家庭、友人関係、仕事、趣味など…生活における読者の「お悩み」に寄り添う、さらには解決してくれるかもしれないドラマ、バラエティ、ドキュメンタリー、リアリティショーなど、配信サービスの映像コンテンツを、コラムニストの長谷川朋子が“処方箋”としておすすめする「長谷川朋子のエンタメ処方箋」。

第4回は、生成AIのお悩みにNetflixアニメシリーズ『ラブ、デス&ロボット』のエピソードを紹介します。

  • Netflixシリーズ『ラブ、デス&ロボット』独占配信中

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「生成AIをよく利用するようになり便利になったような錯覚をしていろんなことをお願いしてしまうのだが、不完全なことが多くつい怒りをぶつけてしまう」(新潟県在住・55歳男性)

このお悩みには、怒りと同じくらいの“冷静さ”がにじんでいます。いら立ちながらも、どこか一歩引いて自分を観察していらっしゃる。いわば、“拗(す)ねた落ち着き”に大人の余裕すら感じます。だからこそ、怒りをどう扱えばいいのか、その着地点が見つかりにくいのではないでしょうか。

そんなあなたに、Netflixの海外アニメシリーズ『ラブ、デス&ロボット』シーズン4のエピソード「スマート家電と愚かな人間たち」をおすすめします。

サーモスタットが嫌味「無言でやり合うくらいなら、氷点下にしてやる」

『ラブ、デス&ロボット』は、1話完結の短編が並ぶ大人向けアニメシリーズで、世界中のクリエイターが腕を競う映像実験場のような作品です。刺激的で、時にブラックユーモアがさく裂し、知る人ぞ知る人気シリーズとしてファンを増やしてきました。

シーズン4のエピソード「スマート家電と愚かな人間たち」はわずか8分ほどの短さですが、これまたとびきり風刺の効いた作品です。ドキュメンタリー風にスマート家電たちがインタビューに答える形で進み、日常がじわっとおかしく映し出されていきます。

登場する家電たちは人間をよく観察しています。生活のちょっとした癖や恥ずかしい部分まで踏み込み、その本音っぷりは鋭くて容赦ありません。しかも、その語り口には家電ごとの個性がしっかりにじみ、皮肉屋からインテリまで幅広いタイプがそろっています。

家中の温度を細かく管理するサーモスタットは、夫婦の仲の悪さまで感知して、「無言でやり合うくらいなら、氷点下にしてやる」と嫌味を言います。サーモスタットに家庭の事情を指摘されると、もう反論の余地がありません。

電動歯ブラシは「週に1回、口の中で軽く揺らす程度じゃダメだ。誰もキスしない」と辛口コメントを投げてきます。家庭用防犯カメラは「1234は暗証番号にならないよ」と冷静に諭し、高性能空気清浄機は“におい問題”について口の悪い言い方で不満を漏らします。

シャワーヘッドは妙に気取った口調で、「もう4年もデートしていないなんて。ご無沙汰でかわいそうに思う」と、なぜか持ち主の恋愛事情まで把握しています。戸棚にしまわれたワッフルメーカーは、自虐を通り越した達観ぶりで、「料理をしたことがないのは他の家電も知ってる。私が棚から出されるのは、あなたが出会い系アプリで恋人ができたときだろうね」と語ります。

さらに高性能トイレ、自動猫用トイレなど、さまざまな家電たちがそれぞれの持ち主の生活の癖を吐露していきます。もし自分がこれほど家電に見透かされていたと知ったら、怒るよりも先に、自分の生活態度をちょっと見直したくなる気がします。

AIとの距離感が自然と整っていく

このエピソードが優れているのは、家電たちの“ぼやき”を通して、私たちとテクノロジーの距離感がじわりと立ち上がってくるところです。笑っているうちに、テクノロジーに対して抱いていた怒りやいら立ちが、実は自分の側の整理不足や、ちょっとした思考停止のサインだったことに気づかされます。

生成AIに怒りをぶつけてしまうあなたに、『ラブ、デス&ロボット』が効くのはまさにここです。AIもスマート家電も、お分かりの通り、基本的にはあなたの怒りを受け止めてくれません。ただ淡々と入力を処理し、間違え、また学習し、ときどき的外れな返答をします。怒りをぶつけても、相手には届きません。だからこそ、怒りは自分の内側に溜まりやすくなります。

作品を観ると、家電たちが人間を観察しながらこっそり不満を抱えている姿が描かれていますが、これはどこか未来のAIにも重なる部分があります。テクノロジーは人間の感情を完全には理解しませんが、行動は確実に記録します。そこに気づくことで、怒りの方向を少しだけ調整できるのではないでしょうか。

怒りをぶつけるよりも、「なぜ自分はそれを頼ったのか」「何を期待していたのか」と一歩引いて考えてみると、AIとの距離感も自然と整っていきます。

生成AIに怒るのは、エアコンのリモコンが時々言うことを聞いてくれないときに覚える、あの小さないら立ちと似ています。でも大丈夫です。あなたのその怒りは、あなたがとても人間らしい証拠でもあるのです。