日本の半導体製造業界や製造装置・材料業界に身を置く人々にとって、最大の関心事は新興半導体メーカーが雨後のタケノコのように続々と誕生している中国の情勢だろう。中国半導体製造業界の実態は日本にはなかなか伝わってこない。そこで、ISSMは、中国最大のファウンドリであるSMICの創業者で現在新興半導体メーカーSiEn(QingDao)Integrated Circuits(中国名は芯恩(青島)集成電路)の創業者であるRichard Chang会長と中国の国策半導体企業である清華紫光集団傘下のYangtze Memory Technology(YMTC、中国名は長江存儲科技)のSimon Yang CEOを招待し、各社の状況を語ってもらった。

新たな半導体製造モデル「CIDM」とは何か?

Chang氏は、「中国IC業界における新しい製造モデル」と題して、よく知られたIDM(垂直統合半導体メーカー)とファウンドリ(製造受託企業)に次ぐ第3の半導体モデルを紹介。併せて、それに沿って設立されたばかりの新興半導体メーカーのビジネスプランを紹介した。ちなみにChang氏は、IDMのTexas Instruments(TI)に20年ほど勤務した経験もあり、IDMにもファウンドリにも精通している人物である。

  • Richard Chang氏

    中国IC業界における新しい製造モデル」と題して講演するChang氏と会場の様子

Chang氏は、「4000億ドル以上の規模に拡大した半導体市場のうち、すでに中国市場は1/3を占める世界最大の市場(2017年時点)になっている。しかし、ICの輸入額は輸出額の4倍もあり、貿易赤字は広がるばかりである。中国はもっと半導体製造に力を入れて自給体制を確立し、貿易赤字を解消しなければならない」と前置きしたうえで、「半導体製造ビジネスの形態として、IDMとファウンドリがあるが、中国にもっとふさわしい新しい半導体製造形態として『Commune IDM(CDIM)』モデルを提案。すでに、第1号となる企業を中国内にて創業した」と述べた。Communeとはフランス語で共同、共有を意味し、共同体や最小単位の自治体という意味でも使われる言葉である。

このCIDMモデルでは、半導体設計から研究開発・製造、パッケージングおよびテスト、マーケティング・販売、最終製品組み立て受託を経て最終製品サプライヤに至る10~15の個別企業が出資したうえで、これらの出資者があたかも共同体(Commune)のように協業することで、参画者がみなwin-winの関係を築く半導体製造プラットフォームを形成する。このように寄り集まることでCIDMは、リソースを共有し、投資リスクの軽減を図ることを可能とするという。また、CIDMは、最終製品サプライヤとも協業しているので市場最重視で顧客の需要を満たすビジネスを行なっていくとする。

  • SiEnのビジネスモデル

    中国のCIDM第1号であるSiEnのビジネスモデル (出所:SiEn)

CIDMの第1号企業として設立された「SiEn」

こうしたCIDMの第1号企業となるのがChang会長が率いるSiEnである。

SiEnは2018年第1四半期に設立され、山東省青島(チンタオ)市内の40万平米の土地のうち25万平米を使って200mmファブ(生産能力は月産最大6万枚)と300mmファブ(同4万枚)を建設中だという。

  • SiEnの青島本社工場完成予想図

    SiEnの青島本社工場完成予想図 (出所:SiEn)

スケジュール的には、2019年第3四半期に試作を開始、第4四半期に量産を開始、2020年のフル生産を計画している。また、ファブのほかに、本部棟、研究棟、マスクショップ、デザインハウスなども併設する。マスクは内製するという。その後も第2期工事として、需要に応じて残りの15万平米の土地に300mmファブを2棟増設し生産能力を高める計画としている。

200mmファブ(第1期)は、月産3万枚から始め、市場の需要を見ながら徐々に6万枚まで増産する。設計ルールは0.35~0.11μmで、次のような製品を製造する予定である。

  • MEMS/MOSFET/IGBT
  • RF/ワイヤレスIC
  • パワーデバイス/電源管理IC
  • 組み込みロジックIC
  • MCU (8~32ビット)
  • アナログIC

300mmファブ(第1期)では、月産3000枚から初めて徐々に1万枚まで増やし、市場の状況に応じて4万枚まで増やす計画。第1期の製造プロセスは、90~28nmを見ており、

  • MCU(32 ~64ビット)/MPU/CPU
  • MOSFET
  • 組み込みロジックIC

などを生産する予定だという。

なお、第2期工事としては、生産能力が月産5万枚のファブを2棟建てて、14nm以下の微細プロセスに対応する計画になっている。

SiEnは、3C(コンピュータ、コミュニケーション、コンシューマ)のうちでも特にコンシューマ向け製品に力を入れていくという。特に重視する市場は自動車とIoT、 焦点を当てるデバイスはアナログ製品、MCU、組み込みプロセッサとしている。

すでに200名ほどの半導体の専門家を世界中から確保しているがその国別内訳としては、中国(本土)が65%、台湾・香港が23%、米国が9%、日本および韓国が1%である。学歴別では、修士・博士号取得者が32%、学士号以上が79%である。2019年第2四半期までに600人に増やす予定だという。海外からリクルートした人材のために高級マンションや子女用のインターナショナルスクールなどのアメニティも充実させることで、さらにリクルート活動を活発化させるという。

日本の半導体製造装置と材料に期待

Chang氏によれば、中国は、世界最大の半導体市場であるにもかかわらず、半導体そのものだけでなく、半導体製造装置や材料もまだまだ弱いという。「それに引き換え、日本の材料メーカーは世界シェアの65%以上を抑えている。前工程用材料は60%、後工程材料も77%と圧倒的なシェアだ。日本製の前工程製造装置の世界シェアは38%、後工程も42%のシェアを誇っており、日本製の装置の性能は素晴らしい。ぜひ日本半導体製造装置・材料メーカーの全面的な協力を得て、さらには優秀な人材も確保して、中国で初めてのCIDMを成功させたい」と話を結んだ。

(次回は1月24日に掲載します)