災害は完全に防ぐことは難しいかもしれません。しかし繰り返し伝えていることは、リスクは少しでも少なくすることが大切な点です。明暗を分けるラインはだれにもわかりません。少なくとも自分で簡単に行える対策は、すぐに実践しておきましょう。今回は具体的な対策の前提となる準備過程を中心に考えてみましょう。現在の状況を見つめると、とるべき対策が見出しやすく、具体的な対策に移行しやすいと思います。

我が家の防災体力を確認しよう

極端に考えれば、住まいや家財が損失しても、何の問題なく建替えられて、その後の生活にも何ら影響がなければ、金銭面だけをとらえれば火災保険や地震保険に加入する必要はないでしょう。万が一の際に対応力が不足しているから、前もって備える必要が生まれます。どのような災害が起きそうかを熟知するとともに、家計の体力を正確に把握することも大切です。さらに、保険や年金、災害時の支援制度なども理解しておけば過度の準備も不要となります。

最初に我が家の防災体力を考えてみましょう。それには生涯収支表を作成するのが一番です。現在から平均余命までの収入・支出の変化を見て、資産=預金または換金できる資産の高の変化を見ます。資産が少なくなる時期が家計の弱点です。その時点で収入が減る(リストラ・会社の倒産・働き手の病気や死亡・災害等)事態が起きれば、家計を立て直すハードルは高くなるでしょう。

下図は30代の夫婦が住まいを取得する前提の生涯収支表(ライフプランニングシート)を抜粋したものです。

  • ライフプランニングシート

住まいを取得した年の預金残高が少なくなっています。このケースは預金を住まいという資産に置き換えたわけですので、資産を守るためにその住まいには火災保険や地震保険が必要となります。

また団体信用生命保険に加入するのが一般的ですので、債務者死亡の際は残債が保険で支払われます。しかし保険の対象とならない病気やケガなどによる収入減や支出増への対策は別途考えておく必要があります。

もちろんローンを組んだ時点で災害に見舞われないとも限りません。想定される災害に強い建物とすることとともに、万一損傷・損失した際の保険でカバーしきれない部分を考慮して余力を残しておく必要があります。

コロナ禍を例にすると、発生当初の自粛期に飲食店は休業や時短を余儀なくされましたが、家賃が支払えないと大騒ぎになりました。サラリーマンの憩いの場である居酒屋は、そもそも不要不急の業種です。当然そのリスクは見込んでおくべきなのです。1か月の休業で家賃が支払えないのはその店の体力が業界に即してないことを意味します。家計も同様で、その家計が持つリスク(=その人が描く人生設計のリスク)に応じた体力を備える必要があるのです。

我が家の資産目録を作成しよう

若ければさほど複雑な資産構成ではないかもしれませんが、資産は分割投資が原則ですので、次第に多岐にわたっていくと思います。夫婦のそれぞれの資産もあります。我が家の体力を把握するためにも是非資産目録を作成しておきましょう。

上記の生涯収支表を作成する際にも現時点での資産額の把握は必要です。定期的に修正し、同時に生涯収支表も見直します。非常用持ち出し袋などにコピーを入れておくと避難時には便利です。高齢になればエンディングノートにコピーを入れておけば、万一の時に残された家族の相続手続きの負担を少なくできます。

  • 金融資産目録

加入保険(生命保険・損害保険)を確認・記録しよう

災害時には証書やいろいろな書類を持ち出せるケースはあまりないでしょう。それらが失われてしまうケースも少なくないでしょう。資産目録同様にコピーを非常用持ち出しに入れておけば、大いに役に立つはずです。

  • 金融資産目録

被災支援の概略を把握しよう

東日本大震災の際に被災地からの電話対応の業務に従事していましたが、被災地ではとにかく情報が不足しています。いろいろな支援対策がすでに提供されているにも関わらず、なかなか被災者にその情報が届かないのが実情でした。災害対策として、事前にどのような支援がありそうかを把握しておくことは重要だと実感しました。少なくとも身近な市区町村の常設支援対策はチェックしておきましょう。

内閣府では『被災者支援に関する各種制度の概要』(令和2年11月)を発表しています。死亡やケガ等の見舞金、生活支援、子供の教育関連、税金や公共利用金の支払い、失業・就業支援、住まいの補修・建替え、賃貸住宅のあっせん、住宅ローンの返済、各種トラブル解決…等、実に多岐にわたる支援が提供されています。是非目を通して、支援窓口の担当部署と連絡先を書き留めて、非常用持ち出し袋に入れておきましょう。


その他、所有資格免許の番号や取得年月日、カード等の連絡先等もメモしておくとよいでしょう。各種IDとパスワードの管理方法も検討しておきましょう。個人情報満載となりますので、私は非常持ち出し用として金融資産の金額等はカットしたものをプリントアウトして入れています。避難先などに滞在する際にはこれらの情報は常に身に着けていられるように、ポーチや内ポケットのあるジャケットなどを避難グッズとして用意しておくとよいでしょう。内ポケットを含めたポケットが多くある作業員用ジャケットは丈夫でもあり、災害用衣服として非常に便利です。