いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。

今回は、武蔵境のうどん屋さん「手打ちうどん 鷹」をご紹介。

  • 駅から遠くても安定した人気 「手打ちうどん 鷹」(武蔵境)

昭和52年からこの地で営業を続ける老舗

最寄駅は武蔵境なのですが、歩いたとしたら30分くらいかかると思います。でも、南口から国際基督教大学行のバスに乗ればほんの数分。「二中前」停留所を降りるとはす向かいに、「手打ちうどん 鷹」というその店はあります。

決して恵まれたロケーションではないかもしれないけれど、昭和52年からこの地で営業を続ける老舗。非常にコシの強い、自家製の手打ちうどんを食べさせてくれるお店です。

  • この看板が目印

三鷹のはしっこに住んでいた15年くらい前までは、家から近かったこともあってよく通っていたんですよ。だから懐かしくて、また食べたいとずっと思っていたのです。

そんな気持ちが高じて荻窪から自転車で向かったのは、とある平日午前のこと。人気店だけあっていつも繁盛していることは知っていたので、11時の開店直後を狙ったのでした。到着したのは11時10分くらい。ふふふ、完璧だぜ。

ところが驚くべきことに、その時点で4、5名のお客さんがいらっしゃったんですねえ。さすがだわ、みなさん僕と同じように、お昼時に混雑することをご存知なんですね。

  • 広々とした小上がり席

店内に入ると正面にカウンター席があり、その向こう側が広い厨房。右側には4人がけのテーブル席が2卓あって、左側には2列の小上がりがズラリと並んでいます。そちらのキャパシティにはとても余裕があるので、全席合わせれば50名くらいは余裕で収まりそう。

昔も小上がりの方を利用していたので、今回もそちらに座ることにしました。ちなみにそちらは掘り炬燵式になっているので、足をゆったり伸ばせて快適です。

  • これにしよう

さて、メニューをチェックしてみると、なんとなく品数が増えているような……。気のせいかもしれないけれど、「あれもいいし、これもいいな」って感じでついつい目移りしてしまいます。「以前はなにを食べてたんだったっけなあ?」などと記憶を呼び戻しながら考えていたら頭が混乱してきたので(よくあること。困ったものである)、最初に目についた「天ざる肉汁うどん」にしてみました。

これを食べるのは初めてかも。

  • パーテーションで仕切られても空間には余裕が

待っている間に眺めていた店内の様子は、昔とまったく同じです。変わったところがあるとすれば、感染予防のアクリリパーテーションがズラリと並んでいたことかな。15年前は、まさか世の中がこんなことになるだなんて思ってもいませんでしたが、しかしそれでも懐かしい。長きにわたり、こうして経営を続けられているのは純粋にすばらしい。

  • 天ざる肉汁うどん

などと考えていたら、やがて「天ざる肉汁うどん」が運ばれてきました。手前に、豚バラ肉やたまねぎがたっぷり入ったつけ汁、左側に並ぶ天ぷらはキス、なす、えびの3種。その向こう側に薬味があり、右にこんもりと盛り上がったざるうどんが鎮座しております。

  • この迫力

そうそう、このうどんですよ。ツヤツヤ輝くその姿を目にしただけで、気持ちがぐいぐい上がってきます。そこで早速いただいてみることにしたのですが、そのときまた、忘れかけていた記憶が蘇ってきました。

  • このうどんが長い

箸でつまんで引き上げるのですけれど、一本のうどんが非常に長く、いつまでたっても切れることがないんですよ。手をぴんと垂直に上げても、まだまだ続くよどこまでも状態。そうねえ、こういう感じだったよねえ、なにせ手打ちですからねえ。

まず、なにもつけずに食べてみると、小麦の香りがすっと抜けていきます。噛むとコシの強さを実感できるのですが、いわゆる武蔵野うどんとはどこかが違う。適度にモチモチしていて、滑らかでもあるので、それがこの店ならではの個性になっているのです。

  • つけ汁もおいしい

そしてつけ汁が、そんなうどんと相性抜群なんですよ。よく絡んでくれるし、濃いめの味がうどん本来の風味をさらに引き立ててもくれる。その説得力の強さは、本来であれば強力な存在感を放つであろう天ぷらの立場をも奪ってしまうほど。

  • 天ぷらはむしろ脇役

天ぷらって、基本的に存在感があるじゃないですか。「主役は俺だぜ!」って感じで(そうか?)。でも、ここで主導権を持っているのは、あくまでうどんとつけ汁。ときおり、「あの……私たちもいかがですか?」と天ぷらが気弱な感じでアピールしてくるような、ちょっと不思議な関係性とでもいいましょうか。

つまりはそれほど、うどん本来のポテンシャルが引き出されているわけ。ひさしぶりにいただきましたが、さすがというしかありませんね。

場所が場所だけに訪れる人は地元中心ということになるのでしょうけれど、地味に自転車をこいで伺ったかいは充分にあったというものです。

●手打ちうどん 鷹
住所:東京都三鷹市深大寺1-7-20
営業時間:火~金11:00〜15:00/17:00〜21:00、土日祝:11:00〜20:00
定休日:月曜