働くママ・パパにとって、とってもありがたい"保育士"の存在。できれば良い関係を築きたいと思いながらも、その関係性に不安を感じることもありますよね。この連載では、保育園の日常をつぶやいたツイッターが話題の男性保育士「てぃ先生」に、保育士としての"本音"を伺っていきます。

連載最終回は「保育業界の展望、てぃ先生の今後」をテーマにお話しいただきました。

  • てぃ先生

    てぃ先生は保育の仕事をどのように考えている?

保育士が悩む人間関係

――待機児童問題が解決しない一方で、潜在保育士は何十万人もいるとされています。資格があっても職場復帰しない原因について先生はどのようにお考えですか?

職場の環境が関係しているのではないでしょうか。保育士が仕事を辞める理由のトップ3には人間関係が入っています。

保育士にはそれぞれの保育観がありますが、お互いの考え方を尊重できる保育士ばかりの職場であれば、僕も働きやすいなと感じます。一方で、園長先生などが保育士それぞれの考えを認めていない園だと、勤めている保育士も大きく影響を受けます。

――人間関係の話が最初に出ることは少し意外に感じますが、それだと政府や都が進めているような給料や労働条件の改善だけでは、潜在保育士が戻ってこないのではないですか?

一時的には戻ってくるかもしれません。でも、人間関係が良くない園はやっぱり難しいでしょうね。

保育そのものはとてもやりがいのある仕事です。だって、人間を育てているんですよ。人間を育てるっていうことは、社会を育てるということにもつながる。その部分では、保育士はみんなやりがいを感じるのではないかと思います。

ですから、給料が安いことを一番の理由にして辞める人はあまりいないのではないでしょうか。人間関係で摩擦があったり、保育の方針が合わなかったりという理由があって、給料の安さが最後のトリガーになっているのではないかと考えています。

――園での人間関係を良好に保つために何が必要だと思いますか?

異なる考え方を広く受け入れる気持ちがあれば、本来は大丈夫だと思うんですよね。

保育観の違いで衝突してしまうというのは、裏を返せばみんなが子どものことを一生懸命考えているということです。目の前の子どもに対してベストなことをしてあげたいって思いが強いからぶつかるわけで、適当に考えていたらそもそもぶつかりませんよね。

真剣だからこそぶつかるということをみんなが認識して、それぞれの考えを認め合えればいいなと思います。

新人指導のための研修制度が欲しい

――保育士が働きやすい環境づくりのために必要となる制度や、行政に求めることなどはありますか?

新人保育士につく教育係や指導係のための研修制度があるといいなと思います。

保育士は子どもに何かを教えることは学んでいますが、後輩の指導方法は学んでいません。もともと指導が上手な人もいると思いますが、うまくいかないと人間関係がこじれる原因にもなります。

例えば、こういうときにはこうすると一つひとつ丁寧に教える人もいますが、職人の世界のように見て学びなさいという考え方をする人もいる。また、保育観を巡って意見が対立することもあるかもしれません。

――なるほど、少し誤解が生じれば、指導を受けるほうは「何も教えてくれない」「自分の意見を認めてくれない」と捉えてしまうこともあるかもしれませんね。そのほかに、今後の目標などはありますか?

保育士の仕事の価値をもっと多くの人に知ってもらいたいと思います。

いま、保育士の仕事は「子どもと遊ぶこと」だと世間の多くの方からは思われています。そして、当の保育士自身も、そうではないと思いつつ、お父さんお母さんを含めた世間にアピールできていない人が多い印象です。

  • てぃ先生

    「保育士の仕事の価値を知ってもらいたい」と語るてぃ先生

保育士は国家資格を持って保育に当たっています。でも、子どもを持つお父さんお母さんたちは資格がなくても立派に子育てをしていますよね。近所のお兄さんお姉さんだって子どもを遊ばせたり、面倒をみたりすることができる。

では、二者の違いは何でしょうか? 保育士が集まる講演会などでこんな問いかけをすると、答えられない人が意外と多い。保育士自身、自分たちの持っている保育士という資格が何なのか理解していないんです。

――保育士と保護者の違いは何でしょうか?

