人は、スネ夫になりたい瞬間がある
「このラジコン、パパに買ってもらったんだ」から、「悪いなのび太」までの一連の流れを観ながら、私たちはスネ夫が自慢をする姿を笑い、のび太が意地悪される様子にカタルシスを得ます。
人は『ドラえもん』を観ながら、自分のことは完全に棚に上げているわけです。のび太ほど情けなくもなければ、スネ夫のようなみっともない自慢なんか自分はしないぞ、と。まあ、もしも観ながら「自分もああならないように気をつけなきゃ……」といちいち反省していたら、どちらかと言うと今すぐやめていただきたいですけどね。そんな国民的アニメ、やだよ。
でも、ですよ。人は、スネ夫になりたい瞬間がある。誰にだって覚えがあるはずです。もうかれこれ20時間以上起きっぱなしだわー自慢(いわゆる“寝てない自慢”)、血圧がどれだけ低いか自慢(80/40あたりで競っているケースが多い)、テレビ見ない自慢、メジャーなものにあまり興味ないし自慢(「『あまちゃん』? 一回も見なかったヨ」等)、あの人が有名になる前から知ってたし自慢。
そして自慢シリーズで言えば忘れちゃいけないのが、ナンパされた自慢。これね、すごく夢があるんですよ。一度でいいから、「今日なんかやたらナンパされるんだけどー」って言いたい、何なら、「悪いなのび太、このナンパ3人用なんだ」の一つや二つ言ってみたい、と、思い続けてきました。
口に出してはいけない「ナンパされた自慢」
私が、この「ナンパされた自慢」はおいそれと口に出してはいけない類のものだと思い知ったのは、以前友人(元読者モデル・滝川クリステル似)と話していたときのことです。
友人「お笑い芸人のIとMと合コンしたことがあって」(※IもMもどちらもレギュラー多数な大物)
私「おお……、読モやってるとそんなつながりが」
友人「いや、ナンパだよ。麻布あたり歩いていると、結構芸能人にナンパされるじゃん?」
この、「じゃん?」とね、精一杯戦いました、私は。「あ、ナンパ? ナンパなら俺の隣で寝てるよ?」くらいの心づもりで、ぶつかっていきました。でももう、ナンパされるのなんてコンビニのおにぎりを買うくらいの頻度です、と言わんばかりの彼女を見て、「ナンパ自慢」の意味するところを思い知ったのでした。
寝てない自慢も低血圧自慢も、したところでたいした実害はありませんが、ナンパ自慢だけは、自分の力(モテる)を誇示しようとしたつもりが、皮肉にも自分が小物(滅多にナンパされない)であることが露呈してしまうという、呪われし自慢なのです。
ナンパされ自慢をする女子……
この、ナンパされ自慢をする女子に街で遭遇するのはそう珍しいことではありません。昨今ではSNSでもしばしば見かけます。誰もが認める美人ほど、自撮り写真をネット上にアップしない、という説とも構図が似ていますが、ちやほやされてこなかった人ほど、ナンパ自慢などの自己演出に走りがち。
先述の滝川クリステル似の友人にとってのナンパが"毎日のコンビニのおにぎり"なら、ナンパ自慢をする人たちにとっては、ちょっとした炊き出しです。飽食の先進国と、食糧難の途上国くらい差があります。冴えない思春期を送り、ナンパされない=魅力がない、と結びつけてしまってきた女子にとって、珍しくナンパされると、ちょっと一山超えたくらいの気持ちになるわけです。
最後に、かつて私も、「今日歩いていただけで8回もナンパされた」と自慢したことがあったのを、ここに懺悔して締めたいと思います。本当は8回中7回がティッシュ配りで、1回がキャッチです。
<著者プロフィール>
朝井麻由美
フリーのライター・編集者。主なジャンルはサブカルチャー/女子カルチャーなど。体当たり取材が得意。雑誌「ROLa」やWeb「日刊サイゾー」「マイナビニュース」などでコラム連載中。近著[構成担当]に『女子校ルール』(中経出版)。Twitter @moyomoyomoyo