世界の男性にナンパ術とデート術を伝授するジュリアン・ブランクなるアメリカ人が、世界中から非難を浴びている。とりわけ日本人の女は、白人であれば誰でも簡単にヤレる。ポケモン、ピカチュー、トモダチの3つの言葉さえ口にしていればいい、というのが、そのすご腕のナンパ術であるらしい。日本ではその入国を巡って、3万8,000人もの署名が集まったそうな。どっちもどっち、ヒマだよねぇ。
もっとも誤解を恐れずに言うなら、まったくのデタラメではないなぁ、と感じたのは、はたしてボクだけだろうか? おそらく本国では相手にされないであろう外国人が、この日本には多いのもまた事実だ。そして、そうした輩が、夜の歓楽街で日本人の女の子に、かなりモテていると感じるのは、これまたボクのヒガミというものだろうか? まぁ、そんな尻軽の女の子に、興味はないのでいいのだけれど……。
それにしても、ここで怒らなければいけないのは、大和撫子ではなく日本男児だと思う。同胞の女の子がバカにされているからではない。同胞の女の子がピカチュー、ポケモンと叫ぶ、白人ならぬ白痴男に日本女性が熱をあげ、蹂躙されているのだとしたら、それは日本男児が白痴男より下に見られていることに他ならないからである。
今から20年近く前だったか、輸入牛肉を食べようというテレビCMがあり、そこで若い男女が演じた会話が今でも耳に残っている。
女「なんでアメリカの牛肉っておいしいんだろ?」
男「しょうがねえだろ、アメリカなんだから」
あまりに富んだ機知に、思わず笑うことすら忘れたが、当時、外車の中古車に乗り、外国製の万年筆を使い、味などわかりもしないクセにワイン通を気取っていたボクに、もはや笑う資格などなかった。ポケモンにピカチューにトモダチは、20年前のボクにとってベンツにモンブランにブルゴーニュであり、今回、白痴ナンパ師にバカにされた日本の女の子は、いやはや西洋文化を盲目的に信仰していた20年前のボク自身ではなかったろうか?
日本人には日本人らしさがある。そんな当たり前のことに気がつくのに幾星霜。そして日本人らしさこそ、実は国際社会に通用する唯一の日本人のアイデンティティである。前出の同じ時期、サッカー元日本代表のラモス瑠偉が、日本の若者に向かって、「日本人ならお茶漬けだろ!」と叫んでいる永谷園のCMがあったが、こちらも素直には笑えなかったが、溜飲が下がった思いがしたのも事実である。
まぁ、そんなことはどうでもいい。日本人らしさとは何か? それも女にモテる日本人らしさとは? まったくもってつまらないことを書いて顰蹙ものだが、やはり日本人たる者、誠実さと勤勉さ、それと忍耐力ではないだろうか。
そもそも日本人がピカチュウ、ポケモン、トモダチの3語を操って、女の子をナンパしていたら、それこそ噴飯モノである。そんな愚かなことは、西洋の白痴にやらせておけばいい。それについていくような女は、そんなもの日本人であっても、我らが愛する大和撫子ではない。どうぞ、どうぞ、ヌシらにくれてやろう。
さてさて、そう言いながらいま、六本木のキャバクラでは、ボクの目の前で信じられない光景が繰り広げられている。日本人らしく誠実さと勤勉さでここ数カ月通いつめ、どんなに袖にされても忍耐力で貢ぎ続けたキャバ嬢が西洋系の外国人の席につき、こともあろうか……。
そうそう、日本人らしさをもうひとつ忘れていた。それは、痩せ我慢の美学である。だからボクはナニもなかったかのように、「おあいそ」と叫ぶと、法外な金額をそっとレジに置いていくのであった。
日本男児がなめられる理由が、そこにはあった。
本文: 大羽賢二
イラスト: 田渕正敏