1970年代後半のブルートレインブームや、その後の赤字ローカル線廃止騒動を経験した「乗り鉄」に必携の本があった。交通公社のガイドシリーズ、オレンジ色の表紙の『種村直樹の鉄道旅行術』だ。きっぷの買い方や一人旅の心得を説き、少年たちを鉄道旅行に駆り立てた。1977年に初版発行、時代に合わせて1998年までに22回の改訂を実施。それから16年ぶりに最新版が登場した。
旅の誘い、計画から実行、記録まで指南
本書は1998年にJTB出版事業局(現・JTBパブリッシング)から刊行された『最新 鉄道旅行術』を底本として、2014年4月に刊行された。諸事情あって出版社は自由国民社となり、それを機に、「新版」の冠をつけてリニューアルしている。タイトルは『鉄道旅行術』に戻り、第1版となった。
全7章で構成されており、「A 旅に出よう」から「F 旅から帰って」まで、実際の旅の時系列にそって鉄道旅行のノウハウをまとめている。情報はもちろん最新データで、きっぷのルール、消費税、現在のダイヤに即した内容になっている。一方で、著者の種村氏が体験した楽しいエピソードはそのまま。旅立つ上での心構え、グループ旅行のコツなどは昔もいまも変わらない。初版当時の横書きから縦書きに変わったから、読みやすく感じる人も多いだろう。味わいのあったイラストがなくなってしまったのは残念だが。
「A 旅に出よう」は、旅程の立て方、プランニングのポイント、宿の予約方法を解説。あわせて「空白の日を作ろう」「グループ旅行の鍵」など、著者の体験にもとづくアドバイスがある。車内での出会い、乗り合わせた人と会話するきっかけなど、体験談にも参考になるところが多い。
「B 時刻表・列車」は、具体的な旅程の立て方や列車、乗り物選びを指南。鈍行列車の楽しみ方、JR特急列車の歴史、各地の観光列車などにも触れている。カタログ的ではあるけれど、鉄道に限らず、長距離バスや飛行機の利用方法もあり、鉄道ファンの視野を広げてくれる。
「C きっぷ」は、おもにJRの乗車券のルールや安く買うノウハウがある。往復割引や学生割引などの定番テクニックから、運賃制度を利用して、「短い区間を買って乗り越した方が安くなる」などの裏テク(?)も紹介する。途中下車の活用や指定席・自由席のメリットなどもあり、本書で最もボリュームのある章だ。
「D 出発から車中、旅先での楽しみ」は、持ち物リストに始まり、列車内の座席の選び方、自由席で確実に座る方法、指定席を予約した列車に乗り遅れたときの対処などを紹介している。「駅弁をたくさん食べるコツ」「カメラはバッグから出して肩に」など、鉄道旅行初心者に役立つアドバイスもある。
「E 線路と駅の魅力」は、汽車旅ならではの鉄道の楽しみ方を紹介する。ループ線やスイッチバック、線路脇の標識などの話題を扱う。全線乗りつぶしという趣味も紹介。汽車旅に目標や達成感を与えるという意味で、当時としては画期的な項目だった。
「F 旅から帰って」は3項目。旅から帰って、感激が薄れないうちに日程などを反省し、次の旅に生かす、お世話になった人へお礼を書く、というくだりに気づかされる。種村氏の実体験からのアドバイスだ。大人になってから本書を読むと、種村氏がときには父親のように、あるときには兄のような先輩の優しい目線で本書に取り組んでいたと感じる。鉄道旅行を志す少年たちにとって、本書にはこのように、親や先生が教えてくれないことをたくさん詰め込んでいる。
当時の鉄道旅行少年たちも、いまやミドルエイジ。時間やお小遣いにゆとりが出て、鉄道旅行に復帰したいなら、本書を読んで初心に帰ってみよう。あるいは我が子や孫に本書をプレゼントしてみたらどうだろう。「かわいい子には旅をさせよ」だ。