私はこれまで様々な場所を訪れ、その土地やそこで暮らす人々の魅力を発信してきました。つい外側の世界に目を向けてしまいがちな私でしたが、今回は内側に着目してみることにしました。今回ご紹介するのは、私の地元である愛知県。そこで居酒屋を運営されている、伊藤すがおさんです。
愛知県では飲食店の時短営業要請期間が続いていますが、すがおさんは今年の1月から、お店でカレーの無料配布を行っています(現在、このサービスは終了しています)。「この大変な時期に? どうして?」と私の中ではハテナがいっぱい。早速問い合わせてみることにしました。
奇跡の居酒屋「楽楽」
カレー無料配布の話の前に、まずはお店についてご紹介します。今から20年前のこと、名古屋駅から程近い場所にオープンしたのが、居酒屋「楽楽」。当時はオーナーと一緒に運営している形だったそうです。2013年に店を譲り受け、2015年にはありがとう株式会社を設立して、現在に至ります。
この居酒屋の特徴は「コース専門、飲食物の持ち込みOK、ドリンクはセルフサービス」という点。そしてなんと、従業員の方はおらず、すがおさん1人で運営されています。
「50人くらいだったら、1人で回せますね~」と笑顔で話されていました(ちなみに、すがおさんは「50席を1人で回す奇跡の居酒屋」というタイトルでKindle版電子書籍を出されています。興味のある方は、是非チェックしてみてください)。
なぜ1人で運営できるのか不思議ですが、お客さんに手助けをしてもらうことで、成り立っているのだとか。心温まるお話ですよね。地域の方々にとっても、大切な憩いの場所となっていました。
コロナ禍での変化
新型コロナウイルスの影響で、現在も各方面で厳しい状況が続いていますが、もちろん楽楽もその影響を受けました。具体的な影響が出始めたのは昨年の2月後半で、そこからキャンセルが相次いだそうです。
第一波の際には、「すぐにお客さんも戻るだろう」と考えていたそうですが、夏頃にきた第二波の状況を見て、「本気でヤバイ」と経営について考えるようになったそうです。
お客さん限定!カレー弁当の無料配布
そんな1月のある日のこと、11日までとされていた営業時間短縮要請(酒類を提供する飲食店などに出された要請)の期間延長が発表されました。その知らせを受けて、すがおさんが"自分にできることは何かないか"と考えて始めたのが、カレー弁当の無料配布だったのです。
1月17日(日)・23日(土)・24日(日)の昼11時30分~14時まで、ご来店された方に1人1皿カレーを無料配布するという内容です。大変な状況下でこのような取り組みに至ったのは、「お客さんに少しでも元気を届けたい、そして少しでもお客さんの顔が見たい」といったお客さんに対する想いでした。
すがおさんの作るカレーは、小麦なし、動物性不使用のグルテンフリーカレー。玉ねぎがたくさん入った、優しい味わいのカレーです。最後にピリッとしますが、甘口なのでお子様でも大丈夫。撮影で伺ったときに私もご馳走になったのですが、本当に美味しかったです。幸せな時間を過ごすことができました。
すがおさんは、コロナ禍で苦しい状況が続く中、心が折れそうになりながらも、「この店を潰してはいけない」という想いで、今日まで営業を続けてきたそうです。現在も不安はありますが、第三波が去った後のことを視野に入れながら、日々考えを巡らせているのだとか。
いつか外でゆっくり食事ができる世の中になるまで、どうかこのお店が続きますように。そして私もぜひもう一度、伺いたいと思います。
※こちらの記事は、電話で取材をし、後日撮影をしたものです
南谷有美(なんや・ゆみ)
カメラマン/ライター
2018年4月に認可外保育園の園長を退いてから、各地を巡る旅人に。リモートで仕事をしながら、好きな場所で好きなことをして生活しています。