「京都の奥」というと、人によっては舞鶴とか丹後半島とかを思い浮かべてしまうかもしれません。それは「奥」というか、むしろ「日本海側の玄関」ともいえるんですが……。そういうのではなくて、「京都の奥座敷」というと、やっぱり貴船や鞍馬ですよね。
JR京都駅や京都タワーのあるあたりから、車だったら北へ30分も走れば着いてしまう距離なんですが、けっこう山深い雰囲気のある、なかなか静かないいところです。
秋に魅力が増す叡山電車、アニメとコラボも展開中
鞍馬へは叡山電鉄という、じつに趣深いローカルな私鉄が通っています。1両もしくは2両編成の電車が、京阪電車と接続する出町柳駅から北へ走っているのです。そして宝ヶ池駅で、線路は叡山本線と鞍馬線に分かれます。叡山本線は、「本線」という名前が付いているのに宝ヶ池駅から先は2駅しかなく、八瀬比叡山口駅で終点です。一方、鞍馬線はそこから9駅続いて、鞍馬駅が終点です。
鞍馬というと、昔から天狗が住んでいるところとされてきました。駅に降り立つと、左右から山が迫り、本当に天狗がいてもおかしくないというか、むしろ「昔は当然天狗くらいいてたでしょ」っていう感じの場所です。それくらい自然の世界なのです。ただし、京都の自然は人を拒絶するような「大自然」ではなくて、「人も住んでいいよ」っていう優しさを漂わせる「中自然」な雰囲気があります。
ところで、筆者はよく知らなかったのですが、叡山電鉄沿線を舞台にした『有頂天家族』というアニメが放映されていたそうで、鞍馬駅の駅舎の横に保存されているデナ21形の車両が、不思議な笑い顔になっていました。劇中に登場する「偽叡山電車」仕様にデコレーションしたとのことでした。
叡山電鉄ではいま、『有頂天家族』のラッピング列車も走っています。ただ、ラッピングといっても思ったより地味なもので、ヘッドマークと、あと窓にキャラクターがいる程度で、よく見ないとわからないかもしれません。
鞍馬線の市原~二ノ瀬間は、線路脇の紅葉がきれいな区間です。毎年、紅葉シーズンになるときれいにライトアップされ、列車もゆっくり通過してくれます。
筆者も去年の秋、京都の仕事の帰りに、これに乗りに行きました。それはもう、列車ごと異世界に入り込んだような、なんとも例えようのないすばらしい眺めでした。そして確信しました。「このあたりには、人ならぬなにかが棲んでいる」と。でもそれは別段怖い「なにか」ではなくて、いままでもこれからも、この地域を人々とをうまくシェアして暮らしていく「なにか」なんだろう……なんて。
さあ、これからいよいよ秋も本番です。夜が長く、物思う季節。京都に来たら、ちょっと出町柳駅から鞍馬駅まで、片道420円の「異世界の旅」を楽しんでみてはいかがでしょうか?