるところです。その一方、感染を抑制するためのリモートワークの実施率は前回の緊急事態宣言時より下がっているようで、企業と個人にはリモートワークへの移行の本気度が試されています。
ところがコロナ禍の前からリモートワークの制度があったり、少なくとも検討していたりしていた企業を除けば「リモートワークに移行したいのは山々だが、社内に知見がないのでどのように進めたらよいのか分からない」という悩みを抱えたまま仕方なく社員の多くを出社させ続けているというところも多いでしょう。
過去の知見がないとリモートワークの導入は難しいというのも確かに一理あります。それならば他社でリモートワークの導入に携わった経験のある人を新しく雇用したり、外部の専門家の力を借りたりできればよいのですが、諸事情によりそれが難しいという場合もあるでしょう。
それでは知見がない上に採用や専門家に頼ることもできない場合は諦めるしかないかというと、そんなことはありません。リモートワークの導入を自社で成功させるために使えるのが「問い」の力です。リモートワークを自社で導入する上で適切な「問い」を立てて、それに対する答えを出すことができれば成功確率を上げることができるでしょう。
ではリモートワークの導入を成功に導くための「問い」とはどのようなものでしょうか。以下では、最低限押さえておくべき3つの「問い」を紹介します。
問い1. リモートワーク導入の目的は何ですか
最初に考えるべき、かつ最も重要な問いはこれです。ともすればリモートワーク自体を目的として捉えてしまいそうですが、それは本来、何か別の目的を達成するための手段のはずです。というのも、一口にリモートワークといっても目的が異なれば導入の仕方や運用方法、実施期間、コストのかけ方などの考え方が変わるので、詳細を詰める前にまずはここを明確にしておくことが重要なのです。
例えば、この問いへの回答が「直近の数か月程度の短期的な視点に立った感染症対策」である場合と、感染症対策に加えて5~10年後の長期的な「ビジネスの海外展開を見据えた、グローバルでの優秀な人材の獲得」の場合では、今後導入するリモートワークの形は大きく異なるはずです。
問い2. リモートワークに移行する対象範囲はどこまでですか
次に、先に挙げた目的を達成するのに必要なリモートワークの範囲を定義します。その際、もし目的が「感染症対策」で「出社比率を7割減らす」ことであるならば、まずは部署や人にフォーカスして、リモートワークに移行できそうなところを対象範囲として検討すればよいでしょう。
一方、最終的な目的が「グローバルでの優秀な人材の獲得」である場合は、既存の社員のみを対象にして検討を進めてもあまり意味はないでしょう。採用や研修、評価などの人事業務や、ターゲットとする人材にやってもらいたい業務領域など、まずは業務にフォーカスしてリモートにすべき対象を検討することが求められるでしょう。
問い3. リモートワークに必要な最低限の要件は何ですか
こちらの問いは目的と対象範囲によって変わってきますが、ここで重要なのは「最低限」の要件を定義しておくことです。インターネット上には情報が溢れていて、リモートワークを高度なレベルで実施しているような華々しいケースを目にする機会もあるでしょう。
しかし、そのような企業も何もないところから一足飛びに今のような業務を実現できたわけではないでしょう。そこを勘案せずに、他社の表面的な事例を真似て最初から完璧な要件を求めてしまうと、いつまで経ってもリモートワークに移行することができないのではないでしょうか。
そのため、最初は「最低限、ここだけ押さえておけば自社に必要なリモートワークを実現できる」という要件を徹底的に突き詰めることをお勧めします。最低限必要とはいえないが「あった方がいいもの」については一旦リモートワークに移行した上で、運営しながら段階的に導入していけばよいでしょう。
リモートワークへの導入というと、ついパソコンやネットワークといったインフラや社則などのルールといった実務的なところから手を付けてしまいがちです。しかし、その前にまずは目的や対象範囲、最低限の要件といったポイントをしっかり議論して固めておくことで自社に最も合ったリモートワークを実現させましょう。