コロナ禍が始まってそろそろ1年、リモートワークにも慣れる方もいる一方、環境が変わったり、一緒に働くメンバーが変わることで「リモートだとうまくコミュニケーションできない……」という悩みは尽きないものです。そんな悩みを解決するヒントとして、『リモートワーク大全』(ポプラ社刊)を上梓したシックス・アパートの広報・壽かおりさんに、「リモートワークのコミュニケーション」のコツを伺います。

察する必要が無い「ローコンテクストなコミュニケーション」を心がけよう

リモートワークで心掛けたいことのひとつが「ローコンテクストなコミュニケーション」です。「コンテクスト(コンテキスト)」とは文脈や背景情報のこと。ハイコンテクストなコミュニケーションでは、いちいちすべてを言葉にしなくても互いに通じ合えます。それは相手がどういう状況で何を求めているのかについて、互いに多くの共通認識があるから。

たとえば、オフィスにいて、上司が取引先のA社と深刻な雰囲気の長電話をしているとします。上司が、その電話を切ったそばから「A社の件って、今どんな感じだったっけ?」と聞かれたとしたら、何か予定外のことが起きているなと察しつつ返事ができるでしょう。

一方、ローコンテクストなコミュニケーションでは、互いの共通認識が少ないことを前提に、具体的かつ正確に言葉を重ねて伝えていく必要があります。

在宅勤務中に、上司からチャットで「A社の件って、今どんな感じだったっけ?」といきなり言われても、こちらも何から答えて良いかわかりません。

問いかけるときにはその背景と意図も伝えましょう。

A社とのニュースの件だけど、大きく変更になりそう。A社広報とのニュース文面の作成はどこまで進んでた?」であれば、それを想定して返事ができます。くわえて、「ちょうど今、A社から電話があって説明を受けたところで、リリース時期もニュース文面も大きく変える必要がありそう。変更点は〜」といったところを補足すればよいでしょう。

他にも「来週水曜空いてる?」とだけチャットでメッセージを送られてきても、何の案件かわかりません。

「来週水曜、B社向け提案資料作成の件でオンライン会議できますか?」でもいいのですが、さらに「来週水曜、B社向け提案資料作成の件でオンライン会議できますか? 途中まで作ってみた資料を送りますので、こちらにフィードバックいただきたいのです。特に、予算案について、相談しながら詳細を詰めたいと思っています」と言ってもらえれば、資料を見て会議前に内容を準備しておくことができます。

伝える努力を惜しまないことが、リモートチームのコミュニケーションの大事なポイントです。

ニュアンスは、言葉で伝えよう

ニュアンスという単語には二つの意味があります。ひとつは「言外に表された話し手の意図」、もうひとつは「表現や微妙な差異」です。

前者はたとえば、対面でのこんなシーンを想像してみてください。こちらが提案した内容に対して、上司が一言「なるほどねー」と言ってしばし黙る。その一言の態度や声色で、いろんな意味をくみ取ってしまうものです。提案に関心を持ってくれているのか、期待外れだと思われたのか、など。

一方「なるほどねー」とチャットで送られてきたならば、そこには態度も言い方も含まれていないので言葉以上の意図をくみ取ることができません。

リモートワークにおいては、基本はテキストチャットやクラウドツールでの進捗報告を通して業務を進めていきます。業務上のコミュニケーションにおいては曖昧さの排除は、多少失われるスピードを補って余りあるメリットがあると思います。

伝える側にとっては、意図を明確に言語化することで誤解なく話が早く進む。受け取る側にとっては、行間を読むことなく、書かれていることだけをベースに判断すればよいのです。

「なるほどねー」の一言に含まれていない意図を勝手に読み取って、勘違いやすれ違いの元になることもよくあることです。

世代が違うだけでも、文化が異なることによるすれ違いがあるものです。これからさらに、世代だけでなく育った国や環境も宗教も特性も異なる多くの人とチームとして働く機会が増えるでしょう。言わなくてもわかると期待するのではなく、伝えたいことは明確に伝えていきましょう。

言葉で伝えにくければ、絵文字もある

ニュアンスのもうひとつの意味「表現や感情などの、微妙な意味合い」を伝えたいのであれば、言葉で伝えるのも良いですが、絵文字を使うのも有効です。

絵文字もいわば言葉の一種です。こちらの気持ちをカジュアルに伝えられます。

だったら、肯定的に受け取ってくれているなと思える。

だったら、提案が期待外れだったのかなと思える。

さらに多くのビジネスチャットツールでは、オリジナルの絵文字を追加可能です。会社のキャラクターや製品名に加えて「それな」「ええやん」といった誰かの口癖を入れておくのも楽しいです。

といっても、ハイコンテクストなコミュニケーションを否定しているわけではありません。たとえば雑談は、たくさんの前提条件を共有した上で、さらに互いの意見や情報を交わし合う非常にハイコンテクストなコミュニケーションです。

「丁寧に正確に伝えよう」と意識せず、気楽に無駄話をして笑い合う時間もとても大事です。雑談は存分にハイコンテクストで、仕事ではローコンテクストでやりましょう。

参考書籍:『リモートワーク大全』(壽かおり著、ポプラ社刊、税込1,870円)
新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、「会社に出社しない」働き方を導入し、リモートワーク・テレワークを実施する会社が増えてきている。本書は、主に一般のビジネスパーソンが、リモートワーク・テレワーク時に必要なことがすべて書かれた一冊。ツールやアプリ、会議・打ち合わせの効率的なやり方から、家族や子どもとの接し方まで、読むだけでリモートワーク・テレワークに必要なことがすべて身に付きます。