いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。

今回は、新宿のカレー店「カフェ・ハイチ」をご紹介。

  • 新宿サブナードで、昔から「カフェ・ハイチ」(新宿)

コーヒーはホットで、その理由は?

新宿駅の地下街「サブナード」は1丁目から4丁目まであって、位置的にいうと1丁目からいちばん近い駅は西武新宿になります。で、4丁目がJRや東京メトロ丸の内線の新宿駅側。

この日は丸の内線を使ったので4丁目から歩いたのですが、とはいえ時間的には5分程度。1丁目の飲食店街までてくてく進むと、お目当ての「カフェ・ハイチ」というお店が見えてきました。

  • サブナードの片隅で

1974年創業の老舗。もともと新宿西口にあった本店は先ごろ中野に移転したのですが、個人的には新宿のお店だというイメージが強いんですよね。もう20数年前はアルタのなかにあって、そちらへよく通っていたから。

なお、いま新宿にはサブナード店に加え、センタービル店もあります。後者は行ったことがないのですが、サブナードのほうは20年ほど前にお邪魔したことがありましてね……って、20年も経ってんのかよって話ですが、また訪れてみたいとずっと思い続けてきたわけです。

  • 注文するものは決まっています

席についたら、まずは肝心のメニューをチェック。カフェ・ハイチといえばね、やっぱり「ハイチ風ドライカレー」なんですよ。アルタのお店にも、これが食べたくて通っていたんでね。あ、あとハイチコーヒーも。

だから迷う必要はないのですけれど、どうせなら「温泉玉子スペシャル」といきたいところ。温泉玉子が、カレーにまたよく合うんです。なおミニサラダか季節のアイスを選べるというので、季節のアイスを。コーヒーはもちろんホットでお願いしました(理由はのちほど)。

  • ハイチ感満点の店内

それにしても、いい意味でなんにも変わっていません。これはとても重要で、そして価値のあることだと思いますよ。なにせ右側に並ぶテーブル席、奥のシート席、左側の厨房、その手前にあるテーブル席など、すべてが昔のままなので、おのずと過去の記憶が蘇ってくるのです。

  • 装飾物も素敵です

アーシーな雰囲気のインテリアや、ところどころにディスプレイされたハイチの小物や絵画も、いい雰囲気を醸し出しています。まるでハイチに来たような気持ちになっちゃいますね(行ったことはないけどね)。

  • 装飾物も素敵です

さて、ほどなくして待望の「温泉玉子のせドライカレー」がお目見えです。そうそう、これこれ! 見た目からしてすでに懐かしい! 四角いお皿の真ん中にかわいらしく盛りつけられたそれは、一般的なドライカレーのイメージとはちょっと違うかもしれません。ごはんの上にキーマカレーが、そしてその上に温泉玉子が乗っているスタイル。これぞまさに、カフェハイチのドライカレーなのです。

  • いただきます

ちなみにごはんは、宮城県産ひとめぼれ(単一原米)を使用。つまりはブレンド米とは違う、良質なお米を使っているのですね。こういったところからも、老舗ならではの説得力を感じます。また、福神漬けがついてくるところも重要なポイントで、要はハイチと日本が絶妙に絡み合っているということ。

  • 黄身を崩せば味はさらにまろやかに

ところで辛そうにも見えるカレーですが、実はそれほど辛くはありません。素材の甘みのなかに、ほどよくピリッとした辛さが感じられるといったニュアンスで、とても爽やかなのです。そして当然のことながら、温泉玉子を崩して黄身と絡めれば、そこに心地よいまろやかさが加わることになります。やはり、これはたまらないね。

不思議なのは、その量です。ぱっと見、ご飯はそれほど多くないように見えるんですよ。なのに食べ終えてみれば、おなかはちょうどいい感じ。きちんと計算されているんですね。

  • 食後のハイチコーヒー

食後には、まずホットコーヒーが登場。おお、カレー皿と同じデザインのこのカップ&ソーサーも懐かしいじゃないですか。しかもここのホットコーヒーって、カップまでしっかり熱いんですよねー。

  • ブランデーがうれしい

そんなコーヒーは、見た目は濃そうなのに飲んでみると驚くほどスッキリしているんです。だから、カレーのあとに最適。あ、それから、コーヒーをホットにした理由をお伝えしなければ。ホットの場合、「香りづけにどうぞ」とブランデーがついてくるのです。当然ながら、ブランデーを2、3滴落とせば豊かな香りが加わります。つまり、一杯のコーヒーを二度楽しめるわけです。

  • 締めはアイスで

そしてこの日のデザートは、「ジンジャエールのゼリーと、ハーゲンダッツのマンゴーのアイス」とのこと。これがまたスッキリとした味わいで、ラストを締めくくるには最適でした。大満足。

「20年ぶりなんです」。帰り際、ママさんに伝えると、うれしそうな表情でいろいろなことを教えてくださいました。アルタの店は23年前まであって、サブナード店はそちらが閉まる数年前にできたから、数年はかぶっている期間があったのだとか。つまりは、それほど勢いがあったんですよね。たしかに、いつもお客さんがいるイメージが昔からありました。

ところがコロナ禍の影響は避けられず、以前はたくさんいたスタッフもいまはいないのだそう。時代の影響とはいえ、複雑な心境です。

「またいらしてください。20年後はもうないから、それ以前にね(笑)」といわれてしまいましたが、たしかに、これを機会にまた通わなければいけないなあ。その価値は絶対にあるのだから、今後はこまめに通うことにいたします。

●カフェ・ハイチ 新宿サブナード店
住所:東京都新宿区歌舞伎町1 新宿サブナード地下街B1F
営業時間:11:00~22:00
定休日:無休