「コンデジのオートモードで、ブルートレインの作品を作ってください」。筆者はまたプロに無理なお願いをしてみた。主題となったのは、停車中の列車のヘッドマーク。誰にでも無理なく撮れるモチーフを作品に高めるコツを、マシマ・レイルウェイ・ピクチャーズの長根広和さんにうかがった。

ゆとりと広がりのある切り取りを

言わずと知れた寝台特急「北斗星」号のヘッドマーク。夜らしさの表現が作品のカギだ

コンパクトデジタルカメラを持った長根さんが向かったのは、27回目に続いて上野駅の在来線特急ホーム。「ここは、いつでも夜の雰囲気で撮れます。ブルートレインですから、太陽光線が当たるとつまらなくなってしまいますよ」。さらに、「始発駅なので停車時間が長くて、じっくり撮影することができます」とのこと。

次に、構図作りだ。主題をヘッドマークと決めたら、思い切って対象に寄り、切り取る。「こういうシチュエーションでは、顔全体を撮影したくなってしまうものですよね。でも、それだと単なる記録になってしまいます。ライト、運転席、ヘッドマークが同じ大きさになっては、主題かわかりませんよ」(欄外コラム参照)。

パッと見たとき、ヘッドマークだけが目に入る構図にするため、光学ズームをいっぱいまで使い、黄色い線の内側から寄れるところまで寄る。デジタルズームは、画質が落ちるので使用しない。画面内の配置は、下のイラストを参考に。

コンデジだからこそ重要なISO感度

とにかく何でも明るく写すのがコンデジの特徴であるとことは、27回目でもお話しした。「そのときは露出補正で明るさを変えましたが、今回はISO感度の調節も併用しましょう」。

ISO感度とは、写真が適正な明るさになるために必要な光の量をあらかじめ設定するもの。数値が大きくなるほど暗い場所でも明るく写るが、その一方で画質が低下する。光を受け止める面が小さいコンデジでは、特に画像のザラザラ感が目立ってしまうのだ。この状況でISOをオートにすれば、間違いなく数値が上がる。「ISO感度はコンデジだからこそ気を付けたいことの1つです。美しく印刷できる目安は、ISO400までです」(ただし、オートモードでは露出補正、IS0感度の調節ができない機種もある)。

ISO感度を下げて、プレビュー画面で露出補正をしながら、現場の雰囲気に近い明るさを作ってみよう。暗く撮りたいのだから、ISO感度調整後に改めてフラッシュを強制オフにするのを忘れずに。脇を締め、手ブレ防止のため連写しよう(27回目参照)。

ISO感度の調節、露出補正、フラッシュ強制オフという3つの段階。オートモードとはいえ、かなり敷居が高い気がする。しかし、プロはこう言う。「皆さんは、お手頃なコンデジこそが簡単できれいな写真が撮れると思っているようですね。しかし、シャッターを押すだけでそれなりに写る機能が備わっているのは、実は最新のデジタル一眼レフです」。コンデジは機能がシンプルな分、実は写真の知識と創意工夫が必要なのだ。「僕にとっても、難しい機材ですよ」。

「コンデジしか持っていないから……」。そんなネガティブな姿勢ではなく、もっとしっかりとコンデジでの作品作りに取り組んでみよう。

一眼レフカメラのマニュアルモードで撮っても、作品とは言えない例
記録写真としては全く問題がないですが、作品と呼べる強さがないですね。機材がよくても、何かを伝えたい、表現したいという気持ちを思い切って出さなければ、他人の目には止まりません。それには、どこかを大胆に切り取ることです」(長根さん)。