下記はドル/円とユーロ/ドルの今年に入ってからの動きです。主要通貨同士ながら、全く動きが違っていたことがわかります。つまり、ドル/円はレンジ相場、ユーロ/ドルはトレンド相場がそれぞれ続いています。

ドル/円 日足

ユーロ/ドル 日足

ではどちらが相場をリードしたかですが、これはトレンド相場であるユーロ/ドルだと思います。

なぜユーロ/ドルは上昇トレンド相場になったかですが、特に4月後半からトランプ大統領が北朝鮮との緊張関係を強め、それを欧米の大口投資家が嫌って、ドルからユーロへ資金を移動させたためだと思われます。そしてその後、「ECBが秋には量的緩和の縮小を行う」とドラギECB総裁が予告したこともあり、更にユーロ買いに拍車が掛かりました。

つまり実際のドルからユーロへのフロー(資金の流れ)があったために、ユーロ/ドルはユーロ高方向のトレンドが出来上がったわけです。

一方、ドル/円はこうした一方向フローがなかったために、往ったり来たりのレンジ相場を続けてきました。しかし、そうしたドル/円も値幅が徐々に収束を始めており、近い将来レンジブレイクするものと見ています。

意見が分かれるドル/円の見方

ドル/円の見方は分かれています。私のように下落するという見方もあれば、上昇するという見方、そして動かないという見方などいろいろです。

ただし、最低限言えることは、上記ドル/円チャートでも言えますが、複数の移動平均線が日々線に絡んで収束してきているということです。これが意味することは、近い将来レンジ相場が終わり、トレンド相場が始まることを告げているものと思われます。

問題は上げか下げかのどちらかですが、ドルの総合的な強弱を示すドル/インデックスを見ても、ドル/円はドル安方向に向かう可能性が高いと思われます。またシカゴIMMの直近の円ポジションも、ネットで12万1,489枚のショート(1枚=1,250万円)と結構高水準のショートを維持しており、ドル高円安へのポジションはかなり積み上がっているものと思われます。

確かに北朝鮮問題などは心情的にドル買い円売りです。しかし、今お話ししたシカゴのポジション状況通り円売りにはなりますが、既に備えができている分それ程円安にはならないと思います。したがって結論的に申し上げれば、ドルはドル/円を含め、全面安になるものと思われます。

2014年にドルは急上昇、それから昨年まで高値圏を維持していましたが、今年に入って反落となり、ここにきて2014年以来の往って来いのドル安が起きているように思われます。

以前にも申し上げたかもしれませんが、2011年の9.11米同時多発テロのときはジョージ・ブッシュ大統領でした。彼の政策をやはり投資家が嫌い、2001年1月から2009年1月にわたる彼の2期8年の任期の間は、ほぼ一貫してドル安でした。

そして、今回のトランプ大統領も米国にリスクをもたらすような政策を取り続ける限りドル安は続くものと思われます。その意味では、今はまだ大人しいドル/円ですが、いったん動き出したら止まらなくなる可能性がありますので十分警戒が必要です。

ことに、最近EUR/JPYはじめクロス円がかなり無理をした買い上げを見るとき、ドル/円が反落に転じたときが怖いものがあると思っています。

なぜならクロス円はあくまでも理論値であって、リアルにクロス円のマーケットがあるわけではないからです。ですので、何かがきっかけとなってパニックになると、流動性が極めて下がり、逃げたくても逃げられないという事態に陥ります。

そういう意味で、あまりクロス円は長く持たない方が良いと思います。例えばリーマンショックのとき、豪ドル/円は45円もの急落をしました。くれぐれも用心してください。

執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら