海外にいると、日本の姿が違って見えてくる。日本食、カルチャー、トレンド、価値観……世界各地の目線から見える“ニッポンの今”とは? 現地在住ライターが、海外から“逆照射”される日本の面白さをお届けする連載、第8回のテーマは、「映画『国宝』、カナダでの反響」。
2025年9月の第50回トロント国際映画祭(TIFF)にて北米プレミア上映された『国宝』。2026年2月からの一般公開を前に、カナダ在住の筆者は1月21日に行われた「一夜限りのIMAXによる北米上映」と、1月23日のカナダ日系文化会館(JCCC)での先行上映会を鑑賞した。客層や現地の反応から、トロント市場におけるジャパニーズ・コンテンツの可能性を探る。
世界的に評価される日本アニメは、カナダでもコア層にとどまらず幅広い世代に支持され、公開時には行列ができるほどの人気を誇る。しかし邦画実写、しかも「歌舞伎」という伝統芸能の世界を舞台とした作品に、カナダ人はどう反応したのか――。
前評判は上々、一般公開前の特別上映でさらに期待高まる
TIFFの上映では満席の中、李相日監督も来加して登壇。北米プレミアらしい華やかな雰囲気に包まれ、会場は大いに盛り上がった。また、一般公開前に実施されたIMAX上映は「北米で一夜限り」という打ち出しもあり、TIFFで鑑賞済みの観客や、IMAXならではの没入感を求める人々で、カナダの大手シネコン「シネプレックス」の317席は、ほぼ満席に。
また、多くの日系カナダ人や日本人が集うカナダ日系文化会館(JCCC)では、「日本で興行収入を22年ぶりに塗り替えた歴史的ヒット」という触れ込みも追い風となり、384席が完売する盛況ぶりだった。
一般に、作品が面白くなければ途中で席を立つことも珍しくないカナダ人だが、今回の両上映ではそのような様子は見られなかった。本編終了後には拍手が起こり、エンドロールが流れ始めても席を立つ人は少ない。上映後も、作品の感想や理解しきれなかった部分について語り合う姿があちこちで見られた。きっと、こうした人たちがリピート鑑賞をするのだろう。
Z世代も惹きつけた観客層
客層を見ると、IMAXでは20代から30代くらいのカップルが特に目立った。次いで40〜50代の観客層が続き、男女比率はおよそ半々。多様なバックグラウンドを持つ観客が集まっており、体感としてはアジア系ルーツを持つ人がやや多い印象だった。数名に話を聞いてみると、「日本に行ったことがある」あるいは「これから行く予定」という声が多く、日本への関心の高さがうかがえた。
いっぽうのJCCC(日系文化会館)では、日頃から日本映画の定期上映をしており、シニアの日系カナダ人が目立った。ほかにも在住日本人、日本文化に関心の高い若い世代、特にアジア系の女性が多い印象。お目当ては、もちろん吉沢亮さん、横浜流星さん。日本の若手人気俳優は、トロントのZ世代にも確かな訴求力を持っているようだ。
一緒に行った20代の知人男性は、とにかく映像の美しさに感動していた。着物やメイク、舞台背景など、一つひとつにアートを感じさせる要素があったという。IMAXでの没入感もすばらしく、内容を100%理解できたとは言えないものの、十分に引き込まれる作品だったのは間違いない。
なお「男が女役を演じる」という歌舞伎の世界に対しては、ジェンダーに関して寛容なカナダの若い世代らしく、さほど違和感はなく、あくまでも「職業としての役柄」として受け止めていたのには驚かされた。
ただ、少年時代の厳しい稽古のシーンについては、“児童虐待”ともとれる日本の古い教育スタイルに少し批判的だった。「昔の日本はねえ、あんな感じだったのよ。でも今の社会では許されないと思うよ」と説明した筆者。
外国語映画の壁だった「字幕」
これまで外国語映画は字幕を敬遠する人が多く、海外での劇場上映はハードルが高かった。しかし昨今は、アニメ作品をはじめ、YouTubeなどのソーシャルメディアや、Netflixの配信サービスを通じて、字幕付きコンテンツを視聴することが一般化している。年齢を問わず字幕への抵抗感は以前より薄れ、外国語映画配給のハードルも下がりつつある。今回も字幕上映は特に問題なく、チケット完売の一因になった可能性は高い。
トロントの多様性が育む「受け入れる土壌」
カナダは“移民の国”であり、多民族によって形成されている。なかでもトロントはカナダ最大の都市であり、人種や文化的背景の多様性が際立つ。シネコンの一部劇場ではインド映画や中国映画が常時上映されており、外国語映画が特別な存在ではない環境が整っている。
アニメ以外のエンタメにも広がる“日本コンテンツ”
現在カナダのZ世代の間では、日本旅行がトレンド化しており、日本への関心が高い。そうした日本旅行ブームと相まって、若い世代の間ではアニメ以外の日本の映像作品にも関心が広がっている。
たとえば、映画『ゴジラ-1.0』、Netflix Canadaで配信されている『今際の国のアリス』などは大人気だ。また世界的ヒットとなったTVドラマ『SHOGUN 将軍』も、「本格的な日本文化が描かれている」と評価されている。さらに20代前半の若者の間では、70年代〜80年代の日本のポップミュージック、いわゆるシティーポップも根強い人気だ。
今回の映画『国宝』は、歌舞伎という日本伝統のエンタメへの興味関心を広げたことは間違いない。また、歌舞伎界での世代交代も影響して、海外でも新たな年齢層の開拓につながっていくのではないだろうか。
訪日ブームがもたらす変化
日本の国土の約26倍という広いカナダの総人口は、約4,100万人(2025年推計)。日本の首都圏(1都3県で約3,700万人規模)とほぼ同等の規模だ。そのカナダから、昨年12月には57,200人が日本を訪れ、12月としては過去最高を記録。同月の伸び率ではアメリカを上回った。
こうした訪日増加の影響もあり、日本に対して好意的なカナダ人は確実に増えている印象だ。円安の影響で訪日しやすいということもあるが、日本食をはじめ、文化、観光、ファッションなど、多方面にわたって人気になっているのは事実だ。
ちなみにビジネスでも、これまでは中国系や韓国系オーナーによる日本食レストランが多かったが、ここ数年で、トロントのダウンタウンを中心に、日本から進出する日本食レストランの数が急増している。
今後もアニメやゲームなどのポップカルチャーとともに、『国宝』のように伝統文化を題材にした作品も、俳優や作品性次第で若い世代を含めた新たな市場を切り拓く可能性は高い。そんな手応えを感じた。








