10月のIPOが見込まれていた半導体メモリー企業のキオクシア(キオクシアHD)が、11月以降のIPOになると報じられています。IPOすれば2024年最大のIPO銘柄となることが予想される同社ですが、2020年にはIPO直前まで進みながら、IPOを見送った過去があります。前回より時価総額を下げてIPOを目指すキオクシアは、今回こそIPOを実現するかその行方が改めて注目されます。

  • キオクシア、IPO実現なるか

    プレスリリースより引用

キオクシアが2024年最大のIPO銘柄に?

東芝のメモリー部門が独立して設立された、キオクシア(キオクシアHD)が時価総額1.5兆円超でIPOすると報じられています。本時価総額でのIPOが実現すれば、2024年最大のIPO銘柄になると見込まれます。

半導体そのものを作る国内の数少ない企業として、話題を呼びそうな同社のIPOですが、半導体製造を手掛ける企業の業績のブレは激しいことでも知られています。同社の現状はどのような状態なのでしょうか?

キオクシアHDの過去4期の決算について

キオクシアHDは上場企業ではないものの、2020年にIPO直前に至った実績もあり、簡単な決算書が開示されています。それらから過去4期の決算推移を見てみましょう。

2021年3月期 売上収益1兆1,785億円、営業利益66億円、当期純利益▲245億円
2022年3月期 売上収益1兆5,265億円、営業利益2,162億円、当期純利益1,059億円
2023年3月期 売上収益1兆2,821億円、営業利益▲990億円、当期純利益▲1,381億円
2024年3月期 売上収益1兆766億円、営業利益▲2,527億円、当期純利益▲2,437億円

業績のピークは2022年3月期です。また当期純利益まで黒字となったのは2022年3月期のみであり、2024年3月期は過去4期で最大の赤字を計上しています。

なお、2025年3月期は順調にスタートしており、第1四半期の売上収益は四半期で過去最高を更新しました。

IPO直前に至った2020年8月開示の目論見書を振り返る

キオクシアHDは2020年に、東京証券取引所から上場承認が下りて、IPO直前まで進みました。しかし最終的にIPOを見送っています。2020年8月には目論見書も開示されており、当時の目論見書から過去の決算を振り返ってみましょう。

2018年3月期 売上収益1兆2,293億円、営業利益4,567億円、当期利益7,186億円
2019年3月期 売上収益1兆744億円、営業利益458億円、当期利益116億円
2020年3月期 売上収益9,872億円、営業利益▲1,730億円、当期利益▲1,666億円
※2018年3月期は事業再編前の旧東芝メモリの決算
※当期利益=親会社の所有者に帰属する当期利益

  • IPO直前に至った2020年発表の売上収益※目論見書より引用

前回は2020年3月期決算で上場申請を行い、時価総額2兆円超でのIPOが見込まれていました。よって今回は2度目のIPO挑戦となりますが、当初10月予定とされていたIPOが11月以降となり、今回も一筋縄ではいかない可能性が生じています。

前回と今回の上場申請決算期の比較

前回の上場申請期となった2020年3月期と、今回の2024年3月期の決算を比較してみましょう。

両者ともに公開申請決算期が赤字です。ただし、前回に比べ今回は赤字幅が拡大(当期純利益▲1,667億円→▲2,437億円)しています。更に今回は2期連続の赤字です、

利益的には2018年3月期の旧東芝メモリ時代の営業利益4,567億円がピークであり、2022年3月期の黒字額も2018年3月期に比べると1/2以下の水準です。AI半導体で業績が絶好調のNvidiaやTSMCに比べると、同じ半導体銘柄でも取り扱い製品が異なるとはいえ、キオクシアの業績は物足りなさを感じるのではないでしょうか。

時価総額を下げてIPOに臨むことに

前回の上場申請時に同社は、時価総額2兆円超でのIPOを予定していました。しかし今回は時価総額1.5兆円超と報じられています。2期連続赤字という決算状況、そして前回の上場申請時よりも上場決算期の赤字が拡大していることから、時価総額を下げてのIPOは妥当と考えられます。

前回、IPO直前まで準備が進みながらIPOを見送った理由は公表されていません。しかし、4年後に時価総額を下げてIPOを行うなら、時価総額2兆円超でIPOを行えばよかった、と言えなくもありません。

キオクシアは世界的なメモリーメーカーではあるものの、赤字継続により株価の評価は難しい面があります。ただし一旦上場直前まで行った後、4年後に時価総額を下げてIPOに再挑戦するということは、IPOに向けて背水の陣を引いているとも考えられます。

なお、2020年当時、時価総額2兆円超の同社のIPOについて、株価が高過ぎるという意見もありました。その後の業績推移を見ると、IPOが実現した場合でもIPO後の株価は苦戦が予想され、無理にIPOせずに正解、と考えることもできます。

IPO再挑戦は成功するのか?

東京証券取引所から上場承認を得ながらも、直前に上場を見送る企業は時折発生します。その中の少なくない企業は最終的にIPOを実現しますが、IPOには至らない企業もあります。

キオクシアは前回のIPO挑戦から4年を経て時価総額を下げてIPOに臨む予定であり、株価よりIPO優先のスタンスです。2度目の挑戦でキオクシアはIPOを果たすことができるのか、11月以降に延期された同社IPOの行方が注目されます。