新事業モデルの構想、バンガードとのパートナーシップで共感を得ることは確信
米バンガード社は、日本の投資信託が販売会社主導でもって彼らの都合で商品開発が行われ、彼らの手数料稼ぎのツールとして個人に供給されている業界構造に決して与せず、よって我が国では一般的にはほとんど知られていない存在でした。
私が描いていた新たな事業モデルは、澤上さんから徹底的に理念と戦略を叩き込んでもらった直接販売のスタイル。即ち銀行・証券といった販売会社を通さずに、ファンドの製造業者たる投信会社が自らダイレクトに個人投資家に販売する方式です。
この直販モデルはバンガード社の創業以来における発展の原点ともなっており、彼らとのパートナーシップにおいて共感を得られることは確信がありました。さらにその提携の仕組みは、バンガード社が自信と誇りを持つ各地域ごとのインデックスファンドを新会社が複数買い付けて、アセットアロケーション(資産配分)して行くファンドオブファンズ形式でした。つまりバンガード社がサブファンドの提供者となり、新会社がそれを国際分散投資に叶うべくポートフォリオとして組み合わせ、且つ自ら販売者となるわけです。
この事業モデルであれば、バンガード社は運用に必要なパーツを提供していく役割だけなので、投信会社としての様々な事業リスクを負うのは専ら当方であって、先方への説得性は充分だと思っていました。
株主として想定されたクレディセゾンの関与が、納得性と信頼感の要件に
但し新会社は一切販売実績のない未知数の存在であり、相応の運用資産積み上げが見込まれる蓋然性をどのように構築していくかが最大の課題でした。
バンガード側として、加藤さんは日本の既存金融業界のアンチテーゼを構築し、挑戦していく気概がみなぎっています。そこにビジネスとしての実現可能性を裏付ける上で、新会社の株主として想定されたクレディセゾンのコミットメントが、大きな納得性と信頼感を彼らに与える要件となりました。
セゾンの資本による認可申請が仇、自ら取り下げた過去を金融庁が指弾
それは投資信託事業を認可し監督する立場の金融庁に対しても同様でした。ところがそれは仇にもなりました。セゾンの資本による認可申請ということで、数回目に当局を訪れたとき、認可申請を自ら取り下げた過去を指弾されてしまったのです。当然のことですが、記録に残っていたわけです。
社会的責任が重い仕事だからこそ、許認可事業となっている投資信託ビジネスです。その認可を簡単に返上してしまうような会社では信用出来ないわけです。そのため前科者の如く、再び信用をいただくまで少なくない時間を費やしてしまいました。
クレディセゾンの取締役会、多数のメンバーが出資に否定的
バンガード本社は加藤さんの懸命な説得努力によって、実力未知数のセゾンをパートナーとして認知してくれました。ところが新投信会社の株主となるはずのクレディセゾン取締役会は、多数のメンバーが出資に否定的です。一部上場の大企業ですから、いくら林野社長の理解があろうと、取締役会が承認しなければ決して資本は出て来ません。
名だたる大手金融機関が営む既存金融業界の常識や慣習とは正反対と言ってもいい直販の事業モデル。売れ筋投信を次から次に出す既存のビジネスとは逆の長期資産育成型ファンドで、しかも販売手数料は敢えて取らない、信託報酬も出来る限り安く…となれば、わざわざ業界のしきたりに逆らってまで儲からないような事業に取り組む意義を疑問視するのは至極当然のことだったと思います。
2006年6月にとりあえずセゾン投信株式会社は設立出来たものの、金融庁の許認可を前提とした本格的な出資は頓挫したまま、再び大組織の壁にぶち当たってしまったのです。
執筆者プロフィール : 中野晴啓(なかの はるひろ)
セゾン投信株式会社 代表取締役社長。1963年東京生まれ。1987年明治大学商学部卒。同年西武クレジット(現クレディセゾン)入社。セゾングループのファイナンスカンパニーにて債券ポートフォリオを中心に資金運用業務に従事した後、投資顧問事業を立ち上げ運用責任者としてグループ資金の運用のほか外国籍投資信託をはじめとした海外契約資産等の運用アドバイスを手がける。その後、(株)クレディセゾン インベストメント事業部長を経て2006年セゾン投信(株)を設立、2007年4月より現職。米バンガード・グループとの提携を実現させるなどにより、現在2本の長期投資型ファンドを設定、販売会社を介さず資産形成世代を中心に直接販売を行っている。また、全国各地で講演やセミナーを行い、社会を元気にするための活動を続けている。
公益財団法人 セゾン文化財団理事
NPO法人 元気な日本を作る会理事
著書
『運用のプロが教える草食系投資』(共著)(日本経済新聞出版社)
『積立王子の毎月5000円からはじめる投資入門』(中経出版)
『投資信託は、この8本から選びなさい。』(ダイヤモンド社)など
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