横浜市港北区南部の地域情報サイト「新横浜新聞」は6月2日付で、「<相鉄・JR直通線が苦戦>羽沢横浜国大駅の利用は想定の半分、コロナも影響」という記事を掲載した。相鉄ホールディングスが公開した「2020年3月期決算説明会資料」のうち、相鉄・JR直通線の業績部分の数値を紹介する内容だった。新型コロナウイルス感染症の影響もあるだろうし、数字を見ればたしかに苦戦で、記事内容は間違っていない。

  • 相鉄・JR直通線「も」苦戦している

しかし見出しだけ見ると、直通プロジェクトそのものが苦戦と勘違いされそうだ。そこで今回は、決算説明会資料をもう少し深く読み、明るい希望を見つけ出したい。そこから大都市の通勤事情の変化と対応策が見えてくる。

「2020年3月期決算説明会資料」によると、2019年11月30日に開通した相鉄・JR直通線の利用者は1日あたり2万5,000人で、計画していた5万6,000人の半分以下、達成率は45%だったという。相鉄・JR直通線の開業による増収効果は2億200万円で、計画していた5億9,300万円の34%。羽沢横浜国大駅の改札通過人員は1日あたり4,000人で、計画していた8,000人の半分となった。

算定期間は開業日の2019年11月30日から決算締め日の2020年3月31日まで。国の緊急事態宣言は2020年4月7日だから、この算定期間は発令前ということになる。ただし、1月28日に「新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令検疫法施行令の一部を改正する政令」が公布されており、外出自粛のきっかけとなった。つまり、算定期間の半分は新型コロナウイルス感染症の影響を受けている。

■定期利用者の買い換えが進まず

相鉄ホールディングスの自己分析によると、達成率が低かった理由はおもに外出自粛であり、定期外利用者は計画よりマイナス27%だったという。定期利用者はマイナス67%と大きい。おもな要因として、テレワークと学校の休校が挙げられる。一方、「10月の消費税率引き上げに伴う駆込み購入により、直通線定期への切り替えが進まなかった」との理由も挙がっていた。

定期券は1カ月用・3カ月用・6カ月用があり、新年度の始まりとなる4月に向けて購入する人が多い。したがって、3カ月定期を買い換える人は7月と10月と1月、6カ月定期を買い換える人は10月に買い換える。その意味では、相鉄・JR直通線の11月30日開業は半端だった。3カ月定期券を買う人は12月に買い換える。6カ月定期券を買う人は3月に買い換える。定期利用者が相鉄・JR直通線経由に切り替える時期は12月または3月で、2段階で乗客が増える見込みだった。

しかし、10月1日に消費税率引上げに伴う運賃改定が行われた。定期券は使用開始日の14日前から購入できるため、定期利用者の多くが9月内に6カ月定期を購入したとみられる。相鉄は11月30日以降、横浜行の定期券を持っている人が新区間の定期に切り替える場合、いままで使っていた定期券について、無手数料日割計算で払い戻す対応を取った。

買い換え後の定期券は消費税アップ後の運賃になる。ちなみに、相鉄線の二俣川駅とJR新宿駅については、相鉄・JR直通線経由のほうが横浜駅経由よりも若干安い。乗換えの手間も省けるので、本来の選択肢は相鉄・JR直通線になると思われる。つまり、消費税増税の影響で相鉄・JR直通線のメリットが伝わりにくく、ようやく周知されそうになった頃に新型コロナウイルス感染症の影響が出てしまった。この業績は不運な結果といえる。

  • 相鉄・JR直通線経由と横浜駅経由(地理院地図を加工)

新型コロナウイルス感染症の影響は相鉄だけの問題ではない。他の鉄道、いや、交通機関全体に及んでいる。3月31日頃の各社報道において、JR東日本は渋谷駅、新宿駅、東京駅、上野駅で前年比約80%の減少と報じられた。

■相鉄・JR直通線の真価は新型コロナ禍の後に?

相鉄・JR直通線の今後について、良い材料と悪い材料がある。良い材料は沿線の人口増加。「2020年3月期決算説明会資料」によると、不動産事業は分譲・賃貸ともに良好だという。営業収益は対前年比増となった。分譲については1戸あたりの分譲価格上昇という要素があり、賃貸はオフィス物件も好成績の様子。分譲価格上昇は沿線ブランドに呼応しているだろう。賃貸物件は人口の流動性が高いため、人口増を示す要素ともいえる。

不動産事業の利益は前年度比で若干の減少となっていたが、前年度に好調だった反動によるとのこと。外出自粛期間中はマンションの販売活動も停滞しただろうから、フル稼働できれば対前年増となったのではないか。いずれにしても、不動産事業の向上は沿線の価値が評価され、住民が増えていると考えられる。ここに相鉄・JR直通線の効果があり、通勤通学利用者を増やす要素もある。今後、相鉄・東急直通線が開業して相互直通運転が始まれば、沿線と不動産の価値はさらに上がる。

もうひとつ、流通業の好調も注目したい。スーパーマーケット、その他の流通とも収益は対前年増となった。沿線の人々の消費活動が活発といえそうだ。利益は若干減っているけれど、既存店の不調と人件費増となっている。これは新規出店でカバーできるし、集客増のため雇用が増えた可能性もある。いずれにしても、生活消費が上昇傾向という見立てになる。東京通勤圏として相鉄沿線が認知されてきたと思う。

その反面、相鉄・JR直通線にとって悪い材料は、テレワークによる通勤需要の減少だろう。緊急事態宣言は解除され、通勤電車が混み始めた。しかし、多くの企業がテレワークを採用し、経験者が増えている。今後、医学が進歩して感染症対策が万全になったとしても、当初の計画通りの通勤客が利用するかどうかは不明だ。相鉄に限らず、多くの企業が業績見通しを不明とし、後日速やかに告知するという対応となった。

多くの人々がテレワークを体験して、不具合も明らかになった。会社側の通信環境やサーバー設備が不足して、オフィスより効率が落ちるとか、個宅側の通信環境が整っていないなどだ。集合住宅は多くの住民が日中に使い出して回線混雑を招くなどの声も上がった。だから、いったん通勤需要が回復するとしても、IT技術の向上や機器の低価格化、技術者不足が解消すれば、テレワーク人口は増えていき、通勤需要は下がる。

テレワーク関連技術の進化と通勤利用者の減少は、すべての通勤路線に共通の傾向となる。ただし、その場合も相鉄グループとしてはチャンスがある。東京通勤圏に後から参入しただけあって、沿線は未開発の土地が多い。不動産ビジネスでテレワーク時代の新しい生活様式に対応できる。

たとえば、時間貸しリモートオフィスを備え、高速な回線を備えたテレワーク対応マンションや、駅に近いテレワークルームなど、新時代に対応した物件を作ることもできる。いっそオフィスビルを建てて、都心の会社を住宅街に誘致するという考え方もある。すでに沿線の街が完成した他の路線よりも新規物件を建てやすく、先手を打てる。

相鉄グループは東京に対して新興通勤圏だけに、「ウィズコロナ」にいち早く対応できる可能性がある。そのとき、通勤電車はどのように変化していくだろう。