「SHE is NO ONE. ~だからこそ、何にでもなれる~」
コーポレートサイトにアクセスすると、まず目に入ってくる力強いメッセージ。それこそが、SHEの目指す世界である。
2017年4月の創業から約5年。SHEはミレニアル世代の女性に向けたキャリアスクール「SHElikes」を中心に事業展開してきた。これまでの累計受講者は4万人、現在の会員数は5,000人にも及ぶ。2年前の会員数は1,000名だったというから、右肩上がりだそうだ。
同社がこれほどまでに急成長を遂げた要因の1つが、人材の層の厚さである。スキルはもちろん、特徴的なのはマインド面。SHEで働くメンバーがビジョンに深く共鳴し、SHEで働くことに誇りを抱いている。
SHEはどのようにしてメンバーのモチベーションを高め、ビジョンを浸透させられたのか。SHEで働く人たちは、SHEという環境をどう捉えているのか。
同社のコーポレートユニットHRグループ マネージャー 松尾 恵梨子氏に話を伺った。
固定概念に縛られず、自分らしい生き方を
取材を実施した「SHE Ginza」は、「人生に置ける学び、出会い。その全ての経験が私たちの中に積み重なり命の色を深くしていく。そんなあなたの人生のグラデーションを 共に作っていきたい。」という想いから、2020年2月にオープンした。
淡いピンクと水色がグラデーションのように混ざり合うカラーが印象的で、凝ったデザインのテーブルやソファが並ぶ。一般的なオフィスのイメージとはかけ離れた内装だが、これこそがSHEの世界観を体現した空間なのだ。
SHEが主事業として展開するのは、ミレニアル世代の女性に向けたキャリアスクール「SHElikes(シーライクス)」だ。Webデザインやマーケティング、ライティング、広報・PRなどあらゆる専門スキルが学べるコースは全27種類。自由にコースを組み合わせて複合的なスキルを身につけられるため、必ずしも受講時にやりたいことが決まっている必要はないという。
SHEは2019年9月にブランドをリニューアル。時間や場所を気にせず学べるよう、レッスンはすべてオフラインからオンラインへ移行すると共に、目標や学習計画を作成するコーチングや、レッスンや課題で生まれた疑問を解消する“もくもく会”、また、業界の第一線で活躍するクリエイターのリアルな声が聞ける特別イベントをすべて定額料金内で受講できるようになった。さらに2021年には美容スクールの「SHEbeauty(シービューティー)」、マネーについて学べる「SHEmoney(シーマネー)」など新事業もスタートさせた。
リブランディング以降、会員数を大きく伸ばすなど急成長を続けるSHE。なぜ、SHEはミレニアル世代の女性に熱狂的に支持されるのか。
それは、SHEが単にスキルを身につけるだけのキャリアスクールではなく、確固たる世界観を持ったコミュニティだからだ。
「私たちは、女性が抱える固定概念を壊したいと考えています。たとえば、『30代になるとなんとなく新しいことにチャレンジしづらい』と思っている人もいると思います。決してそんなことはないのに、周りから言われることで『そういうものなんだ』と思い込んでしまう。これが固定概念です」(松尾氏)
もちろん、固定概念にとらわれるのは女性に限らない。しかし、特にキャリアという面に関しては、男性よりも女性の方が多くの固定概念に縛られてきたことは間違いない。「もう30代なんだから○○しないと」「もうママになったんだから○○しないと」「女性なんだから○○しないと」――そういった固定概念は、人生のあらゆる場面で女性を縛り付けてきた。
SHEが掲げるビジョン「一人一人が自分にしかない価値を発揮し、熱狂して生きる世の中を作る」は、そうした固定概念にあふれた世界への挑戦状だ。SHEで学ぶことで、受講者はスキルを身につけられるだけでなく、同じく志をもった仲間と出会い、夢を語っても否定されない場所を手に入れられる。これまで自分が抱えていた無意識の呪縛を解き、自分らしい生き方の扉を開けられるのだ。だからこそ、SHEは多くの女性に強烈に支持されるのである。
自分自身は何に熱狂するのか - 多様な働き方を目指すSHE
SHEが打ち出すビジョンは、同社で働くメンバーにも浸透している。現在、同社ではリモートワークがメインで、月1回の総会を除いて全員が顔を合わせる機会はほとんどない。それでものエンゲージメントはまったく落ちておらず、従業員満足度はむしろ上がっているという。リモートワークを導入した企業の多くがエンゲージメントの低下に悩まされているのとは対象的だ。
その理由は、会社としての徹底的なサポートにある。たとえば福利厚生では、「Hello! Babyプログラム」を導入。つわり休暇や出産一時金の支給、ベビーシッター補助など、大企業と同等以上に充実した制度を用意している。しかも、これだけで終わらないのがSHEのユニークな点だ。
「まずは子どもを“産む”“産みたい”という選択をした社員に向けた制度を用意しましたが、今後は“産まない”という選択した社員に関しても制度をつくっていく予定です。私たちが大切にしているのは、多様な働き方であり、どんな選択をした人であっても生きづらくなってはいけないと考えているからです」(松尾氏)
また、マインド面にも深くコミットしていくのがSHE流だ。同社では「自分がやりたいと思うことに対する熱狂を生み出す源泉となるもの」を“最高価値”と呼び、「熱狂の弊害になる心のとらわれ」を“呪い”と呼んでいる。これらは自分では気づいていないことも多く、知らずしらず呪いにとらわれた状態が続いている人もいるという。そこで同社では、入社から2ヶ月のタイミングで研修を行い、固定概念の自覚とそこからの脱却を図っているという。
企業の新人研修としては、かなり珍しい内容だろう。そこには、「固定概念からも会社からも自立した1人の人間として生きてほしい」という会社の思いがあるのだそうだ。
「SHEにおける人事ポリシーは『自分の人生の手綱を握り、最高の価値を発揮し続ける』ことです。自分の人生の手綱を握るとは、会社に手綱を握られていないこと。SHEに所属することや、会社に認められることだけが価値なのではなく、自分自身が大切にしているものの1つとしてSHEがあることが重要なのです」(松尾氏)
同社のような働き方について、松尾氏は「すごく令和的だと思う」と話す。現代はもはや1つの会社にずっと所属する時代ではない。自分らしく生きていくための手段として、ビジョンがマッチする会社を個々人が選ぶ時代だ。その際、不本意な選択をしないためにも、自分自身が本当は何に熱狂するのか、無意識のうちに固定概念にとらわれていないかといった内省が重要になるのだ。
最後に、SHEが今後さらなる成長を遂げるにあたり、どんな人材を求めているのかを聞いた。
「SHEは多様な価値観を大切にしていますが、多様性を守るためにも求める人物像を置いています。それが“しなやかに熱狂する人”です。具体的には、当事者意識と本質的思考力、他者への思いやり、しなやかさ。この4つの要素を持つ人とは、ぜひ一度お話してみたいですね」(松尾氏)
固定概念を壊し、自分らしく生きること。SHEが掲げる世界観は、ミレニアル世代やZ世代が主役となるこれからの時代にこそふさわしいといえるだろう。