JR九州は5月27日、2018年度の「線区別ご利用状況」を公表した。公式サイトにも掲載されている。全線区の一覧を示した上で、平均通過人員2,000人/日未満の20線区を別掲し、収支も公開した。災害で不通となった3線区を除いた17線区が赤字となっている。

  • JR九州の平均通過人員2,000人/日未満の線区(地理院地図を加工)

平均通過人員は、ある区間における1日1kmあたりの平均乗車人数を示す。路線ごとに区間距離が異なるから、運輸成績を比較するために1kmあたりの1日平均乗車数を算出する必要がある。

たとえば、A駅からB駅まで距離が30kmあり、1年間で100万人が乗車した場合、「100万人÷365日=約2,740人」がA駅・B駅間の1日あたりの平均乗車人数となる。これを30kmで割ると、1日1kmあたり約91人。比較対象として、B駅からC駅まで距離が50kmあり、1年間で120万人が乗車した場合、同様に計算すると平均乗車人数は1日1kmあたり約66人となる。乗車人数の総数はB駅・C駅間のほうが多いものの、1kmあたりの利用者数だとA駅・B駅間のほうが多い。ただし、1kmごとにきっちりと駅があるわけではないため、平均乗車人数ではなく、平均通過人員という言葉を用いる。

平均通過人員は、その区間がどのくらい利用されているかを示す指標となる。旅客輸送密度ともいう。国鉄時代に検討された全国規模のローカル線廃止問題では、旅客輸送密度4,000人/日未満、かつ貨物輸送密度4,000トン/日未満の路線を「特定地方交通線」とし、鉄道廃止・バス転換を進めていった。大量輸送機関である鉄道は、このくらいの需要がないと経営が成り立たないとされている。

JR九州が公表した平均通過人員2,000人/日未満の20線区は、将来的に存廃議論にもつながりそうで、心配な事案である。20線区の内訳を見ると、行き止まりのローカル線もあれば、幹線の途中区間もある。どんな線区だろうか。

◆日豊本線 佐伯~延岡間(58.4km)

  • 2018年度赤字額 : 6億7,400万円
  • 平均通過人員 : 889人/日

◆日豊本線 都城~国分間(42.2km)

  • 2018年度赤字額 : 3億9,200万円
  • 平均通過人員 1,438人/日

日豊本線は九州の東側沿岸を経由する幹線で、かつて特急「にちりん」は博多~西鹿児島(現・鹿児島中央)間を結んでいた。東京駅から寝台特急「富士」、京都駅から寝台特急「彗星」も運行され、鹿児島本線と並んで九州の大動脈といえる路線だった。その日豊本線が一部区間とはいえ、ワースト20入りとは驚く。

輸送量低下の理由として、高速バスの台頭と九州新幹線の開業が挙げられる。現在、博多~宮崎間で乗換検索すると、最速は九州新幹線から新八代駅で高速バスに乗り換えるルートで、所要時間は3時間15分。博多~宮崎間の高速バスはそれより1時間ほど遅いものの、料金は新幹線経由の半額以下となる。日豊本線の特急「にちりんシーガイア」だと、さらに1時間遅くなる。料金は新幹線経由より少し安い。

博多駅・小倉駅から大分駅まで特急列車が優位とはいえ、大分駅より南側になると特急需要は少ない。日豊本線の特急列車は現在、おもに博多~大分間を結ぶ「ソニック」、大分駅から宮崎方面へ向かう「にちりん」(延岡駅から「ひゅうが」も運転)、宮崎~鹿児島中央間の「きりしま」に分割されている。

地域輸送でいえば、佐伯~延岡間は大分県と宮崎県の県境、都城~国分間は大部分が鹿児島県の山間部で、宮崎県との県境を含む。ローカル輸送は県内の移動が中心だから、県境区間の利用は極端に少ない。佐伯~延岡間は普通列車も少なく、「青春18きっぷ」利用者から難所として知られるほどになった。

利用は少ないが、特急列車を走らせるために線路は高規格で保守費用が高い。これが赤字体質の理由になっている。とはいえ、この2線区を廃止すると特急列車を運行できない。普通列車のさらなる減便、あるいは中間駅の廃止も検討されそうだ。

◆宮崎空港線 田吉~宮崎空港間(1.4km)

