2019年、中国でNANDを生産する巨大な量産工場が立ち上がろうとしているが、その詳細はベールに包まれたままだ。そんな中、ISSM 2018において、中国の国策半導体ハイテク投資企業である清華紫光集団傘下のYangtze Memory Technology(YMTC、中国名は長江存儲科技)のCEOであるSimon Yang氏が「先端NANDフラッシュメモリ製造に向けたいくつかの技術的、ビジネス的考察」と題した基調講演を行った。

YMTCの親会社である清華紫光集団は、英語ではTsinghua Unigroupと言い、清華大学グループという意味である。習近平主席が卒業した清華大学が所有する国策ハイテク投資集団で、YMTCにも投資しているほか、中国の代表的ファブレスであるRDA microelectronicsやSpreadtrumなどを次々と買収して傘下に置いている。同集団は、かつて米Micron Technologyや東芝メモリの買収を模索し、Western Digitalにも資本参しようとしたが、政治的圧力で失敗に終わっている。

Spansion向けにNORを製造していたXMCが出発点

YMTCは、中国の国策半導体ハイテク企業である清華紫光集団と、中国政府(国家集積回路産業基金)、湖北省政府(湖北集積回路産業基金)、武漢市地方政府の共同出資により武漢市に2016年7月に設立された3D NANDメーカーである。

発足当時の英語社名はYangtze River Storage Technology(YRST)であった。Yangtze Riverとは揚子江(長江)のことで、武漢市が揚子江沿いにあることに由来する。

YRSTの前身は、2006年に同じ武漢市で創業したXMC(Wuhan Xinxin Semiconductor Manufacturing:武漢新芯集成電路製造)で、同社はレガシー製品を扱うファウンドリとして米SpansionからNORの受託製造を受けていたほか、さまざまなな半導体企業からの受託製造を請け負っていたが、2014年に3D NANDの開発を開始した。始めは9層のNAND評価チップの試作からであったが、NANDの将来性に目を付けた清華紫光集団がXMCを買収し、NAND部門を独立させてYMTCを誕生させた。

Yang氏は、新会社設立と同時にXMCからYMTCに移ってCEOに就任した。YMTCはその後、32層品の試作にも成功し、2019年内にも量産を開始する準備をしているほか、2018年には64層3D NANDもテープアウトしており、試作を解し段階にあるという。

3D NAND製造実現に向けた3つの技術/ビジネス的課題

Yang氏は、米Intel、SMIC、Chartered Semiconductor(現 GlobalFoundries)を経て、2012年にXMCのCEO、2016年にYMTCのCEOに就任し、現在は、3D NANDの事業化に注力している国際派の経営者である。

そんな同氏は「NANDのビット需要は、2020年までに2015年比で10倍の861エクサバイトに達する見込みで、その主たるけん引役はSSDを使うコンピューティングと組み込みメモリ搭載のモバイルフォンである。NANDのメモリセルを高密度化するため3次元化が主流になっているが、3D NAND製造には3つの技術・ビジネス的課題がある」として、次の3点を指摘した。

  • NANDのメモリセルアレイ部分とCMOS周辺回路部分のプロセスの共通部分の割合が高層化につれてどんどん少なくなってしまうため、製造コストが増す。

例えば、64層の共通プロセスは25~30%、96層では17~25%、128層では15~20%という具合である。さらに、NANDのメモリセルアレイ部分の繰り返しの高温処理により、CMOS周辺回路が劣化してI/O速度が落ちてしまって高速性が得られなくなっているという深刻な問題もある。

  • 高層のNANDメモリセルアレイ部分と低層のCMOS周辺回路部分との高低差がますます大きくなりストレス発生の原因となっている。128層では高低差は7nmにも達する見込みだとする。
  • 3D NANDの高層化

    3D NANDの高層化でメモリセルアレイとCMOS周辺回路の高低差は拡大の一途を辿ることとなる (出所:YMTC)

  • 3D NANDの層数が増えるにしたがってNAND製造のサイクルタイムが長くなるため、Time-to-Market(市場へのアクセス時間)も長くなりビジネスに悪影響を及ぼす。

YMTCがこれらの問題を解決するために打ち出した策は、これまでの常識とは異なるものとなっていた。次回は、その詳細について説明したい。

(次回は1月31日に掲載します)