ドル/円は、戦後100円を割り込んだ局面が2回ありました。
それ以外は、100円手前でしっかりと踏みとどまっていることがわかります。
これは、この話のヒントになりますが、自民党が政権を握っていることに関連しています。
そして、財務省・日銀が、これまで、110円を割れてくると、頻繁に円高けん制発言を繰り返してきたことが、100円が彼らと自民党にとっては、極めて重要なラインであったことを物語っていると思います。
100円を割り込んだ局面のひとつは、1995年です。これに至る原因は、さらに10年遡った1985年にありました。
1985年、ニューヨークのプラザホテルで行われたG5先進5カ国財務相・中央銀行総裁会議で、日本の貿易不均衡の是正を狙って合意されたプラザ合意により、大幅な円高誘導がなされ、1985年に240円にあったドル/円は、10年後の1995年には、100円を割り込みました。
この時、円借款(※)で日本から円で借り入れていた東南アジア諸国は、止まらぬ円高にパニックを起こし、損切り的にドル売り円買いに出たため、ドル/円は、オーバーシューティング(行き過ぎ)し、一時79円75銭まで急落しました。
※円借款:JICA(国際協力機構)が日本政府に代わって、開発途上国に対してインフラ整備などのために低利かつ長期の条件で、開発資金を貸し出すもの。
つまり、10年間で160円ものドル安円高を見ました。
これは、ドルの価値が3分の1になり、円の価値が3倍になるという凄まじいものでした。ただし、100円以下にいたのは、1年足らずで100円以上に戻しました。
そして、もうひとつは、民主党が政権を取った、2009年~2012年の間でした。この時は、まるまる3年間、100円以下にいました。大量ドル買い介入も実施されましたが、全く効果はありませんでした。
この間に、戦後最安値となる75円78銭をつけています。
1995年の100円以下は、10年間に及ぶジャパンバッシングの最終局面で、既に申し上げましたように、勢い余ってのオーバーシュートで、やむを得ない面もありました。
しかし、2009年~2012年については、自民党が政権維持をしていれば、避けられたかもしれない、100円以下だったと言えます。逆に言えば、自民党が今後政権を維持するなら、100円割れを全力を挙げて回避しようとするものと思われます。
ただし、ドル/円を囲む環境は変わってきていることも事実です。
まず言えることは、意図的な通貨安を禁じる為替条項をちらつかせるトランプ米大統領の手前、財務省・日銀はドル買い円売り介入を実施できません。
2017年1月のトランプ大統領就任以降、財務省・日銀は、機関投資家のオープン外債に伴うドル/円の売り買いに頼るしかありませんでした。
また、世界的に、リスクを回避するために大量の円買いが頻繁に出る時代になっています。しかも、直接日本が関係しないことでも、円買いか大量に出るようになっています。
こうなると、自民党がたとえ政権を取っていても100円が盤石の備えとは言えないのではないかと思います。したがいまして、結論的には、100円を底と見るのは危険だと見ています。
尚、余談になりますが、戦後最安値は、75円78銭ですが、もともと、1871年(明治4年)にドル/円相場が誕生した時は、1ドル1円だったことを考えれば、たとえ、75円であっても、決して超円高とは言い切れないと言えます。