連載『「老後破産」を回避せよ! - アラサーから始めるマネー対策』では、FPの馬養雅子氏が、貧困により老後の生活が破綻する「老後破産」をどのように回避すればよいのか、アラサーのうちからできる対策法をご紹介します。
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マスコミなどで「老後破産」が取り上げられていますが、実際の今の高齢者の収入と支出はどうなっているのでしょうか。
総務省が発表しているの2015年の「家計調査年報」を見ると、リタイアした無職高齢者世帯の1カ月の収入と支出の平均が載っています。夫婦世帯の収入は約24万円で、支出は約21万円。単身世帯の収入は約12万円で支出は約15万円。どちらも月約3万円の赤字で、公的年金だけでは生活していけないことがわかります。逆に言うと、老後の生活費の8~9割は、公的年金でまかなわれているということになります。公的年金が老後の収入の大きな柱になっているわけですね。
ただ、今のアラサーが年金を受け取るころは、老後の収入のうち公的年金が占める割合はもっと下がっていると考えられます。その理由は、公的年金の仕組みにあります。
公的年金の仕組みとは?
公的年金は、現役世代が保険料を払って積み立てたものを老後に受け取ると思っている人が多いようですが、それは違います。今払っている保険料は、今の高齢者の年金として支払われています。つまり、現役世代全員で今の高齢者に"仕送り"しているのです。
このやり方は、現役世代が多くて高齢者が少ない時代であれば、何の問題もありませんでした。集めた保険料の方が支払う年金より多く、余った分は貯めておくこともできたのです。
でも日本は少子高齢化で、高齢者の人口が増える一方、現役世代は減っています。そうなると、この仕組みではやっていけなくて当然です。それをはっきり表しているのが、高齢者1人を現役世代何人で支えているかという数字。どうなっているかというと、
■高齢者1人を支える現役世代の数は?
1950年……12.1人
1975年……8.6人
2000年……3.9人
2016年……2.3人
2025年……1.9人(推定値)
1950年は12.1人で支えていたが…… |
2025年には1.9人に! |
となっています。確実に、そして急速に高齢化が進んでいるのがわかります。
これでは公的年金制度は立ちゆかなくなってしまうので、年金の仕組みを大きく変える必要があります。でもこの問題はずっと先送りされ続けていて、その間に年金の財政はどんどん悪化してしまいました。このままでいけば、アラサーが年金をもらうころは、老後の収入に占める公的年金の比率が今より下がるのはほぼ間違いというわけです。
とはいえ、年金制度を維持していくことは国にとって最も大きな仕事の一つ。それに、公的年金の財源の半分は税金でまかなわれていることを考えると、年金財政が破たんして、将来受け取れる公的年金がゼロになることはないと考えられます。こうした現状を踏まえて、アラサーが老後破産を回避するためにできることは何でしょうか。 ここでは3つ挙げておきます。
アラサーが老後破産を回避するためできる3つのこと
1つは、公的年金の保険料をきちんと払うことです。年金財政が厳しいとはいえ、公的年金が老後の収入の柱であることは変わらないからです。サラリーマンはお給料から年金の保険料が天引きされているので払いそびれることはありませんが、国民年金に加入している人は払い漏れがないようにしてください。
また、国民年金だけだと将来受け取れる年金が少ないので、パートタイマーなどはできるだけ厚生年金に加入するのがお勧めです。
2つ目は、公的年金の水準が下がることを踏まえて、自分で老後資金を作っていくことです。そのためには、これまでに書いてきたように、支出をコントロールして先取り貯蓄をすることや、教育費や住宅費にお金をかけすぎないことが大切。また、貯蓄だけではお金が殖えないので、資産の一部は預金以外の金融商品で運用していくことも欠かせません。
3つ目は、選挙に行くこと。老後破産が問題になるように貧しい高齢者がいるのは確かですが、そうではない高齢者の方が圧倒的に多数です。それなのに今の年金額を下げることができないのは、現役世代より高齢者の方が選挙の投票率が高いから。政治家は落選するのが怖くて、年金額引き下げという高齢者に不人気な政策が取れないのです。
そんな状況を変えるには、現役世代が年金に関心をもつこと、そして年金制度のことをしっかり考えている候補者に投票することが必要です。
執筆者プロフィール : 馬養雅子(まがい まさこ)
ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)、一級ファイナンシャルプランニング技能士。金融商品や資産運用などに関する記事を新聞・雑誌等に多数執筆しているほか、マネーに関する講演や個人向けコンサルティングを行っている。「図解 初めての人の株入門」(西東社)、「キチンとわかる外国為替と外貨取引」(TAC出版)、『明日が心配になったら読むお金の話』(中経出版)など著書多数。オフィシャルホームページ「あなたのお金のアドバイザー」。