旅で最も重要な要素は宿泊施設だ。かけ流しの温泉旅館、眺望が自慢のリゾートホテル、料理自慢のペンションなど、目的も楽しみもさまざま。まずは宿泊場所から決める人も多いだろう。しかし、「乗り鉄」はちょっと違う。始発列車から最終列車まで活用するなら、観光客向けの宿泊施設は不便すぎる。乗り鉄の宿探しは、ビジネスホテル選びから始まるのだ。

眠るだけなら低価格ビジネスホテルで充分だ(写真はイメージ)

「乗り鉄」にとって都合の良い宿の条件は、「駅近」「早朝深夜対応」「食事なし」「低料金」だ。旅の目的は「列車に乗る」だから、駅に近いほうがいい。朝は発車時刻の間際まで眠れるし、夜は列車を降りてすぐにベッドに入れる。観光重視の宿泊施設は街中よりも郊外にあるから、駅から遠くなる。タクシーに乗っては出費がかさむし、バスの時刻を考えると、利用できる列車が制限される。

最終列車や始発列車に乗るなら、深夜のチェックイン、早朝のチェックアウトとなるから、フロントの24時間対応は必須だ。この時点で日本旅館や個人経営のペンションは候補から外れる。夕食や朝食をともなう宿泊施設は、決まった時間帯に食事が提供される。これも「乗り鉄」にとっては行動を制限される。素泊りでいいし、シャワーで充分。「眠る」だけだから、余計な設備はいらない。だから料金は安いほどありがたい。

最もおすすめはビジネスホテル

こんな条件でホテルを探すと、必然的に駅前のビジネスホテルが候補になる。必要最低限のシングルルームで、大都市なら5,000円前後。地方都市なら3,000円台から見つけられる。食事付きよりも素泊りのほうが安いし、ベッドのサイズや禁煙・喫煙の違いなどによって価格はさまざまだ。全国チェーンのビジネスホテルの場合、宿泊回数によってポイントが付いたり、無料宿泊できる制度があったりする。これに対抗して、地元資本のビジネスホテルはいくらか低価格になっているようだ。

大抵のビジネスホテルは、深夜のチェックイン、早朝のチェックアウトに対応している。チェックイン時に宿泊費を前払いすれば、チェックアウト時にフロントが開いていなくても、キーをポストに投げ込んで出発できるというシステムもある。チェックアウト時に無用な精算を発生させないためにも、客室から外線電話をかけたり、冷蔵庫の有料商品を使ったりしないようにしたい。もっとも、ビジネスホテルの場合、冷蔵庫は空っぽだ。自分で飲み物を持ち込んで使う。

ビジネスホテルに宿泊する場合は、「予約」が大切。飛び込みでフロントに交渉しても成功率は低い。極端な話だけど、ロビーから携帯電話で予約してもいい。行程が決まっている旅なら、インターネットのホテル宿泊サイトを活用しよう。料金は明瞭、設備もわかるし、口コミ情報で騒音や清潔感なども把握できる。筆者は某都市で最も安いビジネスホテルに部屋に泊まったところ、周囲の部屋で大学生たちが深夜まで騒ぎ閉口した経験がある。卒業旅行の時期でもあったけれど、口コミ情報の「壁が薄い」という記述を見逃していた。

ビュッフェスタイルのホテルの朝食はうれしいけれど、明るくなったら列車に乗るという旅では、時間が合わず食べられない(写真はイメージ)

安いホテルといえば、カプセルホテルという形態もある。本当に寝るだけの空間で、トイレは共同、風呂は大浴場、というスタイルが多い。2,000円前後の料金も魅力だ。筆者が経験したカプセルホテルは繁華街にあったせいか、「酔っ払いが夜明けを待つ所」という有様だった。大浴場のロビーで騒ぐ声がカプセルエリアにも響き渡り、ちっとも眠れなかった。もちろんそんなカプセルホテルばかりではないだろうけれど、当たり外れは多そうだ。

ネットカフェ、ファミレスも活用しよう

高校生や大学生の旅なら、真っ先に節約したい予算がホテル代かもしれない。筆者が学生の頃は、北海道内や九州内を走る夜行急行列車があった。ワイド周遊券を持っていれば、夜行列車を宿代わりに使えた。座席は固かったけれど、空いていればコーヒー缶で座面をスライドさせて、尻を落とさない姿勢で横に慣れた。いまやそんな夜行列車もないし、ワイド周遊券もないから、こんな話は参考にならない。

それでは、いまどきの高校生や大学生はどんな工夫をしているのだろう。旅先で知り合った大学生に聞いてみたら、ネットカフェやファミレスで夜明かししているそうだ。なるほど、「宿泊」しなくても、「朝を待つ場所があればいい」ということらしい。

じつは筆者も、ネットカフェをときどき利用する。夜明かし客向けの時間限定料金「ナイトパック」なら1,500円ほど。フリードリンクサービスもある。最近はマッシュポテトやスープの提供もあるそうで、食事代も節約できる。

これでマンガが読み放題、オンラインゲームもあって、寝る暇もないくらい遊べる。カーペット座席やマッサージチェア席など、眠りやすい席もある。ただし、法令で真っ暗にはできないし、パーティションで仕切られたオープンな空間だから、プライバシー面では難がある。慣れるまでは落ち着かないかもしれない。

究極は「駅寝」、ただし…

「乗り鉄」にとって、究極の宿泊所といえば「駅」だ。つまり「駅寝」。無人駅の待合室やベンチで夜明かしする。体力的に厳しそうで、不審者に間違われる可能性もある。田舎では野生動物に対する用心も必要だ。筆者は「駅寝」を経験していないし、おすすめもしない。

「駅寝」や野宿を愛好する人々はいる。登山でもないのに、大きなリュックにキャンプ用品一式を装備して、快適な無人駅ライフを楽しむそうだ。駅で心地よく眠るためには、寝袋やその下に敷くエアーマットの装備が必要という。ただ、「乗り鉄」の旅は移動の連続だから、眠るための荷物を持ち歩くなんて面倒だ。ネットカフェやホテルに泊まるなら、夜の備えは不要。昼間の荷物を減らしたほうがいい。

ここまで読んで、「いくら乗り鉄だからって、素泊りばかりではつまらない」と思われたかもしれない。それなら途中で1泊くらいは、ちょっといい宿に泊まってもいい。そんな普通の旅を組み込んで気分を変えてみたら、やっぱり駅に近いホテルのほうが恋しくなるかも!?