年間、200万円ほどの出費と覚悟すべき私立。一方、約10万程度で済む公立。その違いとは……??

今回は私立小学校(以下、私立)と公立小学校(以下、公立)の違いについて見ていきましょう。今回、国立小学校に関しては、入学者数のボリューム感に加え準備や対策は私立とほぼ同じなため、割愛させていただきます。

私立に通う児童は全国でもわずか1.2%です。私立は定員が決まっており、公立のように入学者数に合わせてクラス数は調整しません。少子化に伴って割合としては上がってきていますが、いずれにせよ少数派であることは確かですね。

私立は「年間200万円の出費」

では、なぜ私立に通わせる家庭が少ないのかといえば、それは経済的な理由が一番でしょう。公立の授業料が0円なのに対し、私立は年間約50万~80万円と大変高額です。加えて、制服や文房具等の指定用品代、給食費、設備維持費、交通費等々、学校生活に関わる全ての費用を織り込むと、公立が年間約10万円なのに対し、私立は100万~150万円程度。さらに記念行事や新館建造などに伴う学校への寄付が習慣としてあるので、年間150万~200万円は覚悟しておいたほうがいいでしょう。

これほどの経済的負担が必要になると、まずはご家庭の経済状況に多少なりとも余裕があることが必要となります。共働きのご家庭は経済基盤が安定しているケースが多く、この高額な教育費を「払える」か「払えない」かの2択の場合、「払える」ご家庭も多くなってくるかと思います。

しかしながら、「小学校からそんな高額な教育費を払う意味があるのか。小学校は公立で中学受験をすればいい」と思われるかもしれません。「意味」の面は後述するとして、例えば小学校は公立で中学を受験した場合。テレビCMを打っているような大手中学受験塾に通うと年間約100万円はかかるので、小学校6年間での支出差は、それほど大きなものではありません。そして、子どもへの負担や余暇でできるプライスレスな経験を勘案すると、差はもっとなくなるように思います。また、小学校受験は親の努力で相当底上げできるのに対し、中学以降の受験は子ども本人のやる気と実力によるところが大きく、ご家庭の理想を実現しにくくなっていくのも事実です。

そして、高額な教育費の「意味」の解説です。確かに公立と私立では授業料に大きな差がありますが、これは一体何の差なのでしょうか。

それはずばり「環境」です。まず、私立は独自の教育理念を持っている点が公立との最大の環境差となります。これは学校ごとに全く異なるものですが、公立の「国家・社会の構成員としてふさわしい最低限の基盤となる資質の育成を受ける権利を保障する」(文部科学省「義務教育の目的」より)ことに加えて、創設者の教育に対する熱い思いにのっとって文化的要素を強く盛り込んでいたり、宗教に基づく精神的鍛錬の場を設けていたりと、プラスαが多いです。ちなみに、いかに独自の教育理念とは言っても、学校法人である以上、文部科学省の定める基本的な教育内容に関しては網羅されているので、学習内容関しては心配される必要はありません。

先生を取り巻く環境の差

また、公立と私立では先生を取り巻く環境も全く異なります。どちらも教職員免許という国家資格を持った先生ではありますが、地方公務員である公立の先生に対し、私立の先生は特定の学校法人に就職した従業員。私立は学校法人で会社。教育理念に合致しないことはできませんし、実績と評判が収入に影響します。私立には転勤がないことがほとんどなので、実績が伴わず、評判が悪ければ退職以外に逃げ道もありません。こういった緊張感は、私立の先生独特のものと言えるでしょう。

もちろん、公立の先生にも日々緊張感を持っていて、熱血で一生懸命子どもたちと向き合おうと努力を怠らない方々もいます。ただ、公立の難しさとして、様々な親御さんがいる点が挙げられるかと思います。教育熱心な親御さんがいる一方で、「とりあえず義務だから通わせている」と、学力には何の価値も見いだしていない親御さんもいる。そんな環境下で、かつ、やらなければいけない努力は私立より幅広いため、教師としてのモチベーションを保つのは大変なことです。教育に価値を見いだしていてそれなりの金銭を払い、学校の方針に従う意思のある家庭だけが集まっている私立とは、先生に求められる内容が全く違うのです。

さらに、もう一つ大きな「環境」といえるが在校生の目標レベルです。小学校から私立に通わせようと早くから教育の重要性を認識している家庭は、就学とは当然大学までと思っていたり、道は自分で切り開くものだと思っていたりと、子どもに求める社会的能力が高いことが多いです。同じ学校で切磋琢磨する友達がみんな大学に行く、みんな高いレベルで就業する……。そんな環境にいると、無意識に「自分もそのくらいはするものだ」と思い、それに伴う努力は苦でなくなるのです。これは中学受験をする場合でも同じことが言えます。もちろん、私立に通う子ども全員が家庭の希望通りに育つわけではありませんが、みんなが高いレベルを目指す環境におくことは、経済的に支援してあげられるのなら、子どもの将来に対する手堅い投資と言えるのです。

次回は、小学校受験に必要な準備や共働き家庭でも可能かどうかについて解説していきます。

※進学率・学費に関しては、「文部科学省平成26年度『子供の学習費調査』の結果について」を参考

※画像は本文と関係ありません。

著者プロフィール

小学校受験向け幼児教室「クラリティー・キッズ」主宰
五島 真知子
自身が小学校受験を経験し、大学までの私立一貫校を卒業。
大学時代に縁あって小学校受験塾(クラリティー・キッズ前身)で4年間アルバイトとして従事。
大学卒業後は伊藤忠商事に総合職として約11年間勤務するも、結婚・出産・事故による負傷を経て退職。学生時代にアルバイトをした小学校受験塾の前オーナー引退に際して事業を継承し、現職。
何事にも果敢に挑戦する意欲を持ち、目標を達成する為の努力を楽しむ心意気を持った輝く子どもを育成するため、教材作成から指導まで広範囲の指導を行う。
※2015年度合格実績(順不同)
慶応義塾幼稚舎・慶応義塾横浜初等部・立教小学校・早稲田実業学校初等部・東洋英和女学院小学部・聖心女子学院初等科・東京女学館小学校・東京都市大学付属小学校・洗足学園小学校・カリタス小学校・精華小学校・目黒星美学園小学校・桐蔭学園小学部