損切りをどこに置くのかは、結構悩ましい問題です。避けた方が良いと思うのは、移動平均線といったチャート・ポイントや、切りの良い数字などです。これはあきらかに損切り狙いの投機筋に、あえて「狙ってくれ」と言っているようなもので、待ってましたとばかりに狙われます。
さて、今回は私自身の損切りの考え方の変遷についてお話しし、皆さんが損切り方を決定するに当たってのお役に立てればと思っています。
為替ディーリング草創期はロスカットも置かずにトレード
まず最初は、銀行の為替ディーリング草創期の頃です。当時は統一した損切りのルールもない時代で、損切りを置かなければならないという強制力もありませんでした。
ですから、ロスカットも置かずにトレードしていましたが、これ以上やられると足腰が立たなくなるということは、ある種本能的にわかっていて、そういう状況になるとためらわずに自分の意思で損切っていました。ですので、むしろ居心地の良い状況だったと言えます。
しかし、日を追うことにリスクを管理しようとする動きは強まり、ロスカット・ルールが整備されていきました。ただ、これはあくまでもディーリングルームの管理部門が頭で考えているものなので、なかなか実戦にはぴったりとは来ませんでした。
そして、そうこうしているうちに私はニューヨークに転勤することになりました。懐の深い東京から懐の浅いニューヨークに移ると、それまでの東京のように鷹揚にアゲンスト(不利な状況)に甘んじてはおられなくなり、適切な損切り法について考えなくてはなりませんでした。
そんなある日、上司に呼ばれ、「ある米系ファンドがトレーダーにさせている損切り点の算出法を、お前もやってみるか?」ということで、一も二もなくやってみることにしました。その手順を、以下お話ししましょう。
米系ファンドがトレーダーにさせている損切り点の算出法
まず、できれば過去半年分ぐらいのトレードのうち、自分が勝ったポジションだけを抽出します。そして、その勝ったポジション一件ずつの、ポジションを持ってから手仕舞うまでの、最大アゲンスト幅を記憶ベースで良いので抽出し、勝ったトレードの件数で割って平均値を出します。これが私の場合、35ポイントでした。
つまり、勝ったポジションの場合、ポジションを持ってから、手仕舞うまでに35ポイントのアゲンストしか受けていないということがわかりました。正直、「そんなに狭いものか」と驚きました。そして、一応ダマシもあるかと思い、遊びを10ポイント追加して、45ポイントの損切りで25年ぐらいの間やってきました。
ただ、やはり損切り点まで近いとハラハラすることも多く、もっとゆったりとポジションが取れないかと思うようになってきました。
しかも、もういい年ですから、「まずい」と思えば自分の意思で、何のためらいもなくポジションを切れるようになっていましたので、それこそ何らかの突発的な事件・事故が発生したときのために、ロスカットは遠くてもいいので置いておくことにしました。その結果、従来のアゲンスト幅45ポイントから90ポイントに変更しました。
こうすると、ひとつには気分的に楽になりましたし、例えば、アゲンスト幅が45ポイント付近になってみて、状況に応じて切るか静観するかを自分の判断でできるようになったことは、むしろ自分が大人になったと思いました。
ロスカットは安全弁ですので必ず置くべきですが、今、お話ししてきましたように、その置き方によって、ロスカットにしか頼れなかった自分から、一歩成長した自分を見ることができます。
このように、トレーディングでは他力本願ではなく、自分から能動的に行動する積極さが要求されると思いますので、どうか今回お話ししたことを参考にしてみてください。
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