例えば、休日に子どもがお父さんお母さんと公園に行って一緒に走ったとします。思いっきり身体を動かして、その結果、たくさん走れるようになるかもしれません。しかも、遊び疲れてぐっすり眠るというオマケがついてきたとしたら、お父さんお母さんは少しの間手が離れてホッとするかもしれませんね。

保育士は、それとは反対の方向から考えます。基本的な脚力をつけさせたいという保育目標がまずあって、だから「きょうは園庭を走りましょう」という遊びにつながる。子どもたちの成長を見極めつつ、先の見通しをもって日々の遊びを組み立てています。

そして、さらにそれをクラスに何十人もいる子ども一人ひとりに合わせてカスタマイズし、対応や声かけができるのが、プロの保育士だと思います。

今は、知識を得ようとさえ思えば、一般のお父さんやお母さんでも、インターネットなどからいくらでも拾うことができる世の中です。その知識を技術に変えて、目の前の子どもを見ることができるかどうか、これが21世紀の保育士に最も求められることだと思います。

――保育士に求められるものも、変わってきているんですね

保育士しか持っていない技術や経験を、一人ひとりの保育士が磨いていって「保育士って遊んでいるだけじゃないんだ」ってことが広く認知されるといい。「あんなにすごい技術を持って一人ひとりにアプローチしている」と認められれば、保育士という仕事の価値が向上するかもしれない。国会議事堂の周りをプラカードを持って歩くのもいいんですが、現場の保育士だからこそ出来ることは何かなって考えて行動していきたいです。

みんなにとって憧れとなる保育園を作りたい

――将来は自分の保育園を作りたいという夢もあるとか

講演や取材を通して話してきた理念を実現させる保育園をたくさん作りたいです。言葉で伝えるだけでなく実物のモデルができたら、僕の考えに賛同してくださっている方もそうでない方も、目に見えて理解しやすいのではないかと思う。

子どもにとって良いのは当たり前で、お父さんやお母さん、そして保育士にとっても良い保育園がいいですね。「あの保育園に入れたい」「あの保育園で働きたい」と憧れを持ってもらえるようなモデル園を必ず作ります。

あとは、死ぬまでに保育士養成学校を作れたらいいなって思っています。いろいろなことがうまくいって、学校ができるくらいのお金を作れるか、あるいは出資してくださる方が見つかったらの話ですが、保育士を育てるところからやってみたい。

保育士とは何なのかということを、養成する学校自体が分かっていない可能性があると思う。保育士の仕事のうち、学校で習ったことは1%くらいだったという話を最初にしましたが、それを20%、30%と増やしていけたらいい。

保育士を目指している段階の子から考え方を指導できたら、良い保育士に育つ可能性をもっと上げられるかもしれない。子どもたちにしてあげたいこともありますが、いまは保育士や保育士のタマゴたちに働きかけたいことがたくさんあります。業界全体を前に進めて、上に押し上げたいです。

ありがたいことに、ツイッターではたくさんの方にフォローしていただいて、全国の講演に呼んでいただいたりしています。そういう自分だからこそできることは何かと考えて行動していきたいと思います。

てぃ先生

都内の保育園に勤める保育士。子どもの面白くてかわいい言動などをつぶやくツイッター(@_HappyBoy)が話題となり、フォロワー数は43万人(2017年9月20日現在)を超える。「顧問保育士」の肩書きを持ち、講演や研修の講師、保育園のプロデュースなど保育の幅広い分野で活躍している。著書に『ほぉ…、ここがちきゅうのほいくえんか。』『ハンバーガグー!』(KKベストセラーズ)がある。漫画『てぃ先生』(KADOKAWA/メディアファクトリー)のアニメもアプリ上にて配信中。