  • 2018年度赤字額 : 600万円
  • 平均通過人員 : 1,918人/日

路線名の通り、宮崎空港から宮崎方面へ列車を運行するために開業した路線で、日南線の田吉駅から分岐する。特急「にちりん」「ひゅうが」も多くの列車が宮崎空港駅を発着している。空港アクセス路線として重要であるものの、航空機の発着数に連動するため、乗客数を増やしにくい。赤字額が小さい理由は加算運賃が適用されているからだ。廃止は考えにくく、空港の利用促進策が必要になる。

◆筑肥線 伊万里~唐津間(33.1km)

  • 2018年度赤字額 : 1億9,300万円
  • 平均通過人員 : 222人/日

筑肥線は姪浜~唐津間・山本~伊万里間からなる74.2kmの路線。唐津~山本間は唐津線の所属となっているが直通運転しており、運行系統は唐津駅で分断されている。姪浜駅~唐津駅は直流電化区間で、福岡市地下鉄空港線と相互直通運転を行っている。路線全体の平均通過人員は1万181人だが、内訳を見ると姪浜~筑前前原間の4万6,283人/日、筑前前原~唐津間の5,870人/日に対し、伊万里~唐津間は222人/日と極端に少ない。

なお、JR九州に限らず、鉄道事業の評価は国鉄時代の「路線単位」から「区間単位」に切り替わっている。問題のある区間を特定するだけではなく、隠れた好業績区間を残すためでもある。

◆唐津線 唐津~西唐津間(2.2km)

  • 2018年度赤字額 : 2億2,900万円
  • 平均通過人員 : 1,005人/日

唐津線は久保田~西唐津間を結ぶ42.5kmの路線。直流電化区間の唐津~西唐津間以外は非電化で、列車は久保田駅から長崎本線に乗り入れ、佐賀駅まで運転される。路線全体の平均通過人員は2,141人/日とギリギリだ。久保田~唐津間は2,203人/日。路線全体が厳しい上に、たった1駅間の唐津~西唐津の赤字額が大きい。この区間に筑肥線のほとんどの列車が乗り入れるため、運行費用が大きくなっていると思われる。

◆久大本線 日田~由布院間(51.5km)

  • 2018年度赤字額 : 2億5,400万円
  • 平均通過人員 : 1,756人/日(2017年度は2,027人/日)

◆豊肥本線 肥後大津~宮地間(30.8km)

  • 2018年度赤字額 : 非公開
  • 平均通過人員 : 非公開(2017年度は1,854人/日)

◆豊肥本線 宮地~豊後竹田間(34.6km)

  • 2018年度赤字額 : 3億4,800万円
  • 平均通過人員 : 101人/日(2015年度は463人/日)

◆豊肥本線 豊後竹田~三重町間(23.9km)

  • 2018年度赤字額 : 2億600万円
  • 平均通過人員 : 951人/日(2015年度は1,331人/日)

久大本線は久留米~大分間、豊肥本線は熊本~大分間を結び、どちらも九州の東西を横断する。両路線とも豪雨や熊本地震で被災し、2018年度は運休期間があったため、被災前の平均通過人員を参考としている。

久大本線と豊肥本線に共通する特徴として、区間ごとに分けると両端の大都市近郊の区間は利用者が比較的多く、一方で県境を含む山間部は利用者が少ない。さらに特急列車が走るため、線路の保守費用が大きくなっている。

◆筑豊本線 桂川~原田間(20.8km)

  • 2018年度赤字額 : 非公開
  • 平均通過人員 : 非公開(2017年度は534人/日)

◆日田彦山線 田川後藤寺~夜明間(38.7km)

  • 2018年度赤字額 : 非公開
  • 平均通過人員 : 非公開(2016年度は299人/日)

◆後藤寺線 新飯塚~田川後藤寺間(13.3km)

  • 2018年度赤字額 : 1億7,900万円
  • 平均通過人員 : 1,315人/日

これら3線区は近接しており、かつて筑豊炭田などから石炭を輸送するために建設された鉄道路線網の生き残りでもある。大半の路線が整理された後、筑豊地区のうち福岡市・北九州市に近い地域がベッドタウン化し、通勤路線として見直されたが、これら3線区はいずれも通勤圏から遠く、非電化のまま残されている。

