海外にいると、日本の姿が違って見えてくる。日本食、カルチャー、トレンド、価値観……世界各地の目線から見える“ニッポンの今”とは? 現地在住ライターが、海外から“逆照射”される日本の面白さをお届けする連載、第2回のテーマは、「なぜアメリカ・ユタ州の家族は日本発祥のRound1に集まるのか?」。
日本のゲームセンターと聞いて、多くの人が思い浮かべる風景とは少し違うものがアメリカ・ユタ州にはある。ショッピングモールの中にあるRound1(ラウンドワン)には、年齢も目的も異なる人々が、思い思いの時間を過ごしにやってくる。
ここで楽しまれているのは、日本発の娯楽そのものというより、飲酒を前提とせず、世代を問わず過ごせる「居場所」としての使われ方だ。 アルコールを選ぶ人も、そうでない人も、同じ空間を共有できる。その柔らかな距離感の中で、日本で生まれた遊びの文化は、ユタ州の暮らしに寄り添いながら、静かに形を変えて根づいている。
ショッピングモールの中にある、特別ではない遊び場
Round1は、日本で誕生したゲームセンターをルーツに、2000年代以降、海外展開を進めてきた。アメリカへの進出は2010年に始まり、現在では各地のショッピングモールを中心に店舗を構えている。ユタ州にRound1が登場したのは、そうした流れの中でのことだった。
日本発の娯楽文化がユタ州で受け入れられている理由は、目新しさや話題性だけではない。Round1が登場する以前から、ユタ州にはボウリング場や映画館、飲食店などを併設した複合娯楽施設が数多く存在してきた。
背景には、家族やコミュニティで時間を共有する文化に加え、飲酒に依存しない娯楽への需要、郊外型の街づくりと車社会といった生活条件が重なっている。Round1は、そうした土地柄と自然に重なり合うかたちで受け入れられていったのだ。
気軽に立ち寄れる1階フロア
入口を入ると、1階はやや照明を落としたゲームセンターのフロアが広がる。にぎやかすぎず、落ち着きすぎない、その中間の空気だ。ショッピングモールの店内からは、ガラス越しにずらりと並ぶクレーンゲームが、通路を歩く人の視線を自然と引き寄せる。特別な目的がなくても足を止めてしまう存在だ。
ユタ州の20代の若者たちの間でクレーンゲームは、爪を意味する英語から「クロウマシン(Claw Machine)」と呼ばれることが多い。
ゲーム機を利用する際は、まずカウンターでRound1専用のカードを購入し、キオスク端末を使ってポイントをチャージする仕組みだ。
このフロアを行き交う人たちの様子を見ると、買い物の途中や放課後の時間帯に、少し時間が空いたから立ち寄った、そんな利用者が目立つ。
手ぶらで入ってきて、数台のマシンを眺め、気になるものがあれば足を止める人。また通路の一角では、買い物袋を手にした母親と、小学校低学年くらいの女の子が並んでクレーンゲームをのぞきこんでいる姿も。
店内には、「日本から直接届いた」といった意味合いの表示が添えられたゲーム機も目にする。日本発の娯楽を「現地仕様」に置き換えつつも、そのルーツをあえて示すことで、Round1はユタ州の利用客に独自性と信頼感を伝えているのかもしれない。
地域性と重なり合う「飲まなくても成立する娯楽」
ユタ州は、世代をまたいで家族が集まる習慣が色濃く、飲酒を伴わない娯楽への需要が高い地域として知られている。外食や買い物と同じ延長線上で、子どもから大人までが安心して過ごせる場所が、日常の中に求められてきた。
背景には、地域に根づく宗教文化の影響がある。州内には、末日聖徒イエス・キリスト教会の信者が多く、アルコールを控える生活を選ぶ人々が少なくない。
これは特定の価値観を押し付けるものではなく、あくまでも日常の選択のひとつとして受け止められている。飲酒を前提としない集まり方が自然であるという感覚は、ユタ州の暮らしの中では特別なものではない。
夜や週末に人が集まる場所は、必ずしもバーやパブに限らない。家族や友人同士が、年齢や立場を問わず同じ時間を共有できる空間が、日常の中に必要とされてきた。
2階フロアは、フードコートのすぐそばに、卓球台やビリヤード、カラオケといった設備がまとまって配置されている。1階のゲーム中心の空間とは異なり、ここでは腰を落ち着けて過ごす人の姿が目立つ。
食事の前後に少し体を動かしたり、会話の延長で遊びに移ったり。階ごとに役割を分けながら、ユタ州の生活リズムに合わせた使われ方が見てとれる。
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フードコート横にある卓球台
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「パーティルーム」と書かれたカラオケルームの入口。集まって過ごすための空間であることが、言葉からも伝わってくる
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友人同士で気軽に楽しめるカラオケルーム
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小さな子どもの誕生日パーティ向けカラオケルームは、カラフルで明るいデコレーションが目を引く
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ショッピングモール2階通路からのぞく、ガラス張りのRound1ビリヤード場
変化の途中にあるユタ州の「今」
近年のユタ州では、観光客の増加や他州からの移住者の流入を背景に、お酒を提供する飲食店や娯楽施設が少しずつ増えてきた。街の表情は以前より多様になり、夜の過ごし方の選択肢も広がっている。観光地としての顔を持ち始めたユタ州は、変化に応じて柔軟に姿を変えつつある。
一方で、お酒に依存しない娯楽文化が、今も生活の土台として息づいていることに変わりはない。家族で過ごす時間、世代を超えて同じ空間を共有する感覚は、特別な価値観として主張されるものではなく、日常の中で静かに続いてきたものだ。
こうした流れの中で、ユタ州のRound1にもバーエリアが設けられている。その空間には両方が無理なく共存しており、飲酒を選ぶ人もいれば、そうでない人もいる。
誰かの過ごし方が、他の誰かの時間を邪魔することはない。そこにあるのは、どちらかを優先するのではなく、選択肢を並べておくという姿勢だ。
ユタ州の暮らしの中で形を変える日本文化
お酒に依存しない娯楽文化と、観光地として変化していく現実。いずれかを選び取るのではなく、折り合いをつけながら共存させていく。その過程そのものが、今のユタ州の風景なのだ。
日本で生まれた娯楽のかたちは、この土地の暮らしに合わせて少しずつ姿を変え、日常の中に溶け込んでいる。そんな「現地化した日本文化」の現在地を、ユタ州のRound1は派手に主張することなく、静かに示しているのかもしれない。













