グローバル経済に晒されているのは、日本だけではない
日本の貧困率は16.1%。
この値は、先進諸国32か国の中では、6番目に高い数値となります。日本より、貧困率が高いのはアメリカ、イスラエル、メキシコ、トルコ、チリだけです。日本は、決して貧困が少ない国ではないのです。
「だけど、これって仕方がないんじゃない?」という声をよく聞きます。
「経済がグローバル化して、競争が激しいから、日本の貧困率があがっても、どうにもならない」そう思っている人は読者の方にも多くないでしょうか。
しかし、ちょっと考えてみましょう。
グローバル経済に晒されているのは、日本だけではありません。<図1>の国々だって、グローバル経済の影響を受けているはずです。ですが、多くの国は日本よりずっと低いレベルに貧困率をとどめています。
日本では、「再分配機能」があまり働いていない
実は、これらの多くの国は、市場所得、すなわち税金や社会保険料を払う前、また、年金や児童手当、生活保護などの政府からの給付を受け取る前の所得で見ると、日本より高い貧困率なのです。しかし、税金・社会保険料、そしてさまざまな給付を通じて、政府が介入したあとの所得、すなわち手取り所得で見ると、貧困率はずっと低くなります。このような機能を、政府の「再分配機能」と言います。
日本では、この「再分配機能」があまり働いていないために、市場所得での貧困率はさほど高くないのに、手取り所得での貧困率が高いのです。
もちろん、再分配をするために、各国の政府は多大な財源を要します。そのために、国民からたくさんの税金も取ります。しかし、結果として、貧困層の人々の生活が楽になるのであれば、と国民は納得して税金を払います。
一方、日本は再分配をするのが難しい状況に陥っています。日本の財政は、支出が収入(税金等)を大きく上回り、大幅な赤字だからです。この赤字は、国債、すなわち借金で埋めており、現在、国の支出のなんと4割が借金でまかなわれています。この借金は、いつかは日本国民が払わなくてはならないものです。政府が無駄遣いを減らす努力も必要ですが、それだけではこの借金はなくなりません。こんな財政事情の中、貧困層への「再分配」などできないのです。
日本の貧困率の高さは、日本自身の身から出た財政状況によるもの
日本の貧困率が高いのは、「経済のグローバル化」といった日本の外にある「いたしかたがない」要因によるものではありません。日本の貧困率の高さは、日本自身の身から出た財政状況によるものなのです。財政を改善するには、全国民が腹を据えて、負担を引き受けるしかありません。国民が一丸となって負担を分け合い、一番必要な人々に再分配できるように、政治に求めていくか。それとも、あきらめて、貧困と格差のはびこる社会を受け入れ、自分の保身だけに走るのか。今、国民につきつけられている問いです。
<著者プロフィール>
阿部 彩(あべ あや)
首都大学東京 都市教養学部 教授。MIT卒業。タフツ大学フレッチャー法律外交大学院修士号・博士号取得。国際連合、海外経済協力基金を経て、1999年より国立社会保障・人口問題研究所にて勤務。2015年4月より現職。厚生労働省、内閣官房国家戦略室、内閣府等の委員歴任。『生活保護の経済分析』(共著、東京大学出版会、2008年)にて第51回日経・経済図書文化賞を受賞。研究テーマは、貧困、社会的排除、生活保護制度。著書に、『子どもの貧困』『子どもの貧困II』(岩波書店)、『弱者の居場所がない社会』(講談社)など多数。