日田彦山線は添田~夜明間のBRT転換が確定的となった。それだけに、田川後藤寺~添田間の将来も気になる。BRTが便利だと評価されることで、この区間もBRTに、という意見が出てくるかもしれない。

◆肥薩線 八代~人吉間(51.8km)

  • 2018年度赤字額 : 5億7,300万円
  • 平均通過人員 : 455人/日

◆肥薩線 人吉~吉松間(35.6km)

  • 2018年度赤字額 : 2億6,100万円
  • 平均通過人員 : 105人/日

◆肥薩線 吉松~隼人間(37.4km)

  • 2018年度赤字額 : 3億5,900万円
  • 平均通過人員 : 656人/日

◆三角線 宇土~三角間(25.6km)

  • 2018年度赤字額 : 2億7,300万円
  • 平均通過人員 : 1,242人/日

◆日南線 田吉~油津間(44.0km)

  • 2018年度赤字額 : 4億8,500万円
  • 平均通過人員 : 1,160人/日

◆日南線 油津~志布志間(42.9km)

  • 2018年度赤字額 : 3億9,800万円
  • 平均通過人員 : 193人/日

日南線の末端区間を除き、各線区とも観光列車(D&S列車)を運行しているという共通点を持つ。肥薩線では「SL人吉」「かわせみ やませみ」「いさぶろう・しんぺい」「はやとの風」、三角線では「A列車で行こう」が運行され、日南線では「海幸山幸」が宮崎~南郷間を往復している。

観光列車を走らせる理由は、閑散区間を逆手に取った「遊休資産の活用」であり、そこに地域の観光振興があり、最終的には鉄道の集客がある。JR九州の場合、さらに「九州新幹線を利用する人々のための目的地創出」もあった。博多駅から熊本駅・鹿児島中央駅まで新幹線に乗ってもらうために、各地で観光列車を走らせている。

これらの線区の収支は路線単体ではなく、九州新幹線への貢献度も考慮すべきだろう。ただし、観光列車を走らせても利用者が少ないとなれば、九州新幹線への貢献度も見直す必要がある、という考え方もありそうだ。

◆指宿枕崎線 指宿~枕崎間(42.1km)

  • 2018年度赤字額 : 4億500万円
  • 平均通過人員 : 291人/日

◆吉都線 吉松~都城間(61.6km)

  • 2018年度赤字額 : 3億4,100万円
  • 平均通過人員 : 465人/日

いずれも観光列車が設定されていない線区となっている。指宿枕崎線の指宿~枕崎間には、JR最南端の西大山駅があり、車窓から見える開聞岳も美しい。観光列車「指宿のたまて箱」の枕崎延長を望む声があり、2014年に試験運行が行われたものの、その後は実現に至っていない。

吉都線は九州新幹線での訪問ルートから外れているせいもあってか、肥薩線とは対照的に観光列車の話を聞かない。筆者は「ありのままのローカル線」を楽しめる路線として好ましく思っているのだが、観光利用客の誘致策が必要なところだろう。

  • 吉都線では普通列車のみ運転され、観光列車は設定されていない

JR北海道は2,000人/日未満の線区について、「自社単独では維持できない」とし、自治体と利用推進策や鉄道以外への転換について話し合っている。JR九州による2,000人/日未満という数字も、JR北海道の事例を参考に、鉄道としての公共性を重視したいが、自社単独の負担は厳しいということを示している。

ちなみに、JR北海道ではさらに200人/日未満の路線に関して、鉄道以外の交通手段とする意向であり、もはや鉄道で担うほどの輸送量はないと考えている。一方、JR九州はそこまで踏み込んではいない。報道によると、JR九州の社長会見で、「路線維持のために沿線自治体と協議したい」とコメントしたという。ただし、「存廃の議論までは考えていない」とも語っている。

JR九州は「線区別ご利用状況」の公表と同じ日に、熊本地震で被災した豊肥本線肥後大津~阿蘇間を8月8日に運転再開すると発表している。社長会見の前日には、「平成29年7月九州北部豪雨」で被災した日田彦山線添田~夜明間について、沿線自治体がBRT転換を容認したと報じられた。JR九州の線区で取捨選択が始まった。沿線自治体も知恵を出し、利用推進策を進めてほしい。