海外にいると、日本の姿が違って見えてくる。日本食、カルチャー、トレンド、価値観……世界各地の目線から見える“ニッポンの今”とは? 現地在住ライターが、海外から“逆照射”される日本の面白さをお届けする連載、第9回のテーマは、「ブラジルで注目を集めるキティカフェ」。
日系人約40万人が生活するブラジルのサンパウロ市は、海外最大の日系社会があることでも知られる。市の中心部に隣接するリベルダージ地区は、かねてから日本や中華系の飲食店や商店が軒を連ねることで賑わってきたが、ここ十年来は、日本アニメや韓国ドラマの人気に伴い、オタクカルチャー含む東アジアの文化を楽しむエリアとして、その人気はますます上がっている。リベルダージ散策を目的に地方からサンパウロを訪れる観光客も少なくない。
そんななか、キティちゃんの世界が楽しめる「Eat Asia(イート・アジア)」が新たな体験型飲食店として注目を集めている。
サンリオとのタイアップで注目度と売上がアップ
Eat Asiaの本店であるリベルダージ広場店は、週末に混み合うリベルダージ広場沿いに2019年にオープンして以来、店内に掲げられた赤ちょうちん、居酒屋風の店内設計、新橋近辺の街頭を想わせる「らーめん」、「カラオケ」などの電光掲示板などが“インスタ映え”する日本風ファミリーレストランとして、それなりに注目されていた。
しかしEat Asiaの知名度と人気が飛躍的に上がったのは、2021年に結んだサンリオとのタイアップによるものだった。サンリオは1999年以来サンパウロに現地法人を構え、ブラジルを含むラテンアメリカでキャラクター商品などのライセンス事業を展開しており、当地では主に学用品や子供服などのライセンスで堅実に認知度を上げてきていたが、飲食店とのタイアップはEat Asiaがラテンアメリカ初で、目下のところ唯一だ。
現在そのリベルダージ広場店は、広場に面したエントランスにハローキティとマイメロディの人形を飾って来客を迎えており、いずれも広場のマスコットかのように道すがら記念撮影する人も多い。
セーラー服姿の呼び込みスタッフが立つ店先には、ハローキティで装飾された「kawaii」全開の軽食・ドリンク用カウンターがあり、持ち帰り客にも対応している。子連れで来店した中年女性がカウンターの様を目にするなり「Que bonitinha!(なんてかわいらしいの!)」と子供より先に感嘆の声を漏らした姿が印象的だった。サンリオのキャラクターはここブラジルでもすでに親子二世代を虜にしているのだ。
「サンリオとのタイアップ直前直後で比較すると、当時売上は5割程度アップしました」と創業以来この店に勤める店長のシュウセイ・ロベルト宮平さんは、5年前を思い出して語る。ハローキティというファンの裾野の広いキャラクターがメディアからの注目のみならず、収益を底上げしたのだった。
「平日の集客は500~800人ほどですが、週末には1500~2000人ほど入ります」と現在の集客についても語ってくれた。
ロベルトさんから手渡されたメニューを見ると餃子、しめじバター、唐揚げなどの一品料理のほか、カツカレー、ラーメン、手巻き寿司など一般的に日本人に親しまれている品々が揃っている。人気の品は?と尋ねれば「ブラジルでは誰でも知っているヤキソバが当店でも人気ですが、一番人気はハローキティのハンバーガー類です」とのことだった。タイアップから5年を経てもキティ人気は健在なようだ。
人気のバーガーのバンズにはキティの顔の焼印が入っているほか、セットのフライドポテトの紙容器はもちろんハローキティの絵入りだ。キティファンにとっては、必ず一度は食べておきたいセットだろう。
サンリオワールドに没入! 二次元の世界にようこそ
現在7店舗が営業中のEat Asiaでは、どの店舗でもハローキティの世界に触れることができる。そのなかでもハローキティの世界を余すことなく堪能できるのが、同じリベルダージ地区に2023年にオープンした「Hello Kitty and Friends 2D by Eat Asia」だ。2Dの名称のとおり店舗全体が白黒2色の線画で描かれた二次元のコミックのような装飾が、サンリオワールドへの没入感を高めている。
建物一つがキャラクター世界で彩られた飲食店は地区には他になく、店全体が玩具のプレイハウスさながらのつくりで、大人も童心に帰れるスポットとして高い人気を得ている。当然、SNS投稿が目的で訪れる客が少なくないが、この店では常勤の撮影専用スタッフが撮影し、即時に写真を印画紙にプリントするサービスも提供している。
本気のファンも納得のテーマ性と物販
この日、母とともに初めて店を訪れたマリア・エドゥアルダ・サンタナ・ラモスさんは、サンリオのぬいぐるみがたくさんぶら下がったバッグを肩にかけて、物販コーナーで新たなグッズを物色していた。
「これは去年東京に行ったおじさんからのプレゼントです」とバッグに下がったハローキティのキーホルダーを見せてくれた。現在イタリアに留学中で休暇を利用してこの店を訪れたマリア・エドゥアルダさんはサンリオグッズの収集を始めて5年目だそう。
「イタリアにもサンリオのショップはあるけど、テーマ性の高いカフェはありません。グッズもここでしか売っていないものもあるんです」と言ってサンリオキャラクターのピアスを3セット購入した。本気のファンも納得の様子だった。
インフルエンサー王国ブラジルだからこその可能性
「インスタ映え」の言葉が示すように、インスタグラムはイメージ勝負のSNSとして人気の高いアプリだ。ブラジルでは情報発信に最も活用されるSNSであり、民間調査会社の2025年の調査によると国別でデジタル・インフルエンサーが最も多いのがブラジルで、383万人を数えるそうだ。料理の味や香りの特徴を写真や動画で伝えることが簡単でないなか、新たな体験を提供することは、SNS時代に効果的な飲食形態のあり方だろう。
日本料理を主とした飲食店がキャラクターのライセンス契約を正規に結んだケースはブラジルでは他になく、サンリオと提携したEat Asiaは、近年いずれも世界的に人気の高い日本のコンテンツと料理との融合で可能性を見出したケースとして今後の展開を見守っていきたい。

















