ISSM 2018では、このほか、15年後の半導体デバイス技術および半導体製造を示唆する基調講演が2件あったので、この連載の最後として紹介したい。

ロードマップで見る15年後の半導体デバイス技術

米国電気電子技術者協会(IEEE)が主宰するInternational Roadmap for Devices and Systems(IRDS)の日本支部ともいえるシステムデバイスロードマップ委員会(System Device Roadmap Committee of Japan:SDRJ)座長の林喜宏氏(ルネサス エレクトロニクス)が、新しい半導体ロードマップについて説明した。

従来のロードマップ(International Technology Roadmap for Semiconductors;ITRS)は、微細化を出発点としてボトムアップで構築していたが、新しいロードマップは、将来のコンピューティングのあるべき姿を出発点としてトップダウンで構築することに大きく方針を変更している。

林氏は「スマート社会インフラに対応したポストノイマン型コンピュータアーキテクチャおよびポストムーア型半導体デバイス(縦構造FETや新材料、BEOL、不揮発メモリ/スイッチ)などの導入を想定し、『情報処理コンピュータアーキテクチャ(ソフトウェア)』、それを構成する『半導体デバイス/プロセス技術』、さらに、『半導体材料・製造技術』に関するロードマップを横断的に議論しているところである」と述べた。

IRDSでは、15年後までの半導体技術の予測をすることになっており、その最新版(2017年版)を以下の図に示す。ロジックデバイスのロードマップを見ると、プレーナ構造からFinFET構造に替わっているが、これが5nm技術ノードからは、ゲートオールアラウンド(GAA)構造(MOSFETのソースドレイン間のチャンネルをゲートがくるむ構造)に替わるとIRDSは予測している。FinFETは、3方向からゲートを囲んでいるので、一部ではTri-gateとも呼ばれているが、横型GAA構造(LGAA)は4方向からゲートを囲んでいる。これとは別に縦型GAA構造(VGAA)も検討されている。

林氏によると「このGAA構造も2027年にゲート長が7nmに達する2.1nm世代でそれ以上の微細化は困難になる。その後は、薄膜状の異種のLSIを垂直に積層してゆく3D LSIにとってかわるだろう。微細化は終焉を迎えるにしても、3D LSIの多層積層で集積化はさらに継続する」という。

DRAMの微細化に関しては、2030年までは続き、配線の1/2ピッチは7nmに達したあたりで微細化の限界を迎えるとIRDSは予測している。1チップ当たりの記憶容量は現在の8Gビットから32Gビットまで増加するだろうが、微細化の限界によりそれ以上は増加できないという。

NANDに関しては、3次元化により、微細化はすでに1/2ピッチ=15nmで止まっており、これは2033年まで変わらないだろう。3D NANDの層数は、現在主流の64層から継続的に、96層、128層、192層…と増加を続け、2033年には512層以上の超高層になるとIRDSは予測している。15年後には、このような半導体デバイスを製造することになるわけだ。

  • 2033年までの半導体技術ロードマップ

    15年先の2033年までの半導体技術ロードマップ (出所:IRDS2017/SDRJ)

林氏は「クラウド、モバイル、IoTエッジのシステムプラットフォームは、高速モバイル通信と人工知能(AI)機能を取り込むことで今後も進歩を続けるだろう。高速モバイル通信とAI実用化には、低消費電力・高効率コンピューティングの開発が必須であり、そのための半導体チップを開発することが期待されている」と述べて話を終えた。

AIの活用で15年後の半導体工場はどうなるか?

もう1つの講演は米Western Digitalのメモリー開発・生産技術担当シニアバイスプレジデント 兼 ウエスタンデジタルジャパン プレジデントの小池淳義氏が「インテリジェントな半導体製造をさらなる飛躍に向け前進」と題して行なったものだ。

  • ISSM 2018

    ISSM 2018で講演を行なう小池氏と会場の様子

同氏は、かつて日立製作所勤務中に、バッチ式製造装置中心の半導体製造ラインに対し、可能な限り枚葉式製造装置を使って特急ロットを流す方式を考案して実行し、ISSM 1995で発表した思い出から話を始めた。

その後、日立と台湾UMCとの合弁で日本初の300mmファウンドリとなったトレセンティテクノロジーズで自ら陣頭指揮して実施した「オール枚葉プロセス」による短サイクルタイムの300mm半導体製造形態をレビューしたのち、期待を込めて今後の半導体製造形態を予測した。トレセンティでは、装置内ではすべて枚葉処理だったが、現在のすべての300mmファブと同様に、装置間はウェハをFOUPに収納してバッチ単位の搬送をしていた。

小池氏は、AIベースのインテリジェントな製造装置が登場すれば、半導体製造は飛躍的に進化するとして、「2025年には、FOUPレスで、オール枚葉搬送・オール枚葉処理が可能になり、サイクルタイムが短縮し、超特急ウェハコンセプトが現実のものとなるだろう」と述べた。自動車産業はじめ他産業ではすでにそのような製造形態をとっているのはよく知られている。

そして「2035年には1台ですべてのプロセスを処理するインテリジェントな All-in-one-chamberが登場するだろう」と予測した。参加者は、他産業では、ライン生産方式と対比して語られるセル生産方式を連想しただろう。

さらに、その先として小池氏は、核融合炉を中心に置いた円形の半導体工場を建てて、核融合プラズマが発するEUV光を用いた最先端リソグラフィ装置やプラズマを利用した成膜装置、エッチング装置を並べるような奇抜なアイデアも示して見せ、「新しい時代を担うエンジニアは、現状の半導体製造形態にとらわれることなく、新たなAIベースのインテリジェント装置をフル活用したスマートファブめざして自由な発想で半導体製造を変革してほしい」と話を結んだ。