ひと言に"鉄道撮影"といっても、その目的は鉄ちゃんによって様々。鉄道写真初心者の方も、ただなんとなく撮影するだけではなく、目的意識をもったほうがより楽しくなると思いませんか。
何度か列車の撮影に行けば、お目当ての列車を見ている時間より、周囲の人々を見ている時間の方がはるかに長いということに気が付きます。鉄道撮影は、"列車と自分、自分と列車"という感覚で続けていける趣味ではないのです。まずは、鉄ちゃんは何のために写真を撮るのかと、鉄道を利用する人々、働いている人々への気配りについて解説します。
「8月第○週の日曜日に、SLマイコミ号(架空です)にヘッドマークが付き、2両増結される」という情報を得たテツヤくん。撮影地に到着して周囲を見渡すと、いつもよりもたくさんの鉄ちゃんがいることに気付きました。中には、既に何度か会った人の姿も。「みんな何のために貴重な時間を費やしてここに来ているんだろうか。いや、それより僕は一体何のために鉄道撮影をしているのだろうか……」と少し考え込んでしまったテツヤくん。パソコンのハードディスクにたまったマイコミ鉄道の写真と、撮影地に向かうために使ったガソリン代のことを思うと、もっと熱中したいような、目的意識も無いまま続けている自分がいい加減に思えてきてやめたいような複雑な気分になってきました。
鉄ちゃんには、はっきりとした目的意識を持った人が多いです。例えば、できるだけ多くの車両やヘッドマークを撮影したいとか、フォトコンテストへの挑戦、Webサイトやブログの素材作りといったわかりやすい目的もあります。また、それ以外にも鉄ちゃんの数だけ目的があるといえます。それらに共通することは、「鉄道を記録したい! 」という強い意志といえるのではないでしょうか。写真を撮ることを「撮影」とはいわずに、「記録」と呼ぶ人もいるほどなんです。一般の人が写真を撮るのは、思い出作りや自己表現が目的ですから、記録している鉄ちゃんたちとは現場でのテンションが違ってくるわけです。では、"記録する"ことにはどんな意味があるのでしょうか。
例えば、「SLマイコミ号が8月第○週の日曜日に2両増結で走り、特別なヘッドマークを付けた」という写真は、経済や観光、地域の研究をする人にとっては、この時期、この地域にそれだけの特別な輸送の需要があったということの記録になります。模型を作る人にとっては、その状態を模型で再現するための記録になります。また、構図によっては街の景観や農作物の出来具合、人々のファッションなど、鉄道をとりまくすべての現象の記録にもつながるわけです。それだけ鉄道は身近でもあり、大きな産業なのです。特別な列車が走っているシーンを撮影した写真は、後々も日時を特定しやすく、意味を持ちやすいともいえます。
自らの「記録」がまとまって、交通史や地 方史、地域経済学、産業考古学などの論文を書くという鉄ちゃんも珍しくありません。好きだからこそ、撮影とともにしっかりした観察をするようになってくるのでしょうね。
また、撮影の現場で忘れてはならないのが、鉄道を利用するお客さん、鉄道会社の方々、通りすがりの人々の肖像権です。少し前までは、人々の自然な姿を撮影した写真が評価されたものでしたが、最近はプライバシーの意識が高まっていますから、撮影する際にも、さらにはその写真をブログやWebサイトなどでの発表時にも注意が必要です。人を大きく入れて撮りたいときは、いきなりカメラを向けたり、こそこそと隠し撮りするようなことはやめて、必ずお願いして許可をもらいましょう。
いつもと違うSLマイコミ号の姿を撮影して、テツヤくんは自分のコレクションが増えたような気持ちになりました。「これからはヘッドマークが付く日を狙ってみようかな」となんとなく目標ができました。鉄道写真を撮る際の目的は、何も高尚な内容である必要はありません。目的意識を持つことで、他の鉄ちゃんたちとも自然に関わることができるようになります。
ミニ情報
岩手のローカル線を走る夏の臨時列車「秘境駅号」
普通列車ですら通過するような利用者の少ない駅にわざわざ停車し、そこで撮影もできるイベント列車があります。その名も「秘境駅号」。JR盛岡駅からJR山田線を経て、JR岩泉線の岩泉駅までを往復します。使用車両は、引退間近の国鉄型ディーゼル車、キハ52、58(予定)。岩手の美しい山里の中を「国鉄色(オレンジ×クリーム色)」の列車が走る姿は、懐かしさが漂います。2007年夏の運転日は9月16日、23日、24日。指定席の予約はお早めに!!(自由席もあり)