「家事も育児も家計も全部ワリカン! 」バツイチ同士の事実再婚を選んだマンガ家・水谷さるころが、共働き家庭で家事・育児・仕事を円満にまわすためのさまざまな独自ルールを紹介します。第52回のテーマは「怒りより優しさとユーモアが大事」です。

これまでのお話はこちら

こちらの連載で何度も書いてますが、我が家は「怒って言わない」「かわいくお願いする」が家訓です。家訓ですが、家訓って言わないとダメなのは、気を抜くとそれができないからですね。

そもそも日本人は要求を言う練習や訓練をするどころか、要求を「ワガママ」「自己主張が激しい」とか言って押さえ込む教育ばっかりしているから、いざ夫婦で話し合おうと思ってもうまくできないんだ……!

と、最近この話をするたびに「日本の教育が悪い」「練習してないからできなくて当たり前。練習しよう」って話をしている気がします。で、まあやっぱり幼児もなかなか「怒らずに要求を言う」っていうことができないんですよね。

怒って言うのは甘え(そう言っても相手が許してくれると思ってるから言う)なので、幼児がやるのは致し方ないのですが、それでも練習しなきゃできるようにはならないので、我が家は「怒らず言う」「かわいくお願いする」という方針でやっています。

4歳児にそれをやらせるなら、まずは大人が手本を見せなければなりません。というわけで、我が家は基本的にはガミガミ言いません。ガミガミ言わなくてもやってくれるなら……それに越したことはないんですが、そう簡単にはいかないのです……。

息子も怒らない。私も怒らないことを理想として、「かわいくお願いする」をやる前に、まず「何をしてほしいか、ちゃんと言える」ようにならないといけません。そのためには相手から「この人は自分の要望に答えてくれるのだ」という信頼を得る必要があります。

なので、私は基本的にきちんとお願いされたことは受け入れます。食べたいもののリクエストも可能な限り聞きますし、どういう状態で食べたいかも受け入れます。

そういう自分の「快/不快」が受け入れてもらえないと、何を自分が求めているかわからなくなってしまうと考えているからです。私が学生の頃「自分探し」というのが流行っていたのですが、遠くに探しに行かないと「自分がわからない」みたいな人が多かったんですよね。まだまだ昭和の否定と抑圧の教育が色濃く残っていた時代なので(今もまあ、残ってるんですけど……)、自分が何が好きで何が嫌いか、何が快くて何が不快なのかもわからない人が多かったんじゃないか……なんて思っています。

我が家では、息子が大きくなってから遠くまで自分を探しに行かなくてもいいように、今のうちから「何がしたいか」「どうしたいか」がわかるように、要望は受け入れています。そして、大人になったら、それを自分の基準として、自分で道を切り開いていってもらいたいな……と思っています。

……って、理想まではいいんですけども、母も人間なんで、さんざっぱら要求を受け入れた後さらに「○○だからゴハン食べたくない」とか言われると、「いいかげんにしろ~~!」ってなっちゃうんですよね……。

まあ、要求を受け入れたのは、こっちのポリシーによる行動なんだから、突然怒ってはいけない。いけないんだけど「まだ食べないのかよっ!」と思ってしまう。しかたない。にんげんだもの。

そうすると「怒らないで言ってよ~! いつもお母さんは『怒らないで言って』って言ってるでしょ~!」と、自分の言ったことがブーメランで返ってくるのです。ザッツライト。その通りだ。なので、そういうときは一息おいてから「じゃあ、楽しく面白く言う~~」とスイッチを入れ替えて「怒らないで言うお手本」を見せるようにしています。

我が家のお父さんは「スイッチを入れ替える」のが苦手で、こういうことがなかなかできません。なので、私が「有限実行! 自分が言ったことは、自分がやってみせる!!!」とやっているのを見ると「ほんとすごい」と褒めてくれます。褒めてください。私も頑張っています。

でも、やっぱり怒ってギスギスでゴハン食べるよりは、面白くお願いして「しょうがない、じゃあ食べるか」みたいになるほうが楽しいと思うんですよね。私は子どもに「ニコニコ楽しいコミュニケーション」をサービスしてやっているようにも見えるんですが、やっぱり自分がギスギスした環境で過ごしたくないから努力しているというほうが大きいです。

ちなみに、このマンガのとき「ネギ全部取って」って言われたのですが、さすがにやりたくなかったので「いいかげんにして!!」と怒ってしまったんですが「怒らないで」と言われてから「食べて~~~おねが~~い」と頼んだら、怒ってからのギャップがよかったのか、無事にネギ入りで食べてもらえました。どっちもハッピーな結果になってよかったです。

ちなみに、子どもの要求を聞いていると「ワガママな子になるのでは」と思っちゃう人がいるのですが、自分の育ったことを振り返ると、「最終的には自分のしたいようにする」のだと思うんです。

息子が大人になっても「必要だ」と思えば、食事するときに熱いのがイヤなら冷ましてから食べるだろうし、ネギがイヤなら最初から入れないかもしれない。自分にとって「必要」なことは、そのうち自分でやる。今はできないから代わりにしているだけ。人に強要するのは「ワガママ」ですが、自分でやる分にはただの「こだわり」ですよね。

「しつけ」として自分以外の価値観をインストールされちゃって、それに支配されると「自分がわからない」という状態になってしまうと思います。私は、自分のこだわりを大事にできない、してもらえなかった人が他人を思いやったり尊重するのは難しいんじゃないかなと思っています。なので、息子の「自分のしたいこと」を大事にしています。

息子を「怒りで支配」したくないし、息子が誰かを「怒りで支配」しないようになってほしい。

我が家はニコニコ家族になるために、日々家族全員で修行と鍛錬を欠かさないようにしています。

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著者プロフィール:水谷さるころ

女子美術短期大学卒業。イラストレーター・マンガ家・グラフィックデザイナー。
1999年「コミック・キュー」にてマンガ家デビュー。2008年に旅チャンネルの番組『行くぞ! 30日間世界一周』に出演、のちにその道中の顛末が『30日間世界一周! (イースト・プレス)』としてマンガ化(全3巻)される。2006年初婚・2009年離婚・2012年再婚(事実婚)。アラサーの10年を描いた『結婚さえできればいいと思っていたけど』(幻冬舎)を出版。その後2014年に出産し、現在は一児の母。産前産後の夫婦関係を描いた『目指せ! ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』(新潮社)、『どんどん仲良くなる夫婦は、家事をうまく分担している。』(幻冬舎)が近著にある。趣味の空手は弐段の腕前。