本連載の第181回では「あなたは何が得意ですか?」という話をお伝えしました。今回は得意なことと関連しますが、最近流行りの「リスキリング」についてお話します。

「リスキリング」という言葉を聞いたことがあるという方は多いのではないでしょうか。リスキリングとは「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と経済産業省で定義されています。

リスキリングは特にデジタル化、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の文脈で語られることが多いようです。技術革新やビジネスモデルの変化が著しい昨今において、ビジネスパーソンが継続的にパフォーマンスを発揮し続けられるか否かはリスキリングできるかどうかにかかっているのではないでしょうか。

たとえばAIの領域に絞ってみても、既にボードゲームのチェスや将棋、囲碁などの領域ではプロであっても人間ではAIに勝てないところまでAIは進化しています。言語の翻訳においても、無料で使えるDeepLというツールを使うと英訳・和訳はおろか、他の言語間での翻訳も瞬時に、それも高い精度で行えます。また、最近ではMidjourneyやStable DiffusionといったAIアートツールも出てきており、これらのツールでは「こんな絵がほしい」という要求を文章で伝えると、高精細な画像を瞬時に作ってくれます。

これらのツールに対して、「でも所詮は人間には及ばないんでしょう?」と思っている人は一度、ツールを使ったものがどのようなアウトプットか、ぜひ見てみてください。きっと想像を遥かに超えるクオリティーのアウトプットを目にすることでしょう。しかもそれが、人間では遠く及ばないレベルのスピードで完成させられるのです。

「自分にはボードゲームも翻訳もアートも関係ない」と言っている場合ではありません。今まさにご自身が行っている仕事を、AIなどの最新技術を使うことによってスピードやクオリティーを圧倒的に上げることができるかもしれないのです。それは裏を返せば、そうした最新技術を急ピッチで使いこなせるようにならないと、それらを駆使する競合他社に業務生産性や品質において圧倒的な差をつけられかねないことを意味します。

ところで、「AIが人間の能力を超えるなら人間がやる仕事はなくなるのではないか?」と言う人もいます。長い目で見ればそういう時代が到来する日が来るかもしれませんが、当面の間はそこまではいかないだろうというのが筆者の見立てです。

少なくともそのような時代が来るまでの間は人間がAIを使って仕事をする、人間とAIの共存共栄の世界が続くと考えられます。先ほど、画像生成AIのMidjourneyやStable Diffusionといったツールでは、AIは人間の指示を元に高精細の画像を瞬時に作ってくれると説明しました。つまり、「何を作るのか」「どのようなものを作るのか」といった指示は、あくまでも人間がAIに与えなければなりません。

ところが全く同じツールを使っていても指示の内容によって、出てくるアウトプットは全く異なるものになります。慣れていなくてもそこそこのアウトプットは出せますが、完全にイメージ通りのものを作成するのは難しいかもしれません。しかし、指示の出し方が上手な人は自分の思い描いているイメージ通りのものを作成することができます。

このように、AIへの指示出しの巧拙がアウトプットの質に直接的に影響することを理解し、使いこなせるように日々精進する必要があります。それは特別な業界や職種に限らず、多くのビジネスパーソンが今後身に着けることを求められるスキルになるかもしれません。

ご自身の仕事に関係するAIなどの最新技術にアンテナを張って情報収集に努め、その技術特性やご自身の仕事への導入可能性と導入した場合の効果、そして使いこなすにはどのようなスキルを習得しなければならないのかといったことを検討し、必要に応じてすぐに使いこなせるように準備しておくとよいでしょう。