【あらすじ】
コマガール――。細かい女(ガール)の略。日々の生活において、独自の細かいこだわりが多い女性のこと。細々とした事務作業などでは絶大な力発揮をするが、怠惰な夫や恋人をもつとストレスが絶えない。要するに几帳面で神経質な女性。これは世に数多く生息する(?)そんなコマガールの実態を綴った笑撃の観察エッセイです。
いきなりで恐縮だが、10月上旬に僕の新刊小説が発売される。タイトルは『虎がにじんだ夕暮れ』(山田隆道 / PHP研究所)。1980年代~00年代の大阪を舞台に、熱狂的な阪神ファンのパワフルじいちゃんと少し頼りない孫の少年、そして二人が暮らす三世代家族の18年間にも及ぶ「ある悲喜劇」をリアルに描いた、涙と笑いの家族小説……のつもり。今回はハードカバーを予定しているため、気合いの入り方が違う。はっきり言って、自信あります。家族の物語なので、日本人ならどなたでも楽しめるはず。あ、すでにアマゾンで予約が始まっているみたいー。露骨でごめんなさい。
さて、その小説の中でも夫婦の関係や恋愛の悲喜交々をたっぷり詰め込ませていただいた。こういう恋愛・結婚をテーマにした連載をやらせていただいているのだから、当然といえば当然だ。やはり男女の関係は、何を切り取ってもおもしろい。
特に最近の僕が関心を寄せているのが、夫婦間のパワーバランスについてである。要するに、夫と妻のどちらが上に立つかということだ。夫婦関係とは、このいずれかのパワーバランスによって成り立つことが多い。「亭主関白orカカア天下」ということだ。
僕と同じ男性にしてみれば、そりゃあ圧倒的に亭主関白のほうが好都合だろう。特にまだまだ遊びたいさかり(浮気という意味ではないよ)の20代~30代の男性にとっては、奥様の尻に敷かれるような、いわゆるカカア天下になってしまうと窮屈でしょうがない。結婚後もそれなりに友達と夜遊びしたり、時にはキャバクラぐらいには行ったり、そういう自由を満喫しようと思ったら、奥様との亭主関白関係を築くしかないわけだ。
ちなみに昭和を代表する名俳優・勝新太郎(故人)は中村玉緒という良妻がいながらにして、その妻に堂々と浮気を公認させていたという。中村玉緒曰く、いくら勝新太郎が外で浮気をしようとも、最終的に自分のところに帰ってこればいい、だとか。なるほど、これぞまさに「男は船、女は港」の考え方である。大海に船出して、色んな島(女)に立ち寄ってくるのはいいが、あくまで帰ってくる港は奥様ということだ。
確かにこういう亭主関白関係はうらやましい。健康的な男性なら、浮気とまではいかなくても、せめてキャバクラぐらいは奥様に容認させたいところだろう。なお、これはあくまで一般論です。僕が遊びたいというわけではありません。
さて、そんな亭主関白関係の築き方だが、ここで大切なのは奥様と結婚した当初のころである。初期段階で夫の権利を妻に大きく認めさせる。要するにこれは、男女の権利を巡った陣地取り合戦みたいなものであり、その戦いに勝つためには最初が肝心なのだ。
具体策としては、まず目標設定である。たとえば「キャバクラくらいは妻に認めさせたい」などと、夫が最低限勝ち取りたい陣地(権利)を心の中で明確にしておくことだ。
そして、いざ勝負である。その目標を設定したうえで、それよりもはるかに「ランクが上の傍若無人な行為」を、あえて妻に平然と宣言してみるわけだ。
「今度、友達から風俗に付き合ってくれって誘われているから行ってくるね」
自分で書いておいてなんだが、さすがに無茶苦茶な発言である。これを容認してくれる妻は、世の中にそういないだろう。したがって、奥様が「なにわけのわかんないこと言ってんの? ダメに決まってんじゃん」などと冷たく言い放つことは想定の範囲内だ。それに対して夫は「わかったよ。おまえのために断わるから」と素直にしたがえばいい。ここでの目的は、奥様の脳裏に「旦那を束縛した」という記憶を刻んでおくことだ。
さらに、あえて奥様をほったらかしにして、男友達と連日飲み歩いてみるのもいい。当然、奥様はだんだん不機嫌になり、やがて「ねえ、あたしをほったらかして友達とばっかり飲みに行くってどういうことよ!? 」と抗議してくるだろう。
そこで、夫はまたも渋々了承すればいい。
「わかったよ。おまえのために友達付き合いを控えるようにするよ」
つまり、こういう「奥様のクレーム→夫の了承」を何度か繰り返していき、奥様の脳裏に少しずつ「夫を束縛すること」に対する罪悪感を植えつけていくわけだ。
そんなある日、タイミングを見計らって、奥様にこう切り出してみる。
「最近友達に厭味言われてるんだよね。結婚してから付き合いが悪くなったって。今度もみんなで風俗行こうって話があって、俺は断わったんだけど、なんか空気壊してさー」
しかし、それでも奥様は風俗を許せるわけがなく、憮然とした表情を浮かべることだろう。そこで、最後の大勝負である。奥様に対して「わかってるよ。風俗なんか行くわけないじゃん。けど、キャバクラぐらいはいいだろ? 」と本来の目標を打診するのだ。
すると、どうだ。今まで風俗の話ばかりしていたため、奥様の中でのキャバクラのハードルが著しく下がり、「まあ、それぐらいなら」とついついキャバクラを容認してしまう可能性が高くなる。えっ、そんなわけないって? いやいや、一回試してみてください。
つまり、初期段階で奥様の夫に対する一般的な束縛基準を崩壊させ、そこに新たな束縛基準を上書きすることが、理想的な亭主関白関係を築くうえでは重要なのだ。
<作者プロフィール>
山田隆道(やまだ たかみち) : 作家。1976年大阪府生まれ。早稲田大学卒業。おもな著作品に『雑草女に敵なし!』『Simple Heart』『阪神タイガース暗黒のダメ虎史』『彼女色の彼女』などがある。また、コメンテーターとして各種番組やイベントなどにも多数出演している。私生活では愛妻・チーと愛犬・ポンポン丸と暮らすマイペースで偏屈な亭主。チーが几帳面で神経質なコマガールのため、三日に一度のペースで怒られまくる日々。
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山田隆道公式Twitter
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作 : 山田隆道
定価 : 850円