慶應義塾大学法科大学院修了後、2009年より弁護士として活躍する澤田直彦さん。2018年に弁護士法人 直法律事務所を開業してからは、『平成27年5月施行 会社法・同施行規則 主要改正条文の逐条解説』(新日本法規出版)の執筆、テレビドラマ『刑事ゆがみ』(フジテレビ)や『グッド・ドクター』(フジテレビ)の法律監修など幅広く活躍しています。

  • 上司が悪い場合でも復職時に異動するのは部下?(写真:マイナビニュース)

    上司が悪い場合でも復職時に異動するのは部下?

澤田さんに、「復職に関する疑問や悩み」についてお答えいただきます。

Q.複数の企業で産業医を務めています。上司との人間関係がうまくいかず、適応障害・うつ病を発症する社員が後を絶ちません。本人より、上長に非があると思われるケースでも、復職が難しい場合は本人の異動を検討することになります。上司・部下、どちらに非があり、どちらが異動すべきかを判断する指標があれば教えてください。(50歳男性)

澤田弁護士の説明

職種や勤務地を限定して入社した等の経緯がない限り、いずれを異動させるべきかについては、通常、使用者(企業などの雇用者)が広い決定権限を有しています。ただ、配転命令の業務の必要性に比較して、その命令により社員が働くうえ、生活するうえで不利益が不釣り合いに大きい場合には権利濫用となります。
参考文献:『労働法第9版』441頁及び444頁・菅野和夫

本人が元の職場でなければ復帰できない特別の事情があるのに、症状発症の原因となる上長がいるために元の職場に戻ることができないということは、社員が「通常甘受すべき程度を著しく越える不利益」を負うといえる可能性があり、配属転換を命じることが権利濫用となる可能性もあります。

そして、業務運営の円滑化のために上長を異動させるべき場合もあると考えられます。

しかし、通常、職場復帰に際して入社時の契約で「職種が限定されていない」場合は、復職するタイミングで配属できる別業務があれば、そこへ復帰させるべきだと解釈します。つまり、原職復帰の可能性より、まずは復職を認める傾向となります。
参考文献:『労働法第9版』455頁・菅野和夫

復職に関する判例

職種が特定されない労働契約の場合、社員側と企業側、それぞれの具体的な事情を考慮し、休職前の業務に限定せず、企業側で配置可能な業務を探し、社員に対してそれを提示すべきであるとする判例があります。

社員の健康が回復して、通常程度に働くことが可能かどうかを判断する「職務」とは、休職前の業務だけでなく、配属できる業務全般と解釈すべきで、その業務内容や負荷等に照らして、復職可能かどうかを判断すべきであるとする裁判例(※)もあります。
※『労働関係訴訟の実務第2版』249頁・白石哲

企業は原則として、社員が元の職場へ復帰することを検討し、それが困難な場合、就業可能な他の職場での復職を検討すべきといえます。


執筆者プロフィール : 澤田直彦(さわだ・なおひこ)

弁護士法人直法律事務所 代表弁護士
慶應義塾大学法科大学院修了後、司法試験に合格。2009年より弁護士として活動。徹底した調査力に定評があり、企業法務を軸に労務、不動産、IT、ベンチャー法務等の分野での実績多数。