本連載の第156回では「会議の中でリアルタイムに議論を資料化しよう」と題し、会議中に資料を仕上げることのメリットと、そのために必要なことをお伝えしました。今回は、議論の資料化以前にそもそも内容が頭に入ってこない状況はなぜ生まれるのか、どう対応すべきか、という話を「論点」をキーワードにお話します。

「……ここまでの議論を踏まえて、あなたの意見をお聞かせください」

会議中、他の参加者の話を聞いているはずなのに、どういうわけか内容が全く頭に入ってこないという経験はありませんか。お恥ずかしながら、私も新人の頃にそういうことがありました。意見を求められて話してはみたものの、内容があまりにも薄くて会議後に先輩からきつく叱られてしまった苦い経験です。

ではなぜ、このようなことが起きてしまうのでしょうか。会議の内容が頭に入ってこない理由の半分は聞き手にありますが、実はもう半分は聞き手ではなく話し手側にあります。それはつまり、「そもそも分かるように話していない」ということです。では、分かるように話していないというのはどういうことでしょうか。こちらはさらに「論点の問題」、「論理の問題」、「表現の問題」の3つ要素に分類できます。本稿では、この中の「論点の問題」について深堀りします。

議論の論点が何かが分からないと、聞いている側としては「一体何について話しているのかが理解できない」という状況が生まれます。

そして論点が分からない原因の中でもよくあるのが、「そもそも論点が明らかになっていない」ということです。会議の参加者が好き放題に発言して収集がつかないのは、多くの場合において論点が明示されていないときに起きます。

たとえば「今日は新入社員の教育について考えましょう」とだけ言って会議を始めてしまうと、Aさんは新入社員の教育の「内容」について話し、Bさんは「体制」について話し、Cさんは「教える側の負荷」について話すなどと言ったことになり、話が全く噛み合わなくなってしまいます。

そのような場合には、たとえば「新入社員にいち早く戦力になってもらうため、最低限習得さえるべきスキルは何か」などと論点を絞って明示することが必要です。そして、最低限必要なスキルを定義できたら、そこで今度は「そのスキルを身に着けさせるために教えるべき内容は何か」と次の論点に移る、といった進め方をするとよいでしょう。

但し、このような場合においても、個々の論点について結論を出した上で次の論点に移るようにしないと、やはり混乱を招いてしまいます。

会議で「勘定系システム刷新の是非」が論点だったはずなのに、いつの間にか議論が「現行の勘定システムの使い勝手の悪さ」に移り、「システムが使いにくいことで如何に現場が苦労しているか」という苦労話に移り、さらに「そういう意味では、勘定系システム以上に経費精算システムの方をなんとかする必要があるのでは」などと結論が出ないままに移り変わっていくような状況は好ましくありません。

そもそもの論点を蔑ろにして参加者が好き勝手に発言した上で、「あなたはどう思いますか」と問われたところで、一体何について発言したらよいのか分からなくても無理はありません。このように論点が定まらないような場合には、議論の論点は何かをホワイトボードやパワーポイントなどで常に見えるように書いておくことで勝手に変遷してしまうのを防ぐようにするのが効果的です。

また、先ほどと同様に「勘定系システム刷新の是非」を論点として設定している場合に、参加者から次のような発言があったとします。

「現場からすると使いやすいのが一番なのですが、そういう意味では慣れている現行システムから変えるとなるとちょっと抵抗がありますね。また、今のシステムから変えるとなると業務プロセスの見直しも必要になりますが、その負荷に耐えられるほど現場に余裕がなくて。うちの部署は元々5人で回していますが、その内一人はもうすぐ産休・育休を取得するから実質的に4人になってしまうんですよ。だから、まずは人を採用してもらって、教育して一人前に育てるところからやってもらわないと回らないですよ」

このように一気にまくしたてられてしまっては、そもそも何の話だったか忘れてしまうこともあるでしょう。注意深く話を分析すると、この話の論点はシステム変更に伴って想定される「一時的な使い勝手の悪化に懸念にどう対応するか」と「現場の負荷増加にどう対応するか」という2つのはずですが、周辺情報が無駄に多いために聞き手の理解が追い付かないということが考えられます。

聞き手としては、常に「その話の論点は何か」を意識して話を聞いて、それを話し手に確認するのがよいでしょう。それによって自身の理解度が上がるだけではなく、議論の生産性が上がることも期待できます。