京急本線「平和島」駅。外から行く場合、ボートレースにでも興味がなければなかなか降りない駅だろう。近くの品川や大森のオフィスビル街とは対照的に、沿線では下町然とした商店や住宅地が広がっている。今回紹介するのは、その「平和島」駅下車、徒歩10秒の駅近「信濃路」(東京都大田区)である。
立ち食いもOK、居酒屋もOK
信濃路は、正確には「立ち食いそばも出す食堂居酒屋」だ。「お食事処」「そば・うどん」と、入り口はふたつあるが結局どちらから入っても同じ。引き戸を開けて中に。店内は、手前が立ち食いそばのカウンター、奥が食堂スペース。長年の油が染み込んだ壁は蛍光灯で白く照らされており、カウンターにはズラッとスツールが、奥にはテーブルが構えられている。
平日の10時頃に訪問。そばを食べている客はいなかったが、奥には10人くらいの客が、銘々に、ビールを飲んだり、煮込みを食べたり、またビールを飲んだりと、ワイワイやっていた。見たところ、50~70代の男性客ばかり。壁には所狭しと短冊メニューがはられている。やきそば、しゅうまい、ハムエッグ、生野菜、煮魚に焼酎お湯割り……最高の空間だ。
太麺の上にわかめがたっぷり
注文は「わかめそば」(税込300円)。口頭で注文して代引きへ。こういう店では、何が名物とかではなく、自分が好きなものを食べたい。そう、筆者はわかめそばが一番好きだ。麺はやや太く、つなぎ多めの、これぞ立ち食いそばの麺。そこに強めにダシがきいたアツアツのツユが注がれて、シャキシャキの刻みネギと、たっぷりのわかめが盛られる。まずいわけがない、大満足の一杯だ。
信濃路は、お世辞にも洒落ているとは言えない。若い女性は入りづらいと思うし、わざわざ入る理由もないだろう。だがそこには昭和の面影が色濃く残っており、形容し難い味わいがある。
筆者は30代後半だが、自分が小さい頃、大人はこういう店で小さな皿をつつきながら瓶ビールを飲んでいた気がする。直接は体験していなくても、懐かしさを感じる風景があった。信濃路は朝から晩まで毎日営業。次は奥の仲間入りをしたい。
筆者プロフィール: 高山 洋介(たかやま ようすけ)
1981年生まれ。三重県出身、東京都在住。同人サークル「ENGELERS」にて、主に都内の銭湯を紹介した『東京銭湯』シリーズを制作している。