いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。
今回は、三鷹のコーヒー専門店「コーヒーハウスぽえむ」をご紹介。
1966年創業、日本初のコーヒーチェーン
昭和といえば、カフェではなくて喫茶店。そして昭和の喫茶店といえば、避けては通れないのが「コーヒーハウスぽえむ」。1970年代に青春時代を過ごした方には、馴染み深いお店ではないでしょうか?
中央線沿線の阿佐ヶ谷に、最初の店舗がオープンしたのは1966年のこと。そののち、コーヒー専門店としては日本で初めてフランチャイズ展開をしたことで知られています。
阿佐ヶ谷の店はもうありませんが、僕も中学〜高校のころには地元の荻窪店や高円寺店(こちらは現存)をよく利用していました。つまり青春時代、友だちと時間をつぶしたりするときなどに重宝した"居場所"だったのです。
どうでもいいけど「ポエム」ではなく「ぽえむ」というあたりも、70年代っぽくていいですよね。
だから1990年代半ばに三鷹に引っ越し、駅から決して近くはない場所に三鷹下連雀店を発見したときにも、なんだか感慨深く感じたのです。「へー、こんなところにも残ってるのか」って。
「近いから、いつでも行ける」と思っているうちに引越しちゃったんで、結局は行けなかったんですけどね。
でも、だからこそ気になっていたのです。そこで、近隣に用事のあった3月下旬のある午後、ふらっと訪ねてみたのでした。
三鷹駅南口の中央通りを、駅を背にして直進すること15分ほど。消防署を通り過ぎた最初の角を左折すると、「珈琲専門店 ぽえむ」と書かれた黄色い看板が目に飛び込んできます。
大きなガラス窓に茶色い木枠、赤レンガ、そして印象的な「poem」のロゴと、どれをとっても70年代と同じ。あえて時代に迎合しないところに好感が持てます。
足を踏み入れてみれば、すぐ正面に販売用のコーヒー豆が。そして、その向こう、すなわち右側が厨房になっています。
中央から左側、そして手前にはテーブル席がズラリ。左側の席から見渡してみると、店内が予想以上に広いことがわかります。
時刻は14時近く。お客さんはひとりだけで、時間がゆったりと流れている感じ。
なお、奥の席にいたそのお客さんはタバコを吸っていましたが、空間に余裕があり、換気もしっかりしていたからか、まったく気になりませんでした。
さて、お昼を食べていなかったのでハムサンドを、そして暑い日だったこともあってアイスコーヒーをオーダーすることに。
ところで待ち時間には本を読んでいたのですけれど、気になって仕方がないことがあったんですよね。というのも、店内に流れる曲がピンク・レディーばっかりなんですよ。
ヒット曲だけでなく、あまり知られていない曲もかかるので、マスターが熱心なファンなのかなぁなどと考えもしたのですが、やがてアナウンサーの声が。NHK FMのピンク・レディー特集をかけていたようです。
でも、なんかミスマッチな感じでおもしろかった。
それはともかく、驚かされたのはハムサンドのクオリティです。喫茶店のハムサンドというと、市販のペラペラしたハムとレタスが入った無難な感じのサンドイッチを思い浮かべませんか?
僕はそんなイメージを抱いていたのですが、出てきたハムサンドには分厚い鶏ハムがはさまっていたのです。あとから気づいたのですが、たしかにメニューには「自家製ハム」と書かれていますね。
凝縮された肉の味わいが、ほどよく焼かれたパン、レタスと見事に絡み合います。食べごたえもあるし、スッキリとした苦味のアイスコーヒーとの相性も抜群、これはいいな。
帰り際、マスターに声をかけてみました。
「10数年前、三鷹に住んでたんですよ」 「おお、そうなの?」
思っていたよりフレンドリーな方だな。
「で、そのころからずっと気になってたんです」 「だったらなんで来なかったのよ?」
楽しそうに笑われました。 おっしゃるとおりでございます。 でも、また近くに行ったら寄らせていただきます。居心地のよさを知ってしまったからね。
●コーヒーハウスぽえむ 三鷹下連雀店
住所:東京都三鷹市下連雀4-15-25
営業時間:9:00~19:00(コロナ感染対策のため変更あり)
定休日:水